学位論文要旨



No 213414
著者(漢字) 百目鬼,英雄
著者(英字)
著者(カナ) ドウメキ,ヒデオ
標題(和) 5相ステッピングモータ駆動システムの高性能化に関する研究
標題(洋)
報告番号 213414
報告番号 乙13414
学位授与日 1997.06.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13414号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 正田,英介
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 山地,憲治
 東京大学 助教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 大崎,博之
内容要旨

 本論文は、オープンループで位置決め制御が行えることから近年小形モータ生産台数の10%強を占めるまで大量に使用されるステッピングモータについて、トルクの増大および駆動特性の低振動化などの高性能化を実現するため、従来2相ステッピングモータが主であったのに対し、多相化により特性改善が顕著であることに着目し、5相ステッピングモータ駆動システムとすることにより高性能化が実現出来ることについて論じ、さらに応用分野を拡大するため超高真空対応ステッピングモータ・リニアパルスモータの開発について論じたものであり、全7章より構成される。

 第1章は「緒論」であって、小形モータ全体の中でステッピングモータの位置付けを明確にし、駆動システムとしてモータ・駆動方式両面から性能改善のための要求仕様を説明することにより、本研究の背景を明らかにするとともに、本研究の目的を展開している。

 第2章は「2相ステッピングモータ駆動システム」であって、5相ステッピングモータでの特性を議論する基礎として、標準機として2相ステッピングモータの駆動特性を論じている。始めにギャップパーミアンスによって発生トルクを分類し、ハイブリッド形ステッピングモータの主トルク発生機構が、一般永久磁石電動機どうよう界磁磁束と電機子電流の相互作用によっていることを解析的に明らかにしている。界磁磁束の分布はステータ・ロータの誘導子の設計と密接に関係し、極ピッチと誘導子歯幅の比/により界磁磁束の分布がどのように変化するかを有限要素法によりシミュレーションした。この結果、トルクリプル成分として支配的な第3次高調波磁束成分が/=37パーセントでほぼゼロとなることが明らかとなった。しかし、この歯幅比は永久磁石起磁力によるディテントトルクを最大とする点が問題となることを指摘し、ディテントトルク低減のためロータとステータ極ピッチを等間隔に配置するのではなく2相ステッピングモータでは基本波に対しその4倍で発生することより、ディテントトルクを合成として打ち消す極ピッチでステータ磁極を構成する設計法を提案した。この結果ギャップを0.06mmから0.04mmと高精度に維持できることが可能となったこととの相乗効果として、従来製品の約38%のトルクの増加を実現し、しかも従来製品では約10%存在したトルクリプルもほぼゼロを実現したステッピングモータの試作に成功した。駆動特性として最も問題となる電気的固有振動数と駆動パルス周波数が一致して発生する低速域での共振現象をステッピングモータの基礎方程式を機械・電気連成系としてシミュレーションすることにより解析した。この結果から、オープンループ駆動される2相ステッピングモータは、ステップ角が電気角で/2と大きいこともあって、なめらかな回転が行えず速度制御範囲を拡大するためには安定性の面で限界があることを指摘した。さらにステッピングモータの閉ループ制御法として、2相ステッピングモータを一般同期機で行われるd-q座標モデルでトルク制御を行う方法を適用し、界磁磁束の高調波成分で発生するトルクリプルを、電機子電流で補償する手法を提案した。

 第3章は「5相ステッピングモータ駆動システム」であって、ステッピングモータを多相化する得失を論じ、5相ステッピングモータ駆動システムとすることで中速域での不安定性が改善できるため、速度制御範囲拡大に効果があることを論じている。始めに、相数の違いにより発生トルクがどのように違うかを、2章の結果を多相ステッピングモータに拡張することにより理論・実験の両面から比較した。従来5相機のホールデイングトルクは2相機の70%程度しか得られておらず、発生トルクの面からは多相化は不利であるとされてきた。しかし、本論文の結果から、ギャップ長を始め設計諸定数を同じくした場合、相数によらずほぼ同一のホールデイングトルクが得られることが明らかとなった。バイポーラチョッパ各相独立定電流ドライバにより駆動特性の比較を行った。この結果ホールデイングトルクと駆動トルクの比をとすると、2相、3相、5相と相数を増すことにより、が0.71、0.87、0.95と大きくなり、トルクの利用効率の点から5相ステッピングモータが優れることを明らかにした。

 5相ステッピングモータをハーブリッジ5相インバータで駆動する結線方式として1つのスター結線と、2つの環状結線の方式が存在することを示し、一般同期機どうよう2/5位相で環状接続した駆動法では、パルスレートで数kppsで発生するステッピングモータ特有の中速域での共振動作を起こすことがなく、駆動システムとして5相ステッピングモータが最も制御範囲を広くできるモータであると結論する。

 第4章は「5相ステッピングモータのマイクロステップ駆動法」であって、ステッピングモータの高性能駆動法として最も注目されるマイクロステップ駆動法について論じる。始めに、2相ステッピングモータのマイクロステップ駆動特性を検討することにより、オープンループ駆動されるステッピングモータでは時間・空間両高調波起磁力によりトルクリプルを発生し、ある特定のパルスレートで共振を発生するため2相ステッピングモータでは特性改善に限界があることを述べる。5相ステッピングモータを正弦波電流制御マイクロステップ駆動することで、モータの持つ機械的加工精度限界まで角度誤差を小さくすることが出来るとを明らかにする。正弦波マイクロステップ駆動では、フルステップ駆動と比較し脱出トルクが約23%減少する問題点を指摘し、5相ステッピングモータでは低次の高調波磁束は各相の合成としてキャンセルされる点に着目して、台形波電流によるマイクロステップ駆動法の開発を行った。静止角度精度は数%悪化するものの、脱出トルクはフルステップ同等まで得られ、トルクの利用率の高いマイクロステップ駆動法を提案した。さらに、電流制御ループを省略し一般誘導機のインバータ制御と同様電圧指示形のPWM制御によりマイクロステップとする手法を開発した。通常のドライブ回路の励磁シーケンス発生部を変更するだけで、5相ステッピングモータのマイクロステップ駆動が可能となり装置の小形・高性能化に大きな貢献をした。

 第5章、第6章はステッピングモータ駆動システムの産業用用途の拡大を目的になされた成果を述べた。第5章は「超高真空環境に適合するステッピングモータの開発」であって、半導体製造装置産業を中心とするハイテク産業から強く求められていた超高真空装置内で使用可能なモータの開発について論じた。超高真空対応の材量を使用することによりステッピングモータの開発を行った結果、10-7Paの超高真空下でも十分使用可能なステッピングモータが開発できた。この開発により、昭和63年日本真空協会技術賞を受賞している。さらに、真空中での損失と温度上昇の関係の実験式を求めることにより、真空下での使用限界を定める際の指標となる尺度を提案した。

 第6章は「円筒状リニアパルスモータの開発」についてであって、ステッピングモータのリニアモータへの応用として、円筒状リニアパルスモータ(LPM)への応用について論じている。従来提案されている円筒状LPMでは磁気回路の構成上励磁相によって推力の不均一の問題があることを明らかにし、ステッピングモータ同様円周方向に電機子巻線を配設した新しい構造の円筒状LPMを提案し、基礎特性を測定した結果から、5相ステッピングモータと同等の特性を持ったLPMが開発出来たことを論じている。

 第7章は、「結論」であって、第2章から第6章までに述べたステッピングモータ駆動システムに関する研究成果を要約し、今後の展開の方向について論じている。

審査要旨

 本論文は「5相ステッピングモータ駆動システムの高性能化に関する研究」と題し、位置決め制御用などに大量に使用されるようになったステツピングモータについて、発生トルクの増大および駆動特性の高速化・振動抑制などの高性能化を目的として、電機子巻線の多相化を導入して特性改善を図り、5相ステッピングモータとすることにより高性能化が実現出来ることを示し、位置決め制御の要求条件に対応する駆動システムの構成法を検討し、さらに応用領域を拡大する超高真空対応やリニア形のモータの開発を試みた結果にについてまとめたものであって、全7章より横成される。

 第1章は「緒論」であって、応用面から小形モータの中でのステッピングモータの位置付けを明確にし、駆動システムとしてモータ・駆動方式両面から性能改善のために要求される条件を説明することにより、本研究の背景を明らかにするとともに、本研究の目的を示している。

 第2章は「2相ステッピングモータ騒動システム」と題し、5相ステッピングモータでの特性を論ずる基礎として、標準機である2相ステツピングモータの駆動特性を解析し、その限界を明確にしている。2相機では回転子誘導子の歯幅比を有限要素法によるシミュレーションで界磁束の分布を適切にするように設計すればトルクリプル成分が抑圧でき、さらに固定子の極ピッチの設定でディテントトルクも低減できることを示した。しかし、駆動特性として最も問題となる電気的固有振動数と駆動パルス周波数が一致して発生する低速域での共振現象のためにオープンループ駆動される2相ステッピングモータは滑らかな回転が行えず速度制御範囲を拡大するためには安定性の面で限界があることが明らかになった。

 第3章は「5相ステッピングモータ駆動システム」であって、ステッピングモータを多相化する得失を論じ、理論と実験の両面から5相ステッピングモータ駆動システムとすることで中速域での不安定性が改善できるため、速度制御範囲拡大に効果があることを示している。5相ステッピングモータをハーブリッジ5相インバータで駆動する結線方式としては、1つのスター結線と、2つの環状結線の方式が存在することを示し、モデル機による試験から、一般同期機と同様に2/5位相で環状接続した駆動法がパルスレートで数kppsで発生するステッピングモータ特有の中速域での共振動作を起こすことがなく、駆動システムとしては5相ステッピングモータが最も制御範囲を広くできるモータであるという結論をえている。

 第4章は「5相ステッピングモータのマイクロステップ駆動法」と題し、ステッピングモータのマイクロステップ駆動法を2相と5相のステッピングモータについて理論と実験の両面から検討している。ここでも2相駆動ではトルクリプルと特定のパルスレートでの共振が避けられず、5相ステッピングモータを正弦波電流制御マイクロステップ駆動して、モータの持つ機械的加工精度限界まで角度誤差を小さくすることが出来るとを明らかにした。新たに低次の高調波磁束を各相の合成としてキャンセルする台形波電流制御によるマイクロステップ駆動法を提案し、静止角度精度は数%悪化するものの、脱出トルクはフルステップ同等まで得られ、トルクの利用率の高いマイクロステップ駆動法を開発した。さらに、電流制御ループを省略し一般誘導機のインバータ制御と同様電圧指示形のPWM制御によりマイクロステップとする手法を開発した。

 第5章は「超高真空環境に適合するステッピングモータの開発」であって、半導体製造装置産業を中心とするハイテク産業から強く求められていた超高真空装置内で使用可能なステッピングモータの開発を試みた結果について述べている。超高真空対応の材量を使用するモータで10-7Paの超高真空下でも十分使用可能なステッピングモータを実現した。さらに、真空中での損失と温度上昇の関係の実験式を求めることにより、真空下での使用限界を定める際の指標となる尺度を提案している。

 第6章は「円筒状リニアパルスモータの開発」と題し、FAなど産業分野での適用が拡大しているリニアモータヘステッピングモータを応用するために円筒状リニアパルスモータ(LPM)について論じている。従来提案されている円筒状LPMでは磁気回路の構成上励磁相による推力の不均一の問題があることを明らかにし、ステッピングモータ同様円周方向に電機子巻線を配設した新しい構造の円筒状LPMを提案し、試作機を作成して基礎特性を測定した結果から5相ステツピングモータと同等の駆動特性をもつLPMが実現できることを示した。

 第7章は、「結論」であって、本研究の成果を要約し、今後のステッピングモータ駆動技の展開の方向などについて論じている。

 以上これを要するに、本論文はステッピングモータの構造とそれに適合した新しい5相駆動方式の提案、その設計法・駆動法の検討、高機能のサーボ系に適用できる高性能・小形のステッピングモータ駆動システムの実現とともに、その応用領域を広げる新しい形式のモータの開発によって、ステッピングモータの設計と応用に重要な知見を与えたものであって、電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/51050