尿道平滑筋には 1-アドレナリン受容体が分布し、この受容体の刺激により尿道平滑筋が収縮することから、腹圧性尿失禁の治療に 1-アドレナリン受容体作動薬が臨床応用されているが、これらの多くはその非選択的な交感神経刺激作用により、血圧上昇などの副作用を発現する。 1-アドレナリン受容体には、 1A、 1Bおよび 1Dの少なくとも3種のサブタイプが存在することが明らかにされており、生体各組織においてその分布が異なることが示唆されているが、尿道平滑筋におけるサブタイプの種類や性質については明らかにされていない。 本研究は、尿道平滑筋にはいずれの 1-受容体サブタイプが存在し、それがどのように機能するかを明らかにし、さらに尿道閉鎖機能を選択的に高める薬物療法の可能性を検討した。 1-アドレナリン作動薬としてnoradrenaline,phenylephrineの他、腹圧性尿失禁の治療薬として臨床応用されてきたnorephedrineおよびmidodrineの活性代謝物ST-1059ならびに新規に合成されたスルホンアニリド誘導体NS-49を使用した。 まず種々の作動薬がいずれの 1-サブタイプに選択的に作用するかを調べるため、発現ヒト型 1a, 1b,および 1d受容体サブタイプに対する親和性を[125I]HEAT結合阻害作用を指標に検討した。Noradrenalineおよびphenylephrineは 1dサブタイプに最も高い親和性を示した。NS-49は 1aサブタイプに最も高い親和性を示し、ST-1059は軽度ながら 1aサブタイプ選択性を示した。 次に、各サブタイプに対する作動薬の内活性を調べるために、ヒト型 1a, 1bあるいは 1dサブタイプを発現させたCHO細胞の細胞内遊離カルシウム濃度([Ca2+]i)上昇作用を検討した。Nor-adrenalineおよびphenylephrineはいずれのサブタイプ発現細胞においても顕著な[Ca2+]i上昇作用を示した。NS-49は、 1aサブタイプ発現細胞においてのみ著明な[Ca2+]i上昇作用を示し、その最大反応はnoradrenalineの約56%であった。一方、NS-49は 1bあるいは 1d発現細胞においてはnoradrenalineの[Ca2+]i上昇作用に競合的に拮抗した。したがって、NS-49は 1a受容体に対しては部分作動薬として、また 1bあるいは 1d受容体に対しては競合的拮抗薬として働くことが示唆された。ST-1059は 1aサブタイプに対しやや高い親和性を示したが、いずれのサブタイプに対しても作動薬として働き、その内活性に高い選択性は認められなかった。以上のことから、NS-49だけが 1a受容体サブタイプに選択的な作動薬であることが明らかとなった。 Noradrenaline,phenylephrine,ST-1059およびNS-49はいずれも摘出イヌ尿道標本を強く収縮させた。また、noradrenaline,phenylephrineおよびST-1059はいずれも摘出頚動脈標本を強く収縮させたが、NS-49は高濃度においても摘出頚動脈標本をほとんど収縮させなかった。 イヌにおいて、ST-1059は尿道内圧と血圧をともに上昇させたが、NS-49は血圧を上昇させることなく尿道内圧を選択的に上昇させた。このことから、イヌの尿道収縮機能には 1A-受容体サブタイプが深く関わり、逆に、血圧上昇には 1Bあるいは 1Dサブタイプが強く関与していることが示唆された。 最後に、ヒト前立腺部尿道に存在する 1-受容体サブタイプの検討を行った結果、ヒト尿道における各種作動薬および拮抗薬の親和性と、発現ヒト 1aサブタイプにおける親和性とが高い相関関係を有することを見出した。このことから、ヒト尿道平滑筋に優位に存在するのは 1Aサブタイプであることが明らかとなった。また、prazosinのヒト尿道 1-受容体に対する親和性が、いずれの発現 1-受容体サブタイプに比べても低いことも見出し、ヒト尿道にはprazosinに低親和性と定義される 1L-受容体も存在することが示唆された。 以上まとめると、 1A-受容体に高い選択性を示したNS-49は、イヌを用いたin vitroおよびin vivo試験においても高い尿道選択性を示した。したがって、イヌの尿道収縮機能には 1Aサブタイプが優位に関与することが示唆された。さらに、ヒト尿道にも 1Aサブタイプが優位に存在することも明らかとなり、ヒト尿道の収縮機能においても 1Aサブタイプが優位に関与することが推定された。また、 1A-選択的作動薬は、ヒトにおいても尿道選択的と推定され、副作用の少ない優れた腹圧性尿失禁治療薬になり得ることが示唆された。 |