本研究は、スギ花粉主要アレルゲンと生体との反応を検討することを目的として、マウスにおけるスギ特異的IgEとIgGの産生に関して基礎的研究を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1.Cry j1およびCry j2で免疫したマウスの血清中のCry j1とCry j2特異的IgE抗体値を、IgE-capture Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA)法 とPassive Cutaneous Anaphylaxis法(PCA)法を用いて比較したところ、Cry j1およびCry j2特異的IgE抗体値はどちらも有意に相関を認めた。 2.コレラトキシンBサブユニット(CTB)と微量のコレラトキシン(CT)をアジュバントとして、より自然に近い感作状態である経鼻投与によってCry j1、Cry j2を、マウスに免疫したところ、CTBをアジュバントとして感作したマウスにおける抗Cry j2IgEおよびIgG抗体は、高い抗体応答を示した。アジュバントを用いなかったマウスの抗Cry j1およびCry j2IgE抗体産生は、全く認められなかった。 3.CTBとCTをアジュバントとして感作したマウスにおける顎下リンパ節細胞の抗原特異的増殖反応の測定を行ったところ、Cry j2で刺激したリンパ節細胞の増殖が著しく認められた。 4.スギ主要アレルゲンCry j1を腹腔内投与したマウスで産生されたIgEの認識するCry j1エピトープの解析を、抗原決定基の異なる5種類のモノクローナル抗体(EP-1〜EP-5)を用いたELISA Inhibition法により行ったところ、Cry j1を感作したマウスの抗Cry j1IgEはスギ花粉主要アレルゲンCry j1のEP-1、EP-4、EP-5を認識していることがわかった。マウスで産生されたスギ花粉特異的IgE抗体が、ヒトやサルと同様に、EP-1を認識していたことが示された。 5.スギ主要アレルゲンCry j1を腹腔内投与したマウスで産生されたIgGの認識するCry j1エピトープの解析を、同様のモノクローナル抗体(EP-1〜EP-5)を用いたELISA Inhibition法により行ったところ、Cry j1を感作したマウスの抗Cry j1 IgGも抗Cry j1IgEと同様に、EP-1、EP-4、EP-5を強く認識していることがわかった。また抗Cry j1IgGはEP-2、3も弱く認識し、幅広いエピトープを認識することがわかった。スギ花粉主要アレルゲンにおいては、IgEやIgGは同じようなエピトープを認識し、IgEやIgGを産生していることが推測された。 以上、本論文はスギ花粉症治療を目的とした研究の初期段階においての治療効果を判定することに有用であると考えられる動物モデルを作製した。加えて、アレルゲンのB細胞エピトープの解析において、いままで行われていなかった、マウスのIgEとIgGが認識するエピトープを比較し、IgEやIgGは同じようなエピトープを認識し、IgEやIgGを産生していることが推測された。本研究は、これまで行われていなかった、マウスのIgEとIgGが認識するエピトープを比較することにより、アレルゲンに対する免疫反応を制御することを目的とした、免疫反応の機序の理解において、重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |