本論文は、微粒子や生体細胞などの非接触的操作手法として近年大きな注目を集めているレーザーマニピュレーション、特に、最も活発に研究がなされ、多くの応用が期待されている三次元的光トラップ(Single-beam Gradient-force Optical Trap)の特性解析と応用に関する研究の成果をまとめたものである。 レーザーマニピュレーションを応用したシステムを設計する上で、対象に作用する光放射圧を定量的に把握することが重要であるが、三次元的光トラップ力の実測例は少なく、高精度かつ系統的なデータの取得が必要とされている。また、三次元的光トラップ力の解析モデルについては、その適用妥当性やモデル間の相補性を明らかにする必要がある。一方、新しいレーザーマニピュレーションの手法や応用の開発研究も現在活発になされているところであるが、特に、空気中での三次元的光トラップの成功例はなく、このためレーザーマニピュレーションの応用が制約されている。以上の背景をふまえ、本論文は、1)三次元的光トラップ特性の実験的および理論的解析、2)新しいレーザーマニピュレーションの手法と応用の開発、の2つのテーマを扱っており、全7章で構成されている。 第1章は序論であり、レーザーマニピュレーションの概要、応用分野、既往の研究、さらには本研究の目的を述べている。 第2章では、各種媒質中におけるミクロンオーダーのポリスチレン粒子に作用する三次元的光トラップ効率の測定結果を示し、粒径や屈折率の影響について論じており、光トラップ効率は粒径の増加とともに向上した後、徐々に一定になり幾何光学モデルによる予測と一致すること、媒質の種類による顕著な相違は見られないことなどを主な知見として示している。本測定値は種々の条件下での三次元的光トラップ力を見積もる上で有益なものである。 第3章では、幾何光学モデルによる三次元的光トラップ力の数値シミュレーション解析を扱っている。本モデルは幾何光学に基づいており、粒径が波長に比して十分に大きい場合に妥当する。従来の幾何光学モデルを粒子が吸収を持つ場合に拡張し、透明粒子のみならず金属や半導体などの非透明粒子に対する三次元的光トラップ力を解析し、各種パラメータの影響を議論している。さらに、三次元的光トラップが可能な粒子の複素屈折率の範囲を明らかにし、空気中におけるシリカ粒子などの三次元的光トラップの可能性を示唆している。 第4章では、近年提唱された一般化ローレンツ・ミー理論に基づく三次元的光トラップ力の数値シミュレーション解析を扱っている。本理論は波動光学に基づいており、原理的には量子論的取り扱いを必要としない限りいかなる大きさの粒子に対しても適用可能である。本章では透明粒子の三次元的光トラップ力に対するビームスポット径や粒径などの影響を解析するとともに、実験値や幾何光学モデルによる理論値との比較を通じ、本モデルの適用限界ならびに幾何光学モデルに対する包絡性を考察した結果、強く集光したガウシアンビームの焦点近傍に形成される電磁場をより正確に記述する理論の開発を今後の課題としてあげている。 第5章では、空気中での三次元的光トラップ手法の開発と微粒子配列への応用について扱っている。空気中での三次元的光トラップの実証をこれまで阻んできた問題点を述べた後、本手法の概要や観察された光トラップ特性についてまとめている。さらに本手法を用いたシリカ粒子の二次元的および三次元的配列を実証している。本手法は重力など光放射圧以外の力に依存しないこと、対象粒子にはビーム焦点位置に向かう復元力が働くことなどから、既往の空気中での光トラップ手法と比べ、操作性やトラップの安定性において優れていると考えられる。 第6章では、レーザーマニピュレーションの核燃料粉末の遠隔的回収への応用について扱っている。はじめに、二酸化ウランおよび二酸化トリウム粉末を含む種々の金属酸化物粉末の水中での光トラップ特性を実験的に解析している。さらに、これまでに得られた知見を総合し、レーザー光の散乱力による核燃料粉末の遠隔的回収の方法を考案し、これを模擬粉末を用いて実証している。また、想定される回収条件下において二酸化ウラン粉末に作用する光放射圧を一般化ローレンツ・ミー理論により解析し、焦点距離の長いレンズを用いた広範囲に及ぶ二酸化ウラン粉末の効率的回収の可能性を示している。 第7章は結論であり、本研究で得られた新しい成果がまとめられている。 以上を要するに、本研究は、三次元的光トラップ力の特性を実験および理論解析により明らかにし、空気中での三次元的光トラップおよび本手法による微粒子配列を初めて実証し、さらに、光放射圧による核燃料粉末の遠隔的回収の可能性を示したもので、レーザーマニピュレーション技術の利用を促進する上で有益な知見を提供しており、システム量子工学、特にシステム設計工学の発展に寄与するところが少なくない。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |