学位論文要旨



No 213379
著者(漢字) 藤岡,祐一
著者(英字)
著者(カナ) フジオカ,ユウイチ
標題(和) 流動層石炭ガス化炉のスケールアップに関する研究
標題(洋)
報告番号 213379
報告番号 乙13379
学位授与日 1997.05.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13379号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉田,邦夫
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 定方,正毅
 東京大学 教授 松本,洋一郎
 東京大学 助教授 堤,敦司
内容要旨

 世界最初の流動層石炭ガス化炉であるウィンクラー炉が1920年代に商用化され70年が経過したが,今尚流動層石炭ガス化炉の開発が続けられている。これは近年地球環境問題が顕在化し,その対策のひとつとして発電の高効率化を目的に流動層石炭ガス化炉の石炭火力発電システムへの適用が期待されているからである。我々はA-PFBCという加圧流動層石炭ガス化炉,加圧流動層燃焼炉,ガスタービン及びスチームタービンから成る複合発電サイクルによる高効率かつ低公害な石炭火力発電システムの開発を企図したが,それには流動層石炭ガス化炉のスケールアップ手法の確立が必要であった。本研究ではベンチスケール試験装置とパイロットプラントによる実験と解析を行い,石炭ガス化反応解析の新しい概念を導入し実用的なスケールアップ手法の確立を試みた。

 ベンチスケール試験装置は石炭量2〜6kg/hで,直径約10cmの加圧流動層反応器である。圧力を1.2あるいは2MPa,温度1100〜1400Kで,6種類の石炭を脱揮発反応と燃焼反応が進行する条件下でガス化実験を行った。フリーボードガスによってキャリーオーバーされない十分大きな粒径分布に調製した石炭を使用し,炭素と灰分のマスバランスの解析を行い以下の知見を得た。

 1)フリーボードガス流速を0.3m/s以下とすると,いずれの炭種でも0.95〜0.98の炭素転換率を達成可能であり,石炭供給量,ガス化温度,H2O供給量といった石炭ガス化炉操作条件によらず,図1に示すように炭素転換率と流動層排出チャー炭素量および灰量とはよい相関関係があった。フリーボードガス流速が0.3m/s以下では流動層内炭素滞留量は炭素転換率のみの関数として取り扱えることが明らかとなった。

 2)上記条件下では脱揮発反応時に発生する炭素濃度の高い微小チャーが, フリーボードガスにキャリーオーバーされて排出されるのが炭素転換率低下の主因であり,一方チャーのガス化と燃焼過程で発生する微小粒子は炭素濃度が低く,炭素転換率低下への影響は小さいと推定された。

 3)チャー炭素とCO2あるいはチャー炭素とH2Oが反応して炭素がガス化される速度をチャー合同ガス化反応速度と定義し,その値をCO,H2発生速度から取得した。その温度依存性を図2に示す。チャー合同ガス化反応速度と,従来の脱揮発反応と燃焼反応を併発させない研究で得られた既往のチャーガス化反応速度を比較した。両者の値と温度依存性の傾向は同等となった。脱揮発反応,燃焼反応はチャー合同ガス化反応速度に重要な影響を与えず,流動層石炭ガス化炉においてはチャーガス化反応がCO,H2発生速度を支配している。

図1 炭素転換率cと流動層から排出されるチャー中炭素量割合oと灰量割合oに対する関係図2 各種石炭のチャー合同ガス化反応速度の温度依存性Q1:H2+CO発生速度,Wc:流動層内炭素滞留量, Ps:H2O分圧,Pd:CO2分圧,Pu:CO分圧,Ph:H2分圧 T:温度

 石炭処理量が500〜1500kg/hで,ベンチスケールの100〜200倍体積が大きなパイロットプラント上段炉と前述のベンチスケール実験で得たチャー合同ガス化速度とCH4転換率を比較した。ベンチスケールの単位体積当たりのチャー合同ガス化速度は,完全混合を仮定して計算したパイロットプラント上段炉チャー合同ガス化速度より3〜4倍大きな値となった。チャー合同ガス化反応速度と,CH4転換率から構成する石炭ガス化反応速度を,流動層石炭ガス化炉の物質収支の計算モデルに織り込み,次の考え方を導入し,ベンチスケールデータからパイロットプラントデータの説明を可能にした。

 4)流動層の濃厚相は粒子,ガスともに完全混合,気泡相はガスピストンフローを仮定する二相モデルを適用することにより,図3に示すようにベンチスケールのチャー合同ガス化反応速度からパイロットプラント上段炉のチャー合同ガス化速度予測値と実験値がほぼ一致した。

図3 二相モデルによる予測値rcal-2とパイロットプラント上段炉実験値ryの一致図4 スケールアップ時のチャー合同ガス化反応速度rcal-2,流動層直径と高さ

 5)メタン発生速度はCH4転換率として整理することにより,装置サイズの違いにも関わらず,両者がほぼ一致した。

 以上のベンチスケールとパイロットプラントの実験結果を基づいて装置サイズ,物質収支を予測するスケールアップのためのシミュレーションモデルを作成した。その計算結果の一例として石炭処理量の増大と流動層直径と高さの関係を図4に示す。本シミュレーションモデルが流動層石炭ガス化炉のスケールアップ検討を容易に行える手法を提供できることを確認した。

審査要旨

 石炭は豊かな資源賦存量を有し、将来も主要なエネルギー源として期待される。しかし、地球環境問題が顕在化したことから、環境汚染物資の排出抑制が強く求められ、石炭を利用する火力発電所の発電効率の高効率化による石炭使用量の低減を目指した多くのシステムが研究開発されている。

 申請者はその1つとして新しい石炭ガス化コンバインドシステムA-PFBC(Advanced Pressurized Fluidized Bed Combustion)の開発に携わり、主要部である流動層石炭ガス化のスケールアップを担当した。本研究論文は基礎研究から流動層石炭ガス化炉のモデルを提出し、実用規模のプラント設計に必要なスケールアップ手法を確立して日本独自のA-PFBCシステムを実現するにいたった手法を論じたものである。

 第1章は序論であり、世界各国で進められている石炭ガス化炉の開発状況を紹介し、申請者が開発しようとしたA-PFBC発電システムの位置づけを行い、技術の独自性、意義を明らかにしている。

 第2章は流動層における石炭ガス化反応速度を検討している。流動層内では脱揮発反応、チャーガス化反応、燃焼反応が併発しているが、ガス組成を最後に律するのはチャー合同ガス化反応とメタン発生速度であるとの考えを提出した。ここでチャー合同ガス化反応速度とは、チャー中の炭素がガス化される速度を、水蒸気および炭酸ガスとの反応により反応中間体の炭素酸化物がチャー表面に生成し、それが表面から離脱する速度が反応を律すると考えて求めたものである。

 第3章は、前で求めた反応速度を適用するために、石炭ガス化炉内のチャー濃度、およびガスでキャリーオーバされるチャー量を実験的に検討している。直径10cmの加圧流動層で6種類の石炭を1100〜1400Kでガス化し、ガス流速、水蒸気供給分圧、石炭供給量を変えて、炭素バランスと灰バランスを求めた。この結果、流動層内のチャー中炭素濃度を炭素転換率の関数として表せることを示し、またフリーボードガスによってキャリーオーバされない粒経分布に石炭を調整することが必要であることが示された。。

 第4章では、先に求めたチャー合同ガス化反応速度式を形成するパラメータを前章の実験データにより求めた。そして熱天秤等を用いて求められてきた石炭チャーのガス化反応速度に関する従来の速度式と比較考察して、温度依存性などに良い一致をみた。

 第5章では、パイロットプラントに対して、前章までに述べてきたベンチスケール装置の適用性を検討した。パイロットプラントは下段の燃焼炉、上段のガス化炉の2段より成り、ガス化炉は塔径75cm、圧力2MPa、石炭処理量500〜1500kg/hである。流動層の粒子・ガスとも完全混合を仮定することではガス化転化率を説明できないが、流動層を濃厚相と気泡相より成るとする二相モデルを用いることで十分に説明できることが明らかにされた。

 第6章は、メタン発生速度をベンチスケール装置のデータから温度の関数として実験式にまとめ、パイロットプラントについての適用性を検討した結果を記述した。

 第7章はこのようにして得られた石炭ガス化反応速度、および流動層モデルを用いて200MWの発電能力を持つ石炭ガス化装置の設計を実施し、その運転条件を求めて、A-PFBCの概念設計を行った結果をまとめている。石炭処理量は6.5×104kg/h、塔径6mの装置でガス化温度1298Kとして炭素転化率は85%となった。

 第8章は総括として、各章で得られた結果をまとめている。以上を総じると、本論文はベンチスケール実験から得られる独自の石炭ガス化反応速度と流動層モデルにより、実用規模の石炭ガス化炉の設計を可能とする技術を提示したもので、工学および工業技術の進展に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54028