超臨界圧水冷却を用いた貫流型原子炉として、超臨界圧軽水冷却炉の概念が提案されている。貫流型システムでは、主給水系により昇圧された冷却材は、全量が原子炉で加熱され、そのまま全てタービンへと供給される。超臨界圧冷却で貫流型とすることにより、直接サイクル型でありながら再循環系・原子炉冷却材浄化系・気水分離器・蒸気乾燥器が不要となるため、現行軽水炉と比較しシステムの大幅な簡素化が可能となる。 水は22.1MPa以上の超臨界圧で沸騰現象が無くなり、物性値は連続的に変化する。温度上昇に対し比熱が極大になる点(擬臨界温度)が存在し、その前後でエンタルピ、密度が大きく変化する。また高熱流束・低流量条件下において、擬臨界温度近傍で伝熱劣化が生じることが知られており、これが原子炉設計・安全解析上の熱流束限界を与える。 これまでに、ブランケットを有した稠密炉心により増殖性を確保し、水素化ジルコニウム層の概念により負のボイド反応度を確保した超臨界圧軽水冷却高速増殖炉の概念設計が行われた。また固定減速材として水素化ジルコニウムを用いた超臨界圧軽水炉の炉心概念設計が行われたが、水素化ジルコニウムが使用後放射性廃棄物になる・燃料濃縮度が高い等の欠点があり、水減速棒を用いる炉心について検討する必要がある。また安全面からの評価など成立性や技術的問題について総合的な検討は行われていない。 本研究では二重管水減速棒を用いた超臨界圧軽水炉(SCLWR)の概念設計を行い、技術的成立性を検討した。また設計・安全制約条件の検討・作成を行うとともに、設計に必要な超臨界圧軽水冷却のための炉心設計解析コード、安全解析コードを開発した。 原子炉圧力は25MPaの超臨界圧とした。貫流型プラントのため軸方向冷却材密度変化が大きく、特に炉心上部ではBWRの1/3程度の減速材しか確保できない。また伝熱劣化の防止と高い出口温度確保の両立が設計上重要となる。本研究では図1に示す一重管、半二重管、全二重管の3種類の水減速棒の適用を検討した。一重管は単管構造であり、水減速棒の水により出口温度が低下してしまう。半二重管は上半分が二重管構造で、出口温度は低下せず、炉心上部の減速材密度が高まる。全二重管ではさらに炉心中部の減速材密度も高まり、燃料間チャネルの流速が速まる。半二重管、全二重管ともに、水減速棒入口側の下部プレナムと出口側の燃料間チャネルとの圧力差で冷却材が駆動される。 熱水力設計のため、単チャネル設計解析コード(SITHCO)を開発した。SITHCOを用いた解析の結果、一重管、半二重管水減速棒を用いた場合はBWR程度に、全二重管水減速棒を用いた場合はBWR以上に、軸方向減速材密度分布の平坦化が可能であることが示された。さらに燃料間チャネル流速の速い全二重管水減速棒を用いた場合、一重管、半二重管水減速棒と比較し、伝熱劣化熱流束が大きく改善されることを示した。 次に減速材平坦化、伝熱劣化熱流束向上の効果の大きいポンプ駆動型二重管水減速棒を用いた炉心設計を行った。この場合、全給水は一旦水減速棒を通った後に燃料間チャネルへ流れる。その駆動力源は主給水ポンプである。設計制約条件は、線出力密度≦40kw/m、ステンレス被覆表面温度≦450℃、最小伝熱劣化熱流束比(MDHFR)≧1.26、熱効率≧40%、局所冠水反応度が負、燃焼サイクル期間≧330日とした。燃料集合体は、燃料棒間隔を狭くし流速を速め、多数の水減速棒で減速材を確保する構造(図2参照)とした。水減速棒は対称性があり減速材が偏在しないよう配置した。水減速棒割合が最適減速条件よりやや少なく、低減速・高出力密度の炉心となった。取り出し燃焼度42GWd/tを達成し、ステンレス被覆管の使用のためもあり、平均濃縮度は5.1wt%となる。 貫流型プラントでは給水全量がタービンに送られる。よって出口温度低下は直ちに熱効率低下となるため、径方向出力分布の平坦化とオリフィスによる低出力チャネルでの流量制限が重要となる。出力分布計算には温度による減速材密度変化の出力へのフィードバックを考慮できる核・熱水力計算を結合した全炉心計算が必要となる。そのために全炉心設計解析コードシステム(NATURE)を開発し、燃料集合体の配置とオリフィス設計を行った。その結果、低出力チャネルを考慮しても、出口温度はホッテストチャネルのみの評価時の412℃から平均408℃と、ほとんど低下しないことがわかった。また冷却材密度変化が大きく可溶性毒物が利用できないため、上部挿入型のロッドクラスタ型制御棒と可燃性毒物で全反応度を補償する。またBWR同様、5ホウ酸ナトリウムを後備停止系として用いる。1,100MWe級原子炉の主な原子炉諸元を表1(基準炉心)に示す。 燃料集合体数を187体から211体とした場合、電気出力1,300MWeとなり、基準炉心と比較し取り出し燃焼度も上昇する(表1Case1)。さらに炉心高さを4.5mとすれば電気出力1,600MW級の原子炉も可能となる(表1Case2)。この場合炉心流量増加によりMDHFRが向上するが、圧力容器の重量は増加する。また集合体中の水減速棒を増やし炉心下部で最適減速条件とした場合、平均濃縮度は4.3wt%程度まで低減し、制御棒駆動機構数も25%程度低減する(表1Case4)。しかし出力密度低下により電気出力は1,000MWe以下となり、また流速低下によりMDHFRも低下する。ここでCase1は全炉心計算により、Case2-4はホッテストチャネルでの熱水力・核計算により、炉心諸元を求めた。 さらに設計されたSCLWR(基準炉心)の安全解析を行い、成立性を検討した。貫流型プラントは自然循環ループが存在しないため、炉心流量の監視と確保を安全確保の基本方針とした。具体的には入口流量確保のために高圧補助給水系、低圧安全注入系を設け、主蒸気出口確保のために100%容量タービンバイパス弁、逃し安全弁を設けることとした。現行軽水炉を参考に起因事象を選定するとともに、判断基準として、事故では被覆温度≦1,260℃、原子炉圧力≦33MPa、燃料エンタルピ≦230cal/gを、過渡事象ではMDHFR≧1.0、原子炉圧力≦30MPa、燃料エンタルピ≦170cal/gを定めた。 また単チャネルモデルを基にした安全解析コード(SPRAT)を開発し、主要な過渡・事故事象の安全解析を行った。図3に外部電源喪失の結果を示す。MDHFRは給水ポンプが完全停止した約20秒で約1.2まで低下するが、判断基準1.0より大きい。流量が低下しても適切な主給水系、高圧補助給水系により崩壊熱は除去でき、安全上問題ない。逆に流量増加事象では、炉心冷却による冷却材密度フィードバックにより反応度投入事象となる。蒸気加減弁閉止などで圧力が急上昇した場合、貫流型のため冷却材は炉内に停滞し、冷却材温度は上昇する。このため加圧による冷却材密度の上昇は昇温による密度減少で打ち消され、圧力過渡は安全上問題とならない。これはBWRとは異なる安全上の特長である。反応度事象は、制御棒による投入反応度が比較的小さく問題とはならない。 大破断冷却材喪失事故は、超臨界圧軽水冷却炉冷却材喪失事故解析コード(SCRELA)を用いて検討した。主蒸気管破断事故は、貫流型のため、事象のごく初期で炉心流量の増加により反応度投入事象となるが、炉心下部から上部への流量が確保されるため被覆温度は余り上昇しない。主給水管破断事故では、事象初期において冷却材が逆流を起こすため一時的に炉内で停滞し、燃料温度が大幅に上昇するため、主蒸気管破断事故より厳しい事象となる。また二重管水減速棒は、炉心の再冠水を遅らせ燃料被覆温度の上昇をもたらす。水減速棒モデルを新たにSCRELAに組み込み、この時間遅れを評価した安全解析を行った結果(図4参照)、被覆温度が制限値1,260℃を満足することを示した。 これらの安全解析により、流量関連事象・圧力関連事象・反応度事象や冷却材喪失事故の全事象で安全基準が満足されることを示した。本原子炉の場合、過渡事象では外部電源喪失が、事故事象では冷却材喪失が厳しくなることがわかった。また感度解析を通じ、冷却材密度係数が流量・圧力関連事象と、炉心高さ・水力等価直径が冷却材喪失事故と安全上関連が深い等、SCLWRの炉特性、設計と安全特性との関連を明らかにした。 結論として、超臨界圧軽水炉の炉心設計と安全解析を行い、水減速棒を用いたステンレス被覆の熱中性子炉の炉心概念、その核的・熱水力的特性、プラントシステムの特徴、安全上の特性・制約条件について検討を行い、技術的成立性を示した。 表1 SCLWR characteristics comparison図1 水減速棒の縦断面概略図図2 燃料集合体横断面図図3 外部電源喪失図4 冷却材喪失事故(主蒸気管70%破断) |