学位論文要旨



No 213551
著者(漢字) 亀屋,隆志
著者(英字)
著者(カナ) カメヤ,タカシ
標題(和) 生物活性炭による高度浄水処理に関する研究
標題(洋)
報告番号 213551
報告番号 乙13551
学位授与日 1997.10.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13551号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大垣,眞一郎
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 助教授 古米,弘明
 東京大学 助教授 迫田,章義
内容要旨

 水道水源水質の汚染が進行し,従来の浄水処理法では除去することができない溶解性有機物を除去するために高度浄水処理法の導入が検討されており,特に,生物活性炭による方法が注目されている。しかし,高度浄水処理法として適切に生物活性炭処理を導入するためには,生物活性炭での吸着と生分解の同時進行による有機物除去性能の変化とその機構,および,吸着量の増加にともなう活性炭の吸着性能の劣化に関しての情報が不足している。

 本論文では,生物活性炭における吸着と生分解の役割を解明するとともに,生物活性炭における有機物除去性能の解析手法を確立し,高度浄水処理への導入に向けた生物活性炭処理プロセスの最適な設計や運転条件を選定するための手法を提示した。

 第1章「序論」では,水道水源の悪化の現状と水道水質基準の改正による高度浄水処理導入の必要性や課題について文献調査を行い,生物活性炭処理に対する期待と位置づけを明確にした。また,生物活性炭による現場処理試験結果や処理機能に関する従来の研究と課題を整理し,生物活性炭の導入に向けて重要となる吸着と生分解の同時進行による有機物除去性能の変化とその機構,および,吸着量の増加にともなう活性炭の吸着性能の劣化に関する情報が不足していることを明らかにし,本研究の目的と構成を明確にした。

 第2章「粒状活性炭の種類と水中有機物の吸着性能の解析」では,異なる活性炭に対する分子量数百から数十万の幅広い範囲のモデル有機物の吸着性能を調べ,分子量がある一定値付近よりも大きくなると吸着可能な大きさの細孔が極端に少なくなって吸着量が著しく低下し,特に,大きめの細孔が少ない活性炭ほど分子量の小さな有機物でも吸着容量が大きく低下することを明らかにし,実際の凝集沈殿後河川水を通水した活性炭について確かめた。また,大きめの細孔が閉塞した活性炭で除去可能な有機物の除去率が活性炭ごとに接触時間によってほぼ決まり,活性炭粒径にほぼ反比例することを確かめ,適切な活性炭の選定方法を提示した。

 第3章「ミニカラムによる凝集沈殿後河川水中の有機物の長期間処理性能の解析」では,約1800日間に及ぶ長期間連続処理実験において有機物除去効果の変化を活性炭と砂との比較で解析し,吸着効果による積算除去量が平衡吸着量や細孔容積減少量に比べてかなり大きいことを定量化するとともに,一度吸着した生分解性の有機物の約2/3が生物再生によって分解・除去された証拠と生分解されにくい有機物が接触時間の短い入口付近の活性炭から順に蓄積して吸着能力が低下していく証拠を細孔容積の減少量との定量的な一致のもとで明らかにした。

 第4章「ベンチスケール装置による河川水の長期間処理性能の解析」では,実際の河川水を凝集沈殿してから通水すると吸着性能が約1300日以上も持続するが,凝集沈殿処理を行わないで直接通水すると生物再生されにくい有機物が短期間に蓄積して吸着性能が約1年程度でほぼ失われてしまうことを細孔容積が有機物除去率の低下とともに減少する証拠から明らかにした。また,従来よりやや大きめの粒径1.41mm程度の活性炭を用いることにより,処理水質の悪化もなく,また,目詰まりによる圧力損失の増加や逆洗による活性炭の流出などを抑制できることを明らかにした。

 第5章「活性炭の細孔変化と吸着性能劣化の解析」では,凝集沈殿した河川水を生物活性炭で長期間処理した場合,活性炭の吸着性能が細孔容積の減少にともなって低下し,この細孔容積減少の原因が生分解性の低い有機物の蓄積によるものであることを定量的に明らかにした。また,細孔内に蓄積した有機物がNaOHを用いたアルカリ抽出によってほぼ完全に回収できることを抽出前後の細孔容積変化から定量的に証明するとともに,吸着した有機物の密度が約0.91g/cm3であることを実験的に初めて明らかにした。さらに,分子量の大きな有機物が吸着すると,大きめの細孔が少ない活性炭では小さめの細孔が閉塞されて吸着量以上に細孔容積が減少し,吸着性能が著しく低下することを明らかにした。

 第6章「生物活性炭のTOC処理性能の解析モデルと予測」では,生物活性炭での多成分系の有機物の処理性能と活性炭の寿命を的確に予測する実験的解析モデルと簡便な数値計算プログラムを構築した。また,実際の河川水を凝集沈殿した水をミニカラム装置で処理した場合のTOC処理性能と活性炭吸着容量の変化について,数値計算プログラムによる予測値と実測値とを比較し,本研究で提案する解析モデルの実用性を確かめ,任意の水質の原水を生物活性炭装置で処理する場合の有機物処理性能と活性炭の寿命を予測する手法を示した。さらに,空塔接触時間ごとのTOC除去性能の経日変化,活性炭の吸着物蓄積量の変化,再生サイクルおよび目標TOC除去率と空塔接触時間とを決めた場合の再生サイクルの求め方を提示した。

 第7章では,本研究の成果を総括した。

審査要旨

 本論文は,「生物活性炭による高度浄水処理に関する研究」と題し、生物活性炭における吸着と生分解の機構を解明するとともに、生物活性炭水処理における有機物除去性能の解析手法を確立した研究である。加えて、生物活性炭水処理プロセスの最適な設計と運転条件を選定するための手法も提示している。

 第1章「序論」では、水道水源の悪化の現状と水道水質基準の改正による高度浄水処理導入の必要性と研究上の課題を整理するとともに、本論文の目的と構成を示している。

 第2章「粒状活性炭の種類と水中有機物の吸着性能の解析」では、3種類の活性炭に対する分子量数百から数十万の幅広い範囲のモデル有機物の吸着性能を調べ、分子量がある一定値付近よりも大きくなると、吸着可能な大きさの細孔が極端に少なくなり、吸着量が著しく低下すること、特に、大きめの細孔が少ない活性炭ほど分子量の小さな有機物でも吸着容量が大きく低下することを明らかにしている。フミン質のような分子量の大きな有機物を含む河川水を活性炭処理する場合には、凝集沈殿処理を行って懸濁物と分子量の大きな有機物を除去した後、幅広い細孔容積分布を有する石炭系の粒状活性炭で処理することが望ましいことを明らかにしている。

 第3章「ミニカラムによる凝集沈殿後河川水中の有機物の長期間処理性能の解析」では、約1800日間に及ぶ長期間連続処理実験において、有機物除去効果の変化を活性炭と砂との比較で解析し、吸着効果による積算除去量が平衡吸着量や細孔容積減少量に比べてかなり大きいことを示している。一度吸着した生分解性の有機物の約2/3が生物によって分解・除去されること、および、生分解されにくい有機物が接触時間の短い入口付近の活性炭から順に蓄積して、吸着能力を低下させていくことを細孔容積の減少量から明らかにしている。

 第4章「ベンチスケール装置による河川水の長期間処理性能の解析」では、実際の河川水を凝集沈殿ののち通水すると、吸着性能が約1300日以上も持続するが,凝集沈殿処理を行わないで直接通水すると、生物分解されにくい有機物が短期間に蓄積して、吸着性能が約1年程度でほぼ失われてしまうことを、細孔容積が有機物除去率の低下とともに減少する点から明らかにしている。

 第5章「活性炭の細孔変化と吸着性能劣化の解析」では、凝集沈殿した河川水を生物活性炭で長期間処理した場合、活性炭の吸着性能が細孔容積の減少にともなって低下することを明らかにし、この細孔容積減少の原因が生分解性の低い有機物の蓄積によるものであることを定量的に明らかにしている。また、細孔内に蓄積した有機物はNaOHを用いたアルカリ抽出によってほぼ完全に回収できることを、抽出前後の細孔容積変化から証明するとともに、吸着した有機物の密度が約0.91g/cm3であることを実験的に明らかにしている。さらに、大きめの細孔が少ない活性炭では、分子量の大きな有機物が吸着すると、小さめの細孔が閉塞されて吸着分以上に細孔容積が減少し、吸着性能が著しく低下することを明らかにしている。

 第6章「生物活性炭のTOC処理性能の解析モデルと予測」では、多成分系の有機物の処理性能と活性炭の寿命を的確に予測する解析モデルと簡便な数値計算プログラムを提案している。TOC処理性能と活性炭吸着容量の変化について、この数値計算プログラムによる予測値と実測値との比較を行い、提案している解析モデルの実用性を確認している。

 第7章には、本研究の成果をとりまとめてある。

 以上の成果は、高度浄水処理における生物活性炭プロセスの設計と運転について重要な知見を与えるものであり、都市環境工学の学術の進展に大きく貢献するものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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