本論文は、「Adsorption and growth of Al on Si(100)surfaces as studied by scanning tunneling microscopy(STMによるSi(100)表面上へのAl吸着構造と膜成長の研究)」と題し、半導体表面上における金属薄膜成長の初期の吸着構造と成長の動的過程を明らかにした論文である。即ち、走査トンネル顕微鏡法(STM)を主たる測定手段として、シリコン(001)表面上におけるAlの原子配列、Alの島の濃度及び分布を、基板温度、被覆率を変化させながら測定し、Al/Si(100)表面の構造とAl薄膜成長の初期段階の動的過程をしらべたものである。 本論文は6章よりなる。 第1章は、序論であり、金属/半導体の研究、特に、Al/Si(100)の研究の重要性と、現在までの研究の概略、未解決な点について記述されている。 第2章は、本研究において、基板として用いている、Si(100)表面の原子的な構造に関して、主として、従来のSTMを用いた研究により明らかになった点について記述している。 第3章は、本研究において用いられた、STM装置、Si(100)基板の清浄方法、蒸発源の構成、蒸着速度の制御等の実験方法に関して記述されている。 第4章は、Si(100)表面におけるAlの吸着構造に関する結果について述べられている。Alの被覆率が、0.5ML以下の場合、吸着時の基板温度が350℃以下では、Al原子は基板のSiダイマー列に対して、垂直なダイマー列を形成して成長する。吸着したAl原子の配列構造模型は、現在までに、2種類のモデルが提案されている。1つは、Alダイマーボンドが基板のSiのダイマーボンドに対して垂直に吸着する場合であり、orthogonal-dimerモデルと呼ばれており,もう一つは、AlダイマーボンドがSiのダイマーボンドに平行に吸着する場合で、parallel-dimerモデルと呼ばれている。実際の表面がどちらの配列構造になっているかを、正負の印加電圧においてSTMによりしらべた。試料電圧が正の場合には、電子は、探針尖端から、試料表面の非占有準位へとトンネルする。このとき得られたSTM像は、Siのダイマー列に垂直な方向に長軸を有する楕円形である。また、試料電圧が負で、試料表面の占有準位に対応するSTM像においては、平行ダイマーの場合のAl-Siのバックボンドに対応する位置で、輝点が観察された。これらの結果より、Al/Si(100)表面が、parallel-dimerモデルによって成長することが明らかになった。 350℃以上における吸着は、300℃以下の吸着と異なっており、正負の試料電圧に対するSTM像の結果から、単位構造が4個のAl原子と2個のSi原子からなるものが存在していると考えられる。 第5章は、Al薄膜の形成の初期段階を、Al原子の吸着、表面拡散、核形成などの成長の動的過程を考慮して、原子レベルで考察したものである。即ち、安定核の形成速度の理論式を提案し、その基板温度依存性が2つの転位温度により3つの温度領域に分けられることを示し、それらの各領域は、完全凝縮、初期不完全凝縮、不完全凝縮とし特徴づけられる。初期不完全凝縮の領域においては、吸着原子の再蒸発がまだ無視できる程度であるので、単原子の濃度が増加し、核形成の確率を増加させる。 このような理論解析に基づいて、Si(100)表面におけるAl原子の拡散係数、吸着エネルギー等の評価を行った。即ち、Alの核の濃度を正確に測定し、核の濃度の温度依存性を求めた。基板温度の上昇とともに島の濃度は減少していき、転位点で最小となり、それ以上では、逆に濃度が増加する領域の存在することを明らかにした。これらの結果を、速度式と比較して、表面拡散エネルギー、吸着エネルギー等の値を求めることができた。 第6章は、終章として、本研究で得られた一連の知見に関する総括が加えられている。また、今後行っていくべき研究の方向性に関する著者の見解が述べられている。 以上を要するに、本研究は、STMを用いることにより、半導体表面上における金属薄膜の形成の初期過程に関して、核の形成の動的過程を考慮することにより、いくつかの重要な知見を得ている。本研究は、この分野に多くの寄与をする研究であると見なせる。 よって、本論文は博士(工学)の学位申請論文として合格と認められる。 |