内容要旨 | | Proglumide(1)はRovatiらにより開発されたグルタミン酸の誘導体で抗潰瘍剤として日本でも使用されており,弱いながらもコレシストキニン(CCK)A受容体拮抗作用を有している.Makovecらは1の誘導体を種々検討し,1の4000倍のCCK-A受容体拮抗作用を有するlorglumide(2a)を見い出した.また,2aのメチレンを酸素原子に変換したloxiglu-mide(2b)もSetnikarらにより見い出され,日本では急性膵炎治療剤として,第3相臨床試験中である. CCKは食餌刺激などにより十二指腸上部のI細胞より分泌され,膵腺房細胞のCCK-A受容体に作用して消化酵素の分泌を促進させる.急性膵炎は消化酵素による自己消化が原因で発症すると考えられているので,CCK-A受容体拮抗剤は急性膵炎の治療に有効と思われる. そこで2aをリードとして骨組部分を変換した種々のタイプの化合物3を合成し受容体結合実験を行い,a又はb部分にCO,SO又はSO2を有する化合物が強いCCK-A受容体阻害作用を有することを見い出した.続いてこれらの系列について,構造変換した際に阻害作用がどう変化するかを調べる目的でベンゼン環部分,カルボン酸部分及びアミド窒素の置換基部分を変換した化合物の合成研究とそれらのCCK-A受容体阻害作用の研究を行った. 1.Malonamide誘導体(5,9) まず,文献未記載の新規なmalonamide誘導体(5)を合成した.これらの中で,カルボン酸を有する化合物に強い阻害作用が認められた.次いでR4をカルボキシエチル基に固定し,両側のアミド窒素の置換基をそれぞれ変換した新規なmalonamide誘導体(9)を合成した.その結果,ベンゼン環上の4位には電子吸引性の置換基が必要であることがわかった.もう一方のアミドの置換基としては,炭素数5から6のアルキル基を有する化合物が最も強い阻害作用を示した. 2.含硫アミドカルボン酸誘導体(14-16) 文献未記載の新規な含硫アミドカルボン酸誘導体(14-16)を合成した.なお,スルホキシド(15)には炭素原子上の他にイオウ原子上にも不斉中心が生じるのでジアステレオマーが存在する.極性の低いジアステレオマーをA,極性の高いジアステレオマーをBと表現すると,ジアステレオマーAの方が阻害作用が強かった.続いて,スルフィド(14),スルホキシド(15)及びスルホン(16)の阻害作用を比較すると,スルホキシドのジアステレオマーA(15A)が最も強かった.次に強いのがスルホン(16),その次がスルホキシドのジアステレオマーB(15B)であり,スルフィド(14)の阻害作用が最も弱かった.次に,スルホキシドカルボン酸のジアステレオマーA(15A)における置換基と阻害作用の相関について述べる.まず,ベンゼン環上の置換基に関して,4-chloro体,3-bromo体及び4-nitro体は強い阻害作用を示し,電子吸引性の置換基及びその置換位置が阻害作用発現に重要であることが分かった.二置換体に関しては,3,4-dimethyl体及び3,5-dichloro体は強い阻害作用を示し,3,4-dichloro体は更に強い阻害作用を示した.アミドの置換基に関して,直鎖アルキル基の場合はいずれも非常に阻害作用が強く,炭素鎖中への酸素原子の導入は阻害作用を減弱させた.続いてスルホンカルボン酸(16)における置換基と阻害作用の相関について述べる.まず,ベンゼン環上の置換基に関して,3,4-dimethyl体及び3,4-dichloro体は強い阻害作用を示した,次に,アミドの置換基に関して,炭素数4から6のアルキル基を有する化合物が強い阻害作用を示した.炭素鎖中に酸素原子を導入しても,また炭素鎖を分枝状にしても阻害作用はあまり変化せず,ともに強い阻害作用を示した.続いて,主な化合物について,モルモットの摘出胆のう収縮に対するCCK-A受容体拮抗作用,ラットのamylase分泌に対するCCK-A受容体拮抗作用及び溶血作用の試験を行ったところ,本系列の中では16pが最も好ましい化合物であることがわかった. 3.ナフチルスルホン誘導体(27) 前述の化合物16の3,4-dichlorophenyl基を2-naphthyl基に変換した文献未記載の新規なナフチルスルホン誘導体(27)を合成した.まず,メチレンの数nに関して,前述の3,4-dichlorophenyl誘導体(16)の場合には阻害作用への影響はあまり大きくなかったが,naphthyl誘導体(27)の場合にはn=2の化合物の方がn=1の化合物よりも阻害作用が10倍強かった.次に,アミドの置換基に関して,片方のアルキル側鎖へのエーテル結合の導入は前述の3,4-dichlorophenyl誘導体(16)の場合にはほとんど阻害作用に影響を与えなかったが,naphthyl誘導体(27)の場合には阻害作用を減弱させた.また,一方の側鎖へのエステル結合の導入はエーテル結合を有する27cに比較して同程度の阻害作用を維持するか又は上昇させた.続いて,主な化合物のモルモットの摘出胆のう収縮に対するCCK-A受容体拮抗作用,ラットのamylase分泌に対するCCK-A受容体拮抗作用及び溶血作用の結果より,27cが選択され,光学分割した原料を用いて合成及び受容体結合実験を行ったところ,S体よりもR体の方が強い拮抗作用を示した. 4.Benzimidazole誘導体(35) 前述のmalonamide誘導体(9)のベンゼン環のオルト位にアミノ基を導入した化合物を脱水するとbenzimidazole環を形成した35となるので,文献未記載の新規なbenzimidazole誘導体(35)を合成した.まず,benzimidazole環上の置換基R1,R2に関して,5-chloro体及び5,6-dimethyl体はかなり強い阻害作用を示し,特に5,6-dichloro体の阻害作用は非常に強かった.一方,R2がメチルの化合物の阻害作用は非常に弱く,benzimidazoleのベンゼン環部分には置換基が必要であるものの,1位の窒素原子上には置換基がない方が好ましいことが確認された.続いて,カルバモイル基の隣の置換基R3に関して,カルボキシル基を有する化合物は阻害作用が強く,carboxyethyl基を有する35gが最も強かった.また,一般にカルボン酸のバイオアイソスターと言われているtetrazole環を有する化合物も強い阻害作用を示した.本系列の中では35gが最も好ましい化合物である. 結語 Lorglumide(2a)をリードとして骨組部分を変換した種々のタイプの化合物3をデザイン・合成し,受容体結合実験を行った結果,阻害作用発現には化合物3のa又はb部分のどちらかにCO,SO又はSO2が必要で,またc部分には炭素原子が必要であることを明らかにした.次に,それらの化合物の周辺化合物の検討を行い,16pが強い受容体拮抗作用を有することを見い出すことができた. また,化合物5を発展させたbenzimidazole環を有する35gが化合物3とは異なるタイプであるにもかかわらず,強い受容体拮抗作用を有することを見い出すことができた. 更に,16pの3,4-dichlorophenyl基を2-naphthyl基に変換した27cが強い受容体拮抗作用を有することを見い出し,光学分割後絶対配置を決定した原料を用いて合成した結果,R体の方が強い受容体拮抗作用を有することを明らかにした.(R)-27cはCCK-8により誘発されたamylase分泌及びcaerulein投与による血中amylase量を用量依存的に抑制した.更に,(R)-27cはloxiglumide(2b)に比較して溶血作用が弱く,注射剤として好ましいことがわかった. 以上のように,(R)-27cが急性膵炎治療剤として有用であることを明らかにした. |