微空間には特有の気体分離や触媒作用など特徴的物理的及び化学的作用が生じると期待されるが、本論文では、固体と固体の界面のような2次元的空間を利用して、さらに一方の固体として強誘電体や圧電体を用いて、それらの電場による肉眼で見えない程の微小な変形や動きを利用して、強誘電体及び圧電体の界面における摩擦、溶解、透過、分離、及び触媒の機能に対する外部電場の影響を調べている。具体的には、圧電効果による固-固界面、強い静電引力による固-固界面、圧電バイモルフの効果による固-固界面、圧電高分子表面での双極子に関する4種類の電場誘起による界面での動きを研究している。本論文は7章からなる。 第1章では、圧電体及び強誘電体とそれらの表面及び界面について概説し、本論文の研究についての位置づけを述べている。 第2章では、電場下での強誘電体の固-固界面の気体透過に関する研究を述べている。水素や二酸化炭素などの気体の透過速度が電場により可逆的に顕著に変化することを見いだし、外部の駆動力により気体の透過や分離を直接制御する新しい方法と成り得ることを提案している。圧電効果による固-固界面の動きを利用した透過速度の制御では、Al蒸着した平滑なポリフッ化ビニリデン膜を2枚ステンレス板上に重ね、1枚目の膜に直流電圧を印加できるようにして、窒素などの気体の透過速度が導入圧力に対し指数関数的に減少すること、透過速度が電場に対し指数関数的に変化することを見いだし、界面間隙に及ぼす気体の応力および圧電効果による膜の歪みとたわみの関係により説明することに成功した。また、強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)円板と孔の空いたステンレス板とを重ね合わせ、それらの界面にAl蒸着をして電場が印加できるようにした系において、水素、ヘリウム、窒素及びメタンの比透過係数が400Vの電圧で約8倍変化すること、プロパンとブタンでは透過機構が電場によりPoiseuilleとKnudsen混合拡散からKnudsen拡散のみへと変化する電気による透過機構のスイッチングを初めて示した。バイモルフは主に分極が逆向きの強誘電体を2枚張り合わせたもので、電場により端の方で面に垂直な変位が見られる。電場により微小に動く強誘電体PZTバイモルフと動かない蒸着金属の細い界面において、水素と二酸化炭素の混合気体の分離係数がKnudsen理論比4.7を越え、6-7倍もの大きな分離係数が得られることが示された。 第3章では、電場下での強誘電体上の摩擦に関する研究をまとめている。本論文では、垂直荷重の時間変化の摩擦に対する影響を初めて実測している。直流電場の実験により、静電引力型デバイスでの静電引力の存在が確認され、交流電場で周波数の変化により静摩擦係数が顕著に変化することを見いだしている。 第4章では、強誘電体の固-固界面での触媒反応を述べている。ステンレス板上Pd蒸着面にPZT円板を被せ、外部から電圧を印加できるようにした系において、シス-2-ブテンと水素を導入して電圧を印加したところ、トランス-2-ブテンへの転化率がほとんど変化しない一方、ブタン生成速度が顕著に増大することを見いだした。これらの結果は間隙の変化による分子のPd壁への衝突挙動の変化として定量的に説明された。 第5章と第6章では、シアン化ビニリデンと酢酸ビニルの共重合体膜を用いて、膜の表面構造が電場により影響を受けるかどうかを原子間力顕微鏡で調べ、また、膜の表面、裏面におけるジメチルスルフォキシドによる溶解を測定して、電場の増大に伴い両面での溶解速度の差が増大することを見いだしている。また、電場の印加とともに多数の繊維状構造が形成され、高電場により官能基の安定配向が可能であることを示唆した。 第7章は、本論文全体を通しての結論と研究の展望を述べている。 以上、本論文は初めて、透過・分離や触媒等の物理的及び化学的作用が電場誘起の動きに影響されること及びその影響の仕方に一定の規則や現象が存在することを見いだしたもので、物理化学に貢献するところ大である。また、本論文の研究は、本著者が主体となって考え実験を行い解析したもので、本著者の寄与は極めて大きいと判断する。 従って、博士(理学)の学位を授与できるものと認める。 |