本論文は、「炭化水素を燃料とする固体電解質型燃料電池の開発,-メタン燃料を用いたSOFCアノードに関する研究-」と題し、SOFCのアノードにおける炭素析出機構及びその抑制条件を解明し、炭化水素を燃料とする固体電解質型燃料電池の開発を目的として行った研究成果をまとめたもので、7章から成っている。 第一、第二章では、燃料電池運転の原理、セルの構成材料と作製、研究開発現状と課題、本研究の目的及び測定システム等について概説している。 第三章では、まずH2燃料を用いた場合のSOFC発電試験とその作動特性について検討を行い、発電状況下におけるそれぞれの電位を個別に検討する方法を確立している。測定したSOFCの電圧降下を電極の過電圧とNernst電位の低下と区別することができている。また、H2を燃料としたSOFCの発電特性と燃料の流量、濃度及び電池作動温度との関係を調べ、アノードにおける酸化物イオンの酸化反応は吸着型反応であると提案している。 第四章では、ドライCH4及びCOを燃料とした1000℃での発電試験を行い、炭素析出機構及びその影響を見ている。アノードにおける炭素析出によるセル性能の劣化を評価するために、発電下での電気化学測定及び電極反応生成物の分析を行っている。CH4による炭素析出はCOによる炭素析出よりも大きく、ドライCH4はセル内で熱分解されて炭素とH2になり、その結果Ni及びYSZ表面は炭素で被覆されて、電池性能が劣化したことを明らかにしている。低濃度メタン(4.2%)を燃料とした場合、電流密度が低く酸素イオンが十分に供給されない条件では、アノード過電圧が高くなり、また含酸素生成物としてはCOが検出されている。酸素イオンの供給速度が炭素析出速度より大きくなる高電流領域においては、CH4が直接酸化反応を受けCO2とH2Oまで完全燃焼し、三相界面上での炭素析出が抑制され、アノード過電圧が低下したことを明らかにしている。CH4完全燃焼領域、つまりCO2の生成領域(低CH4濃度、高電流密度)で12時間発電試験を行った結果、炭素析出によるセルの劣化は見られていない。また、アノードに析出した炭素はアノード側に供給した酸素による酸化で除去でき、電極性能も回復することを明らかにしている。 三相界面の表面活性がCO2生成しきい値電流を決めているため、第五章では、CH4完全燃焼によるCO2の生成しきい値電流と三相界面(アノードの膜厚とNiOの粒径)を変えて、CH4の濃度及び電池の作動温度との関係について検討を行っている。その結果、高CH4濃度、高温度及び三相界面の増大によってCO2の生成しきい値電流が増大することを明らかにしている。アノードの過電圧はH2燃料に対して120mまで電極膜厚の増加によって低減し、4.2%のCH4燃料に対しては70mまで電極膜厚の増加によって低減している。この結果は、アノードの有効な三相界面はH2燃料に対して120mまで、CH4燃料に対しては70mまで寄与することを明らかにしている。アノードにおける反応を完全混合糟のモデルによって説明している。低温化によりCO2の生成しきい値電流がを低下している。これは、低温化は三相界面への炭素析出抑制に有利であることを明らかにしている。 CH4による炭素析出を抑制する条件はCO2の生成しきい値電流で決まり、CO2の生成しきい値電流はCH4濃度に依存する。しかし、高濃度CH4を用いた場合、CO2の生成しきい値電流は高く炭素析出抑制が難しくなる。その解決方法として、第六章では、CH4水蒸気改質型SOFCについて検討を行っている。S/C(H2O/CH4)を変えた場合の炭素析出機構を明らかにし、アノードにおける過電圧はCH4、CO、H2の順であることを明らかにしている。S/C<1ではCH4による炭素析出がアノード過電圧増大の要因で、S/C=1ではアノード過電圧はほとんどH2の反応で決まることを明らかにしている。S/C>1では、H2O添加により、COによる炭素析出が抑制でき、COの反応速度が向上してアノード過電圧はH2とほぼ同じ値となっている。電池の出力と炭素析出抑制を併せて電極反応という点で考え、本実験系ではS/Cは1.2が望ましいと提案している。 第七章では、CH4、H2燃料によるSOFC本体の発電効率を検討した。H2燃料による最大理想発電効率は56%で、それはCH4燃料の最大理想発電効率69%より小さく、CH4燃料をSOFCに導入する重要性が示されている。最後に、本論文の結論をまとめている。 以上要するに、本論文はCH4燃料を用いたSOFCのアノードにおける炭素析出機構を解明するともに、炭化水素を燃料とする固体電解質型燃料電池の炭素析出抑制条件を提案したものであり、化学システム工学の発展に貢献するところが少なくない。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |