本研究は肝癌細胞で高率に発現していると考えられるアルファフェトプロテインメッセンジャーRNA(以下AFP mRNAと記載する)を指標として肝癌患者末梢血中の肝癌細胞の同定を試みた研究であり、さらにその有無が患者の予後を予測しうるか否かを検討したものである。その結果は下記の通りである。 1.本研究では、polymerase chain reaction(以下PCRと記載する)を用いて癌細胞の有無を検討している。肝癌細胞であるHepG2細胞を肝癌細胞のモデルとして行った結果では血液5ml中1-10個の肝癌細胞を検出しうるほどの高感度であった。 2.AFP mRNAは健常者の末梢血中には検出されないが、肝癌患者では33例中17例と、患者の半数以上で検出された。また、慢性肝炎、肝硬変患者において各2例ずつ検出されたが、遊離した肝細胞あるいは微小な癌の存在が疑われ、こういった症例の追跡調査の必要性が示唆された。 3.AFP mRNAが検出された肝癌患者では、AFP非検出群に較べ、腫瘍容積が大きく、また遠隔転移の症例では全例でAFP mRNAが検出された。この結果は血中でのAFP mRNAの存在が流血中の腫瘍細胞を反映することを推測させるものであった。 4.AFP mRNAの検出が臨床的に意義を持つか否かを81例の肝癌患者を用いてprospecitiveに検討した。入院時にAFP mRNA陽性者では陰性群に比べ、転移出現率が有意に増加していた。 5.肝癌治療後も患者は定期的に血中AFP mRNAの有無を検討されたが、その経過により患者は4群(持続陽性群、持続陰性群、陽転化群、陰転化群)に分類された。これら4群にて転移出現率と生命予後をKaplan Meier法を用いた生存分析を行った。その結果、持続陰性群に比し持続陽性群は転移出現率、死亡率ともに有意に高率であることが示された。また、患者の予後を規定する因子を多変量解析にて検討したが、その結果血中AFP mRNAの経時的変化が最も有用であることが示された。 以上、本論文は血中AFP mRNAの存在を指標として流血中に存在する肝癌細胞を検出することを試み、またその有無が実際に患者の予後や治療効果の判定に有用であることを示した。本研究はこれからも増加の一途をたどる肝癌患者の経過観察において、予後の悪い群を予測する際に新たな指標を与えるものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |