学位論文要旨



No 213386
著者(漢字) 冨重,圭一
著者(英字)
著者(カナ) トミシゲ,ケイイチ
標題(和) 担持バイメタリック[RhSn]/SiO2及び[PtMo6]/MgO触媒のキャラクタリゼーションと触媒作用
標題(洋) Characterization and Performance of Supported Bimetallic [RhSn]/SiO2 and [PtMo6]/MgO Catalysts
報告番号 213386
報告番号 乙13386
学位授与日 1997.05.26
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第13386号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩澤,康裕
 東京大学 教授 太田,俊明
 東京大学 教授 藤元,薫
 東京大学 助教授 朝倉,清高
 東京大学 助教授 辰巳,敬
内容要旨

 触媒調製法の発展と触媒のキャラクタリゼーション手法の進歩により、表面の構造・組成や、触媒作用の機構を原子・分子レベルで解明することが可能になってきている。反応機構の理解は触媒設計と密接に関連するため、先進的触媒の開発には種々のin-situ分光法を基礎とした活性点構造のキャラクタリゼーションや反応中間体の直接観察が重要である。これまで多くの触媒反応において、第2成分元素の添加によるバイメタル化効果が研究されてきたが、通常は2種類の元素を含む混合溶液を用いて含浸法により調製しているため、触媒は不均一な構造や組成をもつことから、添加成分が有効に触媒として機能しないことも多く、また、反応機構においても原子・分子レベルで共存効果を解明することが困難であった。これらを解決するため、2種類の元素からなる活性点の設計を2つの方法により試みた。1つは、酸化物に担持された金属微粒子上における有機金属化合物の選択的かつ化学量論的な分解反応を用いる方法であり、もう一方は、異なる元素同士が直接化学結合を持つものを触媒調製における前駆体として用いる方法である。そこで本研究では、前者として、Rh-Snバイメタル系を選び、化学的効果と幾何学的効果の両方を利用した表面設計を試み、表面構造の解明と、その触媒上でのNO解離及びNO-H2反応機構、エチレンのヒドロホルミル化反応機構を調べ、Rh-Snのバイメタルアンサンブル構造との対応を検討した。さらに後者として、アンダーソン型構造をもった[PtMo6O24]8-ヘテロポリ酸を前駆体として用いて、MgO担体上でPt-Moアンサンブル構造の形成と低級アルカンの部分脱水素及びNOのCOによる還元反応について検討した。

 研究に用いたRh-Sn/SiO2触媒は、SiO2担持Rh金属微粒子とSn(CH3)4との選択的表面反応により調製した。本調製法により、通常の共含浸触媒とは異なり、Rhに対するSnの表面組成を制御することが可能となった。この触媒を用いて、NO-H2反応を行ったところ、それ自身は不活性なSnの添加により触媒反応活性が大きく促進されることを見い出した。さらに、Snの添加量に対する触媒反応活性の変化から、活性点はRh-Snバイメタルアンサンブル構造に起因することが示唆された。還元処理後の触媒のキャラクタリゼーションから、原子比Sn/Rhが0.4までは、添加されたSn原子は、Rh微粒子の第1層目に侵入し、表面合金を形成し、その組成比がSn/Rh=0.4で、表面濃度比はRhS:SnS=1:3で飽和し、さらにこの組成においてRh原子は、6個のSn原子に取り囲まれ、完全に孤立した状態となっていることが示された。Snの添加効果はこのようなRh-Snバイメタルアンサンブル構造から生じていることが分かった。また、触媒反応中におけるRn-Snバイメタルアンサンブル構造とNO吸着種の挙動をin-situ広域X線吸収端微細構造(EXAFS)分光法とin-situフーリエ変換赤外(FTIR)分光法を用いて調べ、その他のkineticsの実験結果とあわせ、NO-H2反応機構に対するSnの添加効果を検討した。FTIRにより、この触媒上においてNO分子は、2種の吸着状態をとり、linear NO種と、もう一方は、その波数からbent NO種(Rh金属表面上にでき易いbridge NO種と挙動が大きく異なる)が生成していることが示された。一般に、Snは含酸素分子の関与する触媒反応において大きな促進効果を示すことが知られているが、このような分子の酸素原子とSnの相互作用は、これまではっきりとは観測されていない。そこで、Sn K-edge EXAFSにより、その相互作用について調べたところ、FTIRでbent NO種が観測される条件でのみ観測されるSn-O結合を見いだした。カーブフィッティング法によるEXAFSスペクトルの解析の結果、Sn-O結合距離は0.256nmであり、酸化物などに存在する通常のSn-O結合0.20-0.22nmに比べ、非常に長いことが特徴的であり、[RhSn6]アンサンブルとの関連でSnの促進機構を利用した触媒設計を考える上で重要な情報を与えるものである。

 上と同様に調製したRh-Sn/SiO2触媒上でのエチレンのヒドロホルミル化反応について検討したところ、Sn/Rh=0.18でプロピオンアルデヒド生成の選択率が最大となることが見出され、kineticsの実験結果より、触媒反応中のCO被覆率がSnの添加により増加することを明らかにし、これはSnの添加により生成する表面合金の構造及び組成との関連から、NO-H2反応において完全に孤立したRhの形成が重要であるのに対して、エチレンのヒドロホルミル化反応においては完全に孤立することなくRh-Rhの相互作用が部分的に残った状態が適した活性点構造であることが示唆された。

 Pt-Moアンサンブル触媒の前駆体として、(NH4)4[H4PtMo6O24]水溶液を用いてMgOに担持することにより[PtMo6]/MgO触媒を調製した。この触媒は、ブタン、イソブタン、プロパンなどの低級アルカンが相当するアルケンへ転換する部分脱水素反応に対して、共含浸法により調製したPt-Mo/MgO触媒、あるいはPt/MgO触媒やMo/MgO触媒と比べ、高活性・高選択性・高安定性を持つことが見いだされた。このような特徴的な触媒作用を持つ[PtMo6]/MgO触媒をEXAFSにより構造解析を行ったところ、PtはMgOの安定面であるMgO(100)表面の第1層にあるMg2+のサイトにPt4+が置換して存在していることが明らかにされた。また、Mo K-edge EXAFSからMoはMgO表面と化学結合をつくり、正六面体構造をとった表面種を形成していることを示唆した。このようなEXAFSから得られる局所構造においては、共含浸Pt-Mo/MgO触媒、Pt/MgO触媒、Mo/MgO触媒も類似した構造を持っているものの、Pt L3-edge EXAFSにおけるPt-Mg結合の配位数が触媒調製時の前駆体により大きく変化し、これら前処理後の構造から反応中は還元されPt金属クラスターを形成するが、触媒活性の安定性は、その際にPt-Mo相互作用を形成・維持できるかにあると考えられ、この相互作用により反応中、活性Ptクラスターが安定化され、炭素析出による活性劣化が起こりにくくなっていることが示唆された。一方、NOのCOによる還元反応においては、触媒反応活性の焼成温度依存性とEXAFSによる局所構造解析の結果から、MgO表面の第一層にMg2+イオンと置換して存在するPt4+が活性点となっていることが示唆され、Pt L3-edge EXAFS解析から、Pt4+イオンの周囲には6個の酸化物イオンが観測され、その内の一つの酸化物イオンがCO分子に対して高い反応性を持つことを明らかにし、NO-CO反応が、このPt-O結合のCOとの反応によるCO2生成とその時に生ずる空サイトでのNOの解離反応及びN2OとN2生成に伴うPt-O結合の再生というレドックス反応機構により進行していることが明らかになった。

 これらRh-Sn及びPt-Moのバイメタル活性点構造を設計・調製し、NOの還元反応、ヒドロホルミル化反応、炭化水素の脱水素反応などにおける触媒反応機構を検討し、キャラクタリゼーションの結果から表面構造と触媒反応の関連を原子・分子レベルで考察及び解明した。

審査要旨

 本論文は、新規なRh-SnとPt-Moのバイメタル系触媒の調製とキャラクタリゼーションおよび触媒特性に関する研究をまとめたものである。触媒調製法の発展と触媒構造のキャラクタリゼーション手法の進歩により、触媒表面の構造・組成や触媒作用の機構を原子・分子レベルで解明することが可能になってきている。反応機構の理解は触媒設計と密接に関連するため、先進的触媒の開発には種々のin-situ分光法を基礎とした活性点構造のキャラクタリゼーションや反応中間体の直接観察が重要である。従来のバイメタル触媒では一般的に含浸法により調製されるため不均一な構造と組成を持ち、従って高効率な触媒調製や反応機構を解明することは困難である。本論文ではこれらの問題点を解決するために有機金属化合物の選択反応性を利用したCVD(Chemical Vapor Deposition)法とアンサンブル前駆体固定化法を利用して、新規触媒の開発と活性構造の解析に成功した。本論文は7章からなる。

 第1章では、本研究分野に関する一般的概説を行い、本論文の研究についての位置づけを述べている。

 第2章では、本研究に用いたRh-Sn/SiO2バイメタル触媒の設計とキャラクタリゼーションについて詳細に述べている。

 第3章では、開発した触媒を用いたNOの水素による還元反応に関する研究を述べている。それ自身は不活性なSnの添加により触媒活性が著しく促進されること、それが特有なRh-Snバイメタルアンサンブル構造形成に起因することを見いだした。触媒のEXAFS、TEM、FT-IR、およびCOとH2吸着測定から、Sn/Rh=0.4で表面濃度比はRhs:Sns=1:3で飽和し、Rh原子は6個のSn原子に取り囲まれ、完全に孤立状態となって存在していることを示した。また、触媒反応中におけるNO吸着種の挙動をin-situ EXAFSとin-situ FT-IRを用いて調べ、それらを速度論と比較することにより、NO-H2反応機構を明らかにするとともに、従来困難であった反応中間体の直接観察にも成功し、bent型NOがSnとSn---O結合(0.256nm)を形成することによりNO分子が活性化されることを結論した。

 第4章では、Rh/SiO2触媒上のエチレンのヒドロホルミル化反応へのSn添加効果について調べている。本反応もSn添加により選択性が大きく向上するが、最適アンサンブル構造はNO-H2反応とは異なり、Rh原子が孤立することなくRh-Rh相互作用が残った状態であるとしている。

 第5章では、前駆体として[PtMo6O24]8-ヘテロポリ酸を用いPt-Moアンサンブル構造をMgO表面に作成した試料の構造解析と触媒作用を述べている。得られた[PtMo6]/MgO触媒は、従来の共含浸法で得られるPt-Mo/MgO触媒などと比べ、プロパン、ブタン、イソブタンなどの低級炭化水素類の選択的脱水素活性が高く、また失活が見られず、極めて優れた触媒性能を示すことを見いだした。EXAFSによりPt周囲の構造を解析すると、MgO表面第1層のMgカチオンサイトにPt原子が置換して存在していることを明らかにした。この種の表面置換を観察し解析に成功したのは本研究が初めてである。

 第6章では、[PtMo6]/MgO触媒をNO-CO反応に適用している。活性の触媒焼成温度依存性とEXAFS解析との対応から、Mg2+と置換しているPt4+イオンが活性点となっていることを提案している。

 第7章は、本論文全体を通しての結論と研究の展望を述べている。

 以上、本論文は新規なRh-Sn/SiO2およびPt-Mo/MgO触媒を調製し、その触媒活性をNOの還元反応、ヒドロホルミル化反応、炭化水素の選択脱水素反応で調べ、構造のキャラクタリゼーションとの対応から表面構造と触媒作用との関連を原子・分子レベルで考察し解明したもので、触媒基礎化学に貢献するところ大である。また、本論文の研究は、本著者が主体となって考え実験を行い解析したもので、本著者の寄与は極めて大きいと判断する。

 従って、博士(理学)の学位を授与できるものと認める。

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