コンクリート建築物の安全性・耐久性を高めるためには、高強度コンクリートは非常に有効であると考えられており、近年、建築の高層化と施工の合理化および居住性の改善などから高強度コンクリートによる建築が多くなってきている。今後さらに高い強度で良い施工性の高強度コンクリートの実現が必要となってくるものと思われる。本研究は、安定した品質の高強度コンクリート及び高強度コンクリート構造物を造り出すために、その調合要因・養生条件および流動性状が、コンクリート強度に及ぼす影響について検討したものである。 第1章は序論であり、研究の背景を述べ、目的と範囲を明確にした。 第2章では、高強度コンクリートの強度と調合要因との関係を明らかにした。 まず初めに普通セメント、早強セメント、低発熱セメント、ビーライトセメントなどのセメント種類について検討を行った。その結果、普通セメントと比較した場合、早強セメントを使用したものは標準養生の4週材令で1500kgf/cm2の高い圧縮強度が得られることがわかった。また低発熱セメントとビーライトセメントを使ったものは、強度発現が比較的遅いが、温水養生または蒸気養生で作製した場合の長期圧縮強度は2000kgf/cm2程度にまで高くできることが判明した。 また、混和材料として微粒シリカヒュームと高炉微細スラグを選び検討を行った。その結果、シリカヒュームを結合材に対して10%〜15%添加することで、コンクリートの強度は300〜400kgf/cm2上昇することがわかった。また、高炉スラグをシリカヒュームとともに添加すれば、さらに100kgf/cm2程度の強度の伸びが得られることも判明した。また、コンクリート混練に先立ち、攪拌装置(オムニミキサ)でセメントと混和材料(シリカフューム、高炉スラグ)の混合物を混練しておくと、コンクリート強度の増進が得られることがわかった。 次に骨材についての検討を行った。その結果、粗骨材の最大寸法を小さくすることにより、高強度コンクリートの圧縮強度を高くできることがわかった。また、骨材自身の点載荷式圧裂引張試験による結果と併せて考慮すると、粗骨材の引張強度が高くなるに従い、高強度コンクリートの強度が上がることを確認した。さらに細骨材率についても検討し、細骨材と粗骨材の混合割合による充填率はコンクリートの強度と密接な関係があり、使用材料、混練方法などが同じでも、最も密になる細骨材率の時、最も高い強度が得られることがわかった。 第3章では、高強度コンクリートの養生方法と強度発現の関係を明らかにするため、各種養生方法の検討を行った。併せて高強度コンクリートの物性についても検討した。 はじめにモルタルによる検討を行い、初めの標準養生を1日間行った後、60℃温水養生を7日間行う方法、または初めの標準養生を2日間行った後、60℃温水養生を4日間行う方法によってモルタル組織中の珪酸分がポリマー状になる反応(シロキサン結合)が起き、250kgf/cm2を超える曲げ強度を得ることができた。また、この高曲げ強度モルタルは普通養生のモルタルと比較して、弾性係数はやや低いものの、収縮率は0.02%、吸水率0.2%と約1/3となったほか、対衝撃性能は約2倍という物性を持ち、耐火・耐熱性能も優れている。 コンクリートに対しての養生方法は、(1)標準養生、(2)温水養生、(3)蒸気養生、(4)封かん養生、(5)断熱養生の5種類である。 その結果、養生方法と強度とに一定の関係を見いだすことができ、加熱を伴う養生方法を用いたものは、そうでないものと比べ全体的に高い圧縮強度・曲げ強度が得られた。特に曲げ強度は200kgf/cm2を越えるものもあった。加熱を伴う養生方法はある程度のシロキサン結合が生成し、高い強度が得られたと考えられる。圧縮強度の増加に伴い、曲げ強度も増加をしていることが確認されたが、引張強度はほとんど伸びが見られなかった。 圧縮強度と弾性係数との間には相関があり、圧縮強度が大きくなるに伴い、弾性係数は増大する傾向がみられた。弾性係数は3.5×105〜4.5×105kgf/cm2の値が得られた。また、ポアソン比は0.15〜0.25となった。長さ変化率と重量変化率については、13週での長さ変化率が0.05%前後、重量変化率は0.35%前後となった。 第4章では、高強度コンクリートの流動性と調合要因との関係についての検討を行った。普通セメントを使用した場合、水セメント比がある一定限界を超える(今回の実験ではW/C=25%以下)と、流動性が悪化する傾向が見られた。一方、ビーライトセメントを使用した場合、同一調合でもスランプ・スランプフロー値は大きくなった。 また、骨材に関しては、骨材が最大密度を示す細骨材率において最もワーカビリティのよいコンクリートが得られた。 混和材料についてはシリカフュームを混入した調合は無混入よりやや流動性が低下するが、シリカフュームを多く混入した調合では、シリカフュームの一部を高炉スラグに代替すると、コンクリートのワーカビリティが改善できることがわかった。また、コンクリート混練に先立ち、攪拌装置(オムニミキサ)でセメントと混和材料(シリカフューム、高炉スラグ)の混合物を混練しておくと、コンクリートの流動性の改善が得られることがわかった。 なお、高強度コンクリートのスランプとスランプフローには の相関関係があった。 また、スランプが20cm以上のワーカビリティのよいコンクリートはスランプ・スランプフローともに経時変化は非常に少ない結果となったが、スランプ・スランプフローのみをワーカビリティの評価の指標とするのは、粘性など把握できない物性があるため完全とはいえない面があることもわかった。 第5章は、高強度コンクリートの流動性試験方法の検討である。高強度コンクリートは現状では粘性が非常に高く、施工性が悪化しやすい。しかし、現段階においては、コンクリートの基本的性質を物理量として数値的に捉え、その施工性を確実に判定することは難しく、その基本性質の評価方法と施工性判定試験方法の確立の必要に迫られている。 従来の試験方法で流動性試験を行うとともに、コンクリート用回転粘度計試験及び今回提案したJ型フロー試験を行った。今回使用した回転粘度計試験では、内円筒を各種の速度で回転させ、内円筒の角速度及びその時点のトルクを測定し、そのデータから剪断応力と剪断速度を求めた。J型フロー試験はJ型のパイプで出来ているJ型フロー試験器にコンクリートを充填し、圧力差によって流出する様子を調べる試験である。試験方法は、まず、J型導管の低い方の流出口からコンクリートが流出しないように蓋をして、J型導管の高い方の上端までコンクリートを充填する。その後、流出口の蓋を取り除き、コンクリートを流出させる。その際、導管内のコンクリートの落下時間を流下距離5cmごとに測定した。最後にコンクリートの流出が停止した時点で、コンクリートの高低差を測定した。測定データから剪断応力P=PR/2L、剪断速度V=4Q/R3を、また、剪断応力Pと剪断速度Vと剪断応力降伏値F。と粘度係数との関係P=V+F。を求めた。ここに、Pは駆動圧、Rは導管の半径、Lは導管内のコンクリートの平均長さ、Qは流体量である。 回転粘度計試験結果とJ型フロー試験結果と比較すると、各コンクリートの流動性はほとんど同じ傾向であったが、J型フロー試験では、コンクリートの自然流下を利用した試験であり、実用的な低剪断速度域での剪断応力の関係がかなり精度良く測定が可能であることがわかった。また、J型フロー試験の結果から、高強度コンクリートの流動性の良好な範囲を設定した。粘度係数では0.75〜3.75g・sec/cm2、剪断応力降伏値は1.20g/cm2以下の範囲が適切な流動性の保持範囲である。これらの数値は、回転粘度計以外の従来の流動性試験方法では検出が不可能である。 第6章では、従来の試験方法と前記のJ型フロー試験による粘度係数と剪断応力降伏値について比較を行った。J型フロー試験の粘度係数により流動性が不適合とされたコンクリートの中にはスランプフロー値が60cm前後程度ある調合が存在した。従って、このような流動不良のコンクリートはスランプフロー値のみでは検出できていないことがわかった。また、Lフロー試験との比較においても、スランプフロー試験と同じように、Lフロー試験では流動不良が判定できなかった調合が存在した。円筒貫入試験との比較においては、粘度係数の減少に伴い、円筒貫入試験値が大きくなるが、コンクリートの流動良否は明確に検証できていないことがわかった。また、J型フロー試験結果による流動性判定と強度試験結果との比較により、粘度係数が0.75g・sec/cm2以下の、分離と判定されるコンクリートは13週強度がほとんど伸びないか、低下していることがわかった。一方、流動性が良好とされる範囲内のコンクリートには、長期強度の低下はほとんどないことがわかった。これらにより、J型フロー試験の結果によってコンクリートの分離が判定でき、長期強度の伸びが予測可能なことがわかった。従って、これらの従来の試験方法に替って流動性の判定に粘度係数と剪断応力降伏値と両方の指標を用いればかなりの程度のコンクリートについての流動性の評価に対応できることがわかった。 第7章では、高強度コンタリートの調合要因がその流動性に与える影響をJ型フロー試験により検討し、またその流動性状がコンクリート強度に及ぼす効果について検討した。 まず、セメントの種類・水セメント比と流動性の関係について検討した。セメントは普通・高炉・ビーライトの3種類を検討したが、分離低減剤を使用せず、水セメント比が30%前後である時は、コンクリートの流動性はセメント種類に関係なくほぼ同じであり、水セメント比を高くすると、どのセメントでも分離になりやすく、水セメント比が低い時、高炉セメントとビーライトセメントを使ったものは過剰粘性になりやすいことがわかった。また、分離低減剤を使用しない場合の水セメント比については、粘度係数との関係から、水セメント比が25〜30%の範囲が最も良いという結果となった。 次に、流動性に及ぼす添加剤の効果について検討した。現状では高強度コンクリートに良好な流動性を付与するために、多量の高性能AE減水剤が使用されているが、材料の分離を防ぐためには、水セメント比を下げるか、あるいは分離低減剤を添加する必要があった。 今回の実験では、水セメント比35%以上のコンクリートを対象とし、スランプフローが60±3cm以上になるように高性能AE減水剤の使用量を調節した。その結果、高性能AE減水剤を添加すると、粘度係数と剪断応力降伏値はともに小さくなることがわかった。また、高性能AE減水剤を一定として、分離低減剤の使用量が増加すると、変化の程度は結合材の種類によって若干異なるが、スランプフロー値が減少し、粘度係数と剪断応力降伏値がともに大きくなることがわかった。更に、分離低減剤の使用量および高性能AE減水剤の使用量が適切である時には、コンクリートの粘度係数は増大し、剪断応力降伏値は減少することがわかった。 第8章は結論であり、本研究を通じて得られた成果について総括している。 |