本論文は、新規なRh-SnとPt-Moのバイメタル系触媒の調製とキャラクタリゼーションおよび触媒特性に関する研究をまとめたものである。触媒調製法の発展と触媒構造のキャラクタリゼーション手法の進歩により、触媒表面の構造・組成や触媒作用の機構を原子・分子レベルで解明することが可能になってきている。反応機構の理解は触媒設計と密接に関連するため、先進的触媒の開発には種々のin-situ分光法を基礎とした活性点構造のキャラクタリゼーションや反応中間体の直接観察が重要である。従来のバイメタル触媒では一般的に含浸法により調製されるため不均一な構造と組成を持ち、従って高効率な触媒調製や反応機構を解明することは困難である。本論文ではこれらの問題点を解決するために有機金属化合物の選択反応性を利用したCVD(Chemical Vapor Deposition)法とアンサンブル前駆体固定化法を利用して、新規触媒の開発と活性構造の解析に成功した。本論文は7章からなる。 第1章では、本研究分野に関する一般的概説を行い、本論文の研究についての位置づけを述べている。 第2章では、本研究に用いたRh-Sn/SiO2バイメタル触媒の設計とキャラクタリゼーションについて詳細に述べている。 第3章では、開発した触媒を用いたNOの水素による還元反応に関する研究を述べている。それ自身は不活性なSnの添加により触媒活性が著しく促進されること、それが特有なRh-Snバイメタルアンサンブル構造形成に起因することを見いだした。触媒のEXAFS、TEM、FT-IR、およびCOとH2吸着測定から、Sn/Rh=0.4で表面濃度比はRhs:Sns=1:3で飽和し、Rh原子は6個のSn原子に取り囲まれ、完全に孤立状態となって存在していることを示した。また、触媒反応中におけるNO吸着種の挙動をin-situ EXAFSとin-situ FT-IRを用いて調べ、それらを速度論と比較することにより、NO-H2反応機構を明らかにするとともに、従来困難であった反応中間体の直接観察にも成功し、bent型NOがSnとSn---O結合(0.256nm)を形成することによりNO分子が活性化されることを結論した。 第4章では、Rh/SiO2触媒上のエチレンのヒドロホルミル化反応へのSn添加効果について調べている。本反応もSn添加により選択性が大きく向上するが、最適アンサンブル構造はNO-H2反応とは異なり、Rh原子が孤立することなくRh-Rh相互作用が残った状態であるとしている。 第5章では、前駆体として[PtMo6O24]8-ヘテロポリ酸を用いPt-Moアンサンブル構造をMgO表面に作成した試料の構造解析と触媒作用を述べている。得られた[PtMo6]/MgO触媒は、従来の共含浸法で得られるPt-Mo/MgO触媒などと比べ、プロパン、ブタン、イソブタンなどの低級炭化水素類の選択的脱水素活性が高く、また失活が見られず、極めて優れた触媒性能を示すことを見いだした。EXAFSによりPt周囲の構造を解析すると、MgO表面第1層のMgカチオンサイトにPt原子が置換して存在していることを明らかにした。この種の表面置換を観察し解析に成功したのは本研究が初めてである。 第6章では、[PtMo6]/MgO触媒をNO-CO反応に適用している。活性の触媒焼成温度依存性とEXAFS解析との対応から、Mg2+と置換しているPt4+イオンが活性点となっていることを提案している。 第7章は、本論文全体を通しての結論と研究の展望を述べている。 以上、本論文は新規なRh-Sn/SiO2およびPt-Mo/MgO触媒を調製し、その触媒活性をNOの還元反応、ヒドロホルミル化反応、炭化水素の選択脱水素反応で調べ、構造のキャラクタリゼーションとの対応から表面構造と触媒作用との関連を原子・分子レベルで考察し解明したもので、触媒基礎化学に貢献するところ大である。また、本論文の研究は、本著者が主体となって考え実験を行い解析したもので、本著者の寄与は極めて大きいと判断する。 従って、博士(理学)の学位を授与できるものと認める。 |