本研究は気管支喘息の病態生理において重要な役割を果たしていると考えられる好酸球と気道上皮細胞の接着の制御機構を明かにするため、気道上皮細胞株(BEAS-2B)とヒト末梢血好酸球を接着させる実験系において、接着に対する各種サイトカインの影響、接着に関与している接着分子、接着が双方の細胞に及ぼす影響および抗喘息薬の接着に対する影響の解明を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.好酸球と気道上皮細胞株は無刺激でも接着したが、気道上皮細胞株をIFN- (100ng/ml)あるいはTNF- (10ng/ml)で刺激した場合、および、好酸球をPAF(10-7M)あるいはIL-5(2ng/ml)で刺激した場合に接着好酸球数は増加した。 2.フローサイトメトリーによって気道上皮細胞株の細胞膜上にICAM-1が構成的に発現しており、IFN- (100ng/ml)刺激によりその発現量が著明に増大することが示された。しかしながら、気道上皮細胞株を抗ICAM-1抗体で処理しても接着は抑制されなかった。いくつかの抗接着分子抗体で同様の実験を行ったが、抗CD18抗体を好酸球に用いた場合にのみ部分的に接着は抑制された。したがって、好酸球と気道上皮細胞の接着においてはCD18が関与しているが、そのcounter-receptorはICAM-1以外の接着分子である可能性が示唆された。 3.好酸球と気道上皮細胞株が接着する際に、あらかじめ両者を刺激しておくことにより、好酸球からのECP放出、および気道上皮細胞株からのsecretory leukocyte proteinase inhibitor(SLPI)放出が増大することが示された。よって、好酸球と気道上皮細胞は、接着を介して相互を活性化していることが示唆された。 4.最後に抗喘息薬の好酸球と気道上皮細胞株の接着に対する影響について検討した。気道上皮細胞株をデキサメタゾン10-7M以上の濃度で処理することにより接着好酸球数の減少を認めた。そして、この効果は濃度依存的であった。テオフィリンも2 g/ml以上の濃度で好酸球接着を抑制する傾向を示した。塩酸エピナスチンは100 g/mlで接着好酸球数を減少させた。したがって、この好酸球と気道上皮細胞の接着の抑制が抗喘息薬の作用機序の一つである可能性が示唆された。 以上、本論文において、好酸球と気道上皮細胞の接着にはCD18が関与していることが示唆され、この接着の阻害が気管支喘息の新たな治療目標となる可能性が示された。本研究は、気管支喘息の病態生理において重要であると考えられているにもかかわらず不明な点が多かった好酸球と気道上皮細胞の接着の制御機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |