本研究は、HIV-1の感染及びAIDSの発症の予防に重要な役割を果たしていると考えられている細胞傷害性T細胞(CTL)の役割を明らかにするために、AIDSの悪化因子として報告されているHLA-B35分子により提示される、CTLエピトープの同定を行ない、HIV-1感染者におけるCTLエピトープの認識の詳細な解析を行なったものであり、下記の結果を得ている。 1.HLA-B35陽性HIV-1感染者の末梢血リンパ球から特異的CTL活性が誘導できた10種のHIV-1SF2由来のペプチドが真のCTLエピトープであることを確認するために、各ペプチド特異的CTLクローンの作成を試みた。結果10種のうち、9種のペプチド特異的CTLクローンが作成された。これらのCTLクローンは、C1RB*3501細胞にペプチドを結合させた標的細胞に対して、結合したペプチドの濃度依存性にCTL活性を示し、またC1RB*3501細胞にHIV-1SF2のGag-Pol,Env,Nefのそれぞれの遺伝子を組み込んだvaccinia virusを感染させた標的細胞に対して特異的CTL活性を示した。これらの結果から、9種のエピトープがHLA-B*3501によって提示されるCTLエピトープであることが確定された。CTLエピトープはPol由来が5、Env由来が2、Nef由来が2であった。 2.同定されたCTLエピトープがHIV-1感染者で広く認識されるエピトープであるかどうかを確認するために、7名のHLA-B35陽性のHIV-1感染者末梢血リンパ球を9種のエピトープで4回刺激し、特異的CTL活性の誘導を検討した結果、6種((Pol由来4、Nef由来2)のエピトープが3名以上のHIV-1感染者で誘導され、これらが広く認識されるエピトープであることが明らかであった。 3.9種のエピトープがHIV-1感染者で強く認識される、immunodominantなエピトープであるかどうかを確認するために、HIV-1感染者の末梢血リンパ球をエピトープペプチドで1回刺激後に特異的CTL活性を確認した。Env由来の1種を除く、8種のエピトープ特異的CTL活性が誘導され、これらのエピトープがimmunodoninantなエピトープであることが確認された。 4.同定されたエピトープの変異をHIV-1cladeBで検索したところ、各エピトープで1種以上、合計22種の変異エピトープが検索された。これらのエピトープに対するCTLの認識の変化をCTLクローンを用いて検討したところ、19/22の変異エピトープの認識がもとのエピトープと比較して減少していた。この原因を解析したところ、変異エピトープのアミノ酸の置換がHLA-B*3501との結合親和性に影響していたものが7種、T細胞受容体(TCR)の認識に影響していたものが12種であった。 以上、本論文は、HLA-B*3501分子によって9種のHIV-1由来のCTLエピトープが提示されることを明らかにし、この結果から、HLA-B*3501分子がAIDSの悪化因子である原因として、CTLエピトープを提示できないという可能性が否定された。今後、HIV-1感染者から分離されたHIV-1について、これらのエピトープの変異とCTLの認識の変化を解析することは、HIV-1が免疫系からエスケープする機構を解明する上で重要と考えられる。また、HLAクラスI分子により提示される多数のCTLエピトープを同定することは、HIV-1のワクチン開発にも重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |