本論文は「ニューラルネットワークの学習法と予測問題への適応に関する研究」と題して、6つの章と付録からなる。 ニューラルネットワークが世の中に受け入れられ一つのブーム的研究課題になって既に15年が経過し、この間に分散・並列的な大規模システムのダイナミクスの理論、学習理論の新しい展開が見られたが、応用との関連・可能性の最も大きいものは誤差逆伝播法を用いたパターン分類・認識、予測問題であると考えられる。 本論文はこの誤差逆伝播型ニューラルネットワークをパターン分類に応用する際の性能の改良とそれを用いた実世界の予測問題(具体的には株式売買決定問題)への応用について研究したものである。 第1章は序論であり、ニューラルネットワーク研究を歴史的に展望し、本研究の背景とそれから引き出される本研究の目的について述べている。 第2章「ニューラルネットワークへの教師信号の提示法」では、各部分特徴を入力した部分誤差逆伝播型ニューラルネットワークを統合する形式のパターン認識問題を対象として、各部分特徴ごとに誤りを解消する方向に教師信号を変更する方式を提案し、その有効性を手書き数字認識を用いて例証した。さらに2次元正規分布データを用いて、各部分特徴が互いに異なる類似クラスをもつ場合に本方式が有効であることを定量的に示した。 第3章「ニューラルネットワークへの学習セットの提示法」では重なり合いのないクラスの分類問題を取り扱い、誤差逆伝播型ニューラルネットワークの学習時間短縮のための2つの学習セットの提示法を提案している。 第1の段階的誤差監視法は学習中に各パターンの学習誤差を監視して誤差の大きいパターンの提示回数を増加することによって学習の偏りを減少させるものである。第2のクロス・テスト法は学習セットの中の少数パターンを予め検出しこれを多数含めた学習セットを構成する方法である。ここで、少数パターンの検出はつぎの方法による。学習セットを2つの部分学習セットに分割し、それらを2つの誤差逆伝播型ニューラルネットワークを用いて別個に学習し、つぎにこの学習の済んだニューラルネットワークにそれぞれ未学習の方の部分学習セットをテストパターンとして与えて誤ったパターンを少数パターンとする。これらの方法を伝票の手書き数字の実データに適応してその有効性を定量的に示すとともに、2次元擬似正規分布データを用いて本提示法によって構成される学習セットの構造の概念的理解を試みた。 第4章「選択的強調学習のニューラルネットワークを用いた予測法」は誤差逆伝播型ニューラルネットワークを実際の予測問題に応用する際に検討すべき重要な問題点として、学習データおよび目的関数に関する価値付(評価法)の問題を扱っている。まず、学習データに関しては、すべての学習データを均等に扱うのではなく、ある評価基準にしたがって分類し選択的に提示する方式および選択的に学習係数を設定する方式を提案する。つぎに、目的関数の設定方法として予測に基づいてなされる行動に準拠した方法を提案している。 第5章「予測問題への応用」は前章での問題提起を(1)多変量の、(2)先験知識がある,(3)実世界の予測問題に適用することを試みたものである。このような予測問題として東証株価指数(TOPIX)を取り上げて、学習データの価値評価として大きな変動を高く評価し、それに対応するデータを選択的に学習させ、また目的関数として株式の売買シミュレーションの予測効果を用いることによって、大きな変動データの学習誤差を減少させ、予測効果の大幅な改良が得られることを多数の事例において示した。 第6章「結論」は上記の各章の結果を要約したものである。 これを要するに本論文は誤差逆伝播型ニューラルネットワークにおける学習法の改良を提案し、実世界の問題に適用してその有効性を定量的に示したものであり、情報工学、システム工学に貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認める。 |