本研究は真核細胞細胞周期過程において重要な役割を演じていると考えられてサイクリンとサイクリン依存キナーゼ(CDK)の働きを明らかにするため、CDK阻害物質Butyrolactone I(以下BL)を3種類の非同期化ヒト前立腺癌培養細胞株に作用させ、DNAプロイディ分析による細胞周期解析および二重蛍光測定による細胞周期特異的な各種サイクリンの発現レベルの解析を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.手術検体の検討から正常前立腺に比して前立腺肥大症・前立腺癌ではG0/G1期の核蛋白量の増加が見られたが、増殖している細胞が多いためと考えられた。 2.ヒト前立腺癌培養細胞株の検討では、BLの作用により著明なG2/M期の上昇、及び第三ピークの出現が見られた。 3.BLの添加によりG2/M期にcyclin B1の発現を認めた。BLによりCdc2キナーゼ活性が阻害されるため、cyclin Bが分解されずに蓄積するものと考えられた。 4.BLは選択的CDK阻害物質であるので、本研究により第三ピークの誘導は、protein kinaseの中でCDKの阻害によることが初めて明らかにされた。 以上、本論文はCDK阻害物質BLを用いて、細胞周期解析および二重蛍光測定による細胞周期特異的な各種サイクリンの発現レベルの解析から、BLによるcyclin B1の発現と第三ピークの誘導を明らかにした。BLは選択的CDK阻害物質であるので、本研究により第三ピークの誘導は、protein kinaseの中でCDKの阻害によることが初めて明らかにされた。本研究は真核細胞細胞周期の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |