本研究はAIDS患者の肺の合併症で最も多いカリニ肺炎の、診断および経過の観察に画像が果たす役割について明らかにするために、カリニ肺炎の診断における画像の特徴、治療開始後の画像の変化について、解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.初診時の胸部単純写真;ground-glass density、ground-glass density+patchy consolidation、consolidationが1/3づつを占めていた。病変の分布は対称性と非対称性が半数づつみられた。異常陰影が最も強く見られた肺野は、下肺野が最も多かった。 肺のボリュームの減少が見られた症例は60%であった。随伴する所見としてはcystと気管支壁の肥厚がみられた。リンパ節腫大や胸水はみられなかった。 上肺野に強い病変がみられた5例中、4例は予防吸入を受けていた。 欧米ではあまり報告がないが、肺の収縮が見られた症例が多く、吸気不足以外にも末梢気道が滲出物によって閉塞し、無気肺がおこり易いとためと考えられた。その他の点では欧米の報告と、胸部単純写真の所見に大きな違いはみられなかった。 2、胸部単純写真の経過;1週間以内に改善の見られたものが、1/3で、2/3の症例で3週間以内に陰影は減り始めた。治療開始後の変化には、浸潤影の悪化がなくどんどん陰影が薄くなっていった著明改善例、治療開始後に浸潤影が濃くなったり、範囲が広がり、胸部単純写真上、病変が進んだ悪化例、最初の2週間以内に明らかな変化が見られなかった無変化例があった。肺野の陰影が改善していく途中で線状影や荒い網状影があらわれ、ground-glass densityやconsolidationと置き変っていった例もみられた。浸潤影の悪化するグループで経過中に線状影の出現が多いことがわかった。 著明改善例のグループと浸潤影の悪化するグループ間を区別する、胸部単純写真の特徴や治療薬や検査値に差があるかどうかを調べるため、以下の6項目について検討した。1)症状がでてから治療開始まで期間、2)CD4値、3)CD8値、4)初診時の浸潤影の程度、5)治療内容、6)ステロイド使用の有無; 統計学的に両グループで上記6項目に有意差はなかったが平均値はCD4値,CD8値共に浸潤影の悪化するグループで高い傾向にあった。正常な胸部写真になるまでの期間は、平均が45日で、3カ月以内に半数が正常になった。 治療開始後の胸部単純写真は一時、濃度上昇域の悪化するものが多くみられた。肺の反応がPneumocystis cariniiが減った後もかなり続くことが考えられた。 3.カリニ肺炎のCT所見;主たる所見はground-glass densityであったがそのほかに以下に述べるように多彩な所見を示した。consolidation、線状網状影、bronchovascular bundleの肥厚、細かい径2mmほどの網目状の陰影がground-glass densityに重なって見える例、気管支拡張、索状影、cystが見られた。左右非対称で、不規則な分布を示したものが多かった。cystの分布は肺葉の末梢にも中心部にもみられた。少量の胸水が1例にみられたがリンパ節腫大はみられなかった。 4.ガリウムシンチグラムの結果;予防投与を受けていない症例では、肺全体に瀰慢性に異常集積がみられることが多かった。上肺野に限局して集積のある4例の内、3例で予防吸入をしていた。 以上、本論文は、AIDS患者におけるカリニ肺炎の画像の特徴と治療開始後の胸部単純写真の経過について検討した。これまで明らかに述べられていなかった治療開始後の画像の変化について明らかにし、今後のAIDS患者におけるカリニ肺炎の診断、治療、その経過の観察に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |