学位論文要旨



No 213589
著者(漢字) 柳井,薫雄
著者(英字)
著者(カナ) ヤナイ,シゲオ
標題(和) 血管新生阻害剤の抗腫瘍DDS製剤の設計と抗腫瘍効果増強に関する研究
標題(洋)
報告番号 213589
報告番号 乙13589
学位授与日 1997.11.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第13589号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 今井,一洋
 東京大学 教授 海老塚,豊
 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 助教授 鈴木,洋史
内容要旨

 健常な成人では血管の新生はほとんど認められないが、腫瘍組織では増殖に必要な多数の血管が活発に新生していることから、血管内皮細胞に選択的な増殖阻害剤は選択毒性を有すると考えられる。そのため血管新生阻害剤が新しいタイプの抗癌剤として注目されてきたが、効果は腫瘍を退縮させるには至らないのが現状である。また、血管新生阻害剤の効果増強を図った例は過去に無い。そこで本研究では、血管新生阻害剤であるフマギリン誘導体(以下、TNP-470)を用いて、その薬理活性を最大限に引き出し単剤で腫瘍を退縮させ得る実用的な抗腫瘍DDS製剤の設計と最適化を行った。そして実際に担癌動物モデルを用いて抗腫瘍効果の増強効果を検討した。

1.製剤設計と最適化検討1-1.血管新生阻害剤TNP-470のプロフィール

 TNP-470(図1)はカビ(Aspergillus fumigatus)から産生されるフマギリンの誘導体であり、米国で注射剤としてPhase IIの開発段階にある。TNP-470の水への溶解度は2〜3mg/mlと低く、また、加水分解を受けやすく水溶液中や血漿中では非常に不安定である。一方、有機溶媒や油性基剤へは100mg/ml以上の溶解度で溶解する。生体に投与されたTNP-470は各組織に広く分布し、血液中での分解も含め速やかに代謝され尿および糞中に排泄され、人での全身クリアランスは10〜20l/minと非常に大きい。TNP-470は非常に低いIC50値(数十pg/ml)で血管内皮細胞の増殖を静細胞的に抑制し、高濃度(3g/ml以上)では殺細胞効果を示す。一方、ほとんどの正常細胞および腫瘍細胞では静細胞的阻害作用がみられず、殺細胞効果が数g/ml以上の濃度で認められる。実際に種々のin vivo腫瘍モデル系において血管内皮細胞増殖阻害に基づく抗腫瘍活性を示し、投与方法を急速静注から点滴静注に変更すると生存日数が大幅に延長し体重減少も緩和されることが報告されている。

図1.TNP-470の化学構造
1-2.製剤設計

 TNP-470の薬理活性を効果的に引き出し低副作用で腫瘍を退縮させることを製剤のコンセプトとし、そのために具備するDDSとして、1)腫瘍部位への薬物ターゲティングと2)薬物徐放を考え製剤設計を行った。抗癌剤のターゲティングには腫瘍部位に親和性を有するキャリヤーの利用が試みられているが、全身投与での効果は十分でない。一方、臨床では腫瘍栄養動脈へ抗癌剤を直接投与する治療が行われている。静脈内投与と動脈内投与のターゲティング効果について、癌患者を想定して構築した生理学的モデルを用いて薬物速度論的に考察すると、静脈内投与と動脈内投与では血中薬物濃度推移に大差は無いが、腫瘍組織中累積薬物量は動脈内投与が大きく上回り、その差は腫瘍組織初回通過時の滞留あるいは取り込み量でほぼ決まると理解できる。また、動脈内投与の場合では腫瘍組織中累積薬物量が全身クリアランスの変動の影響を受けにくく、腫瘍組織への一定薬物量の送達という観点からすれば患者の生理的状態の影響を受けにくい投与方法であると言える。また、TNP-470は急速静注よりも点滴静注で延命効果が優れることから、薬物ターゲティング後にTNP-470が持続的に腫瘍組織を曝露するように薬物徐放が必要である。

1-3.製剤化と最適化検討

 動脈内投与後にTNP-470の腫瘍ターゲティングと徐放が期待できるDDS製剤として1)腫瘍組織中の血管塞栓による滞留と主薬徐放を期待する固形のマイクロカプセル製剤、2)腫瘍組織中の微細血管の塞栓ならびに腫瘍血管構造の特殊性による滞留と主薬徐放を期待する油性溶液製剤を考え、薬物徐放性、製剤保存安定性を調べた。マイクロカプセル製剤については、ポリDL-乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を基剤とした液中乾燥法、または各種固形油性基剤を用いたスプレーチリング法によって主薬封入率がほぼ100%の新規な製剤(粒子径:125〜250m)を数種類調製した。しかしながら、PLGAマイクロカプセルでは薬物放出とは別に製剤中での分解が無視できないことや、他のいずれの製剤も室温での保存安定性が不十分であることが示唆される結果であった。

 油性溶液製剤については、種々製剤を調製し薬物徐放性を比較した結果、投与が容易な低粘度のMCT(medium-chain triglyceride、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリン)製剤の徐放性が最も優れ、2週間程度の徐放が可能であることがわかった。また、長期保存安定性も極めて良好であった。なお、MCTはヤシ油を原料とする半合成脂肪酸トリグリセリドで安定な油性基剤であり、経静脈栄養用のエマルジョン製剤としてすでに人に用いられている。

1-4.肝動脈内投与後のTNP-470の組織分布

 最も優れた製剤特性を有するMCT製剤の肝臓腫瘍ターゲティング能を調べる目的で、Walker256肝担癌ラットの肝動脈内に製剤を投与し組織分布を調べたところ、MCT製剤は肝臓正常部や他の正常組織に比較して腫瘍組織選択的に高い割合で長期間滞留する優れた腫瘍ターゲティング能を有することがわかった。

2.VX-2後肢担癌ウサギにおける抗腫瘍効果2-1.各種製剤の抗腫瘍活性の比較

 大腿部内側にVX-2腫瘍を移植したウサギに対して製剤を大腿動脈内投与し抗腫瘍効果を調べた。腫瘍移植3週後の投与で、MCT製剤は持続的かつ強力な腫瘍増殖抑制効果を示した(5mgTNP-470投与、図2)。効果の強さは、徐放期間が1週間程度の油性溶液製剤であるLipiodol(LPD)製剤がこれに次ぎ、PLGAマイクロカプセル製剤ではおそらく一時的な血管塞栓による効果に止まった。このような差の一因は、製剤からのTNP-470の徐放性や製剤中での安定性の違いに求めることができると考えている。以上、抗腫瘍活性の面からもMCT製剤が最適製剤であることが支持された。

図2.抗腫瘍活性の製剤間比較
2-2.MCT製剤の抗腫瘍活性と効果増強

 さらに増殖が進んだ移植後4週の腫瘍(腫瘍体積:10〜40cm3)に対するMCT製剤の抗腫瘍効果を調べたところ、5mgTNP-470含有群では腫瘍増殖をほぼ完全に抑制し、20mg含有群では腫瘍は縮小した。この時、病理組織観察では腫瘍実質の壊死や血管構築の減少を確認した。一方、副作用に関して、いずれの投与群においても体重推移に影響を認めなかった。

図3.MCT製剤による抗腫瘍効果増強

 移植2週後にTNP-470を水溶液として皮下、静脈内あるいは動脈内に投与した場合、効果はいずれの群もせいぜい増殖抑制程度であったが、MCT製剤では単回投与で強力な効果が得られ、その有効性、有用性は高いと言える。その効果増強について考察するため、図3には投与量と投与9日後の腫瘍体積のT/C値の関係を示す。MCT製剤と同等の効果を得るためには、静脈内投与では4倍以上の投与量を、皮下投与に至っては20倍以上を必要とすることが理解できる。

3.Walker256肝担癌ラットにおける抗腫瘍活性3-1.MCT製剤の抗腫瘍効果

 臨床では動脈内投与療法は肝臓癌を対象として最も頻繁に行われている。そこで、前述の肝担癌ラットを用いて薬効ならびに副作用の評価を行った。腫瘍移植1週後に肝動脈内投与し、その後1週間の腫瘍サイズの変化量と投与1週後の腫瘍重量を調べたところ、MCT基剤のみでは腫瘍内の微細血管の部分的塞栓に起因すると考えられる増殖抑制傾向がみられたが、1.25mgTNP-470含有MCT製剤では腫瘍は有意に縮小し重量も小さく抑えられた。さらに抗腫瘍効果の投与量依存性を調べたところ、MCT製剤では0.1mgTNP-470含有でほぼ完全に増殖を抑制し、さらに高投与量(〜5mg)では腫瘍重量は投与時の2/5以下に減少した。また、体重減少などの副作用は全く認められなかった。

 本病態モデルにおけるMCT製剤の効果を図4にまとめた。移植1週後に投与するとその後2週間にわたり抗腫瘍効果が持続し、移植後2週のかなり増殖が進んだ腫瘍に対しても腫瘍縮小効果を発揮することがわかった。

図4.肝担癌ラットにおける抗腫瘍活性
3-2.血中GOT、GPTレベルの変動

 肝担癌ラットを用いて薬効量のMCT製剤投与の肝機能への影響を調べたところ、無処置群では腫瘍の増殖浸潤に伴い両酵素レベルは徐々に上昇したが、MCT製剤投与では基剤容量に依存する両レベルの一過性上昇の後、抗腫瘍効果と一致してその後の上昇を抑制し、腫瘍増殖に伴う肝障害をMCT製剤が抑制することがわかった。

4.総括

 MCT製剤はTNP-470徐放性、製剤保存安定性ならびに腫瘍ターゲティング能の全てにおいて優れた特性を有することがわかった。また、VX-2後肢担癌ウサギならびにWalker256肝担癌ラットの両病態モデルにおいて、MCT製剤は、体重減少などの副作用を伴わずに肥大した腫瘍を縮小させる持続的で強力な抗腫瘍効果を発揮することがわかった。すなわち、TNP-470の抗腫瘍DDS製剤として、MCTを基剤とする動脈内投与用製剤を得ることができた。以上の結果は、血管新生阻害剤をDDS製剤化し、その抗腫瘍効果を増強して低副作用で腫瘍を縮小させ得たはじめての例であり、今後は本DDS製剤の臨床応用が期待される。

審査要旨

 健常な成人では血管の新生はほとんど認められないが、腫瘍組織では増殖に必要な多数の血管が活発に新生していることから、血管内皮細胞に選択的な増殖阻害剤は選択毒性を有すると考えられる。そのため血管新生阻害剤が新しいタイプの抗癌剤として注目されてきたが、効果は腫瘍を退縮させるには至らないのが現状である。また、血管新生阻害剤の効果増強を図った例は過去に無い。そこで本研究では、血管新生阻害剤であるフマギリン誘導体(以下、TNP-470)を用いて、その薬理活性を最大限に引き出し単剤で腫瘍を退縮させ得る実用的な抗腫瘍DDS製剤の設計と最適化を行った。そして実際に担癌動物モデルを用いて抗腫瘍効果の増強効果を検討した。

1.製剤設計と最適化検討1-1.血管新生阻害剤TNP-470のプロフィール

 TNP-470(図1)はカビ(Aspergillus fumigatus)から産生されるフマギリンの誘導体であり、米国で注射剤としてPhase IIの開発段階にある。TNP-470の水への溶解度は2〜3mg/mlと低く、また、加水分解を受けやすく水溶液中や血漿中では非常に不安定である。一方、有機溶媒や油性基剤へは100mg/ml以上の溶解度で溶解する。生体に投与されたTNP-470は各組織に広く分布し、血液中での分解も含め速やかに代謝され尿および糞中に排泄され、人での全身クリアランスは10〜20l/minと非常に大きい。TNP-470は非常に低いIC50値(数十pg/ml)で血管内皮細胞の増殖を静細胞的に抑制し、高濃度(3g/ml以上)では殺細胞効果を示す。一方、ほとんどの正常細胞および腫瘍細胞では静細胞的阻害作用がみられず、殺細胞効果が数g/ml以上の濃度で認められる。実際に種々のin vivo腫瘍モデル系において血管内皮細胞増殖阻害に基づく抗腫瘍活性を示し、投与方法を急速静注から点滴静注に変更すると生存日数が大幅に延長し体重減少も緩和されることが報告されている。

図1.TNP-470の化学構造
1-2.製剤設計

 TNP-470の薬理活性を効果的に引き出し低副作用で腫瘍を退縮させることを製剤のコンセプトとし、そのために具備するDDSとして、1)腫瘍部位への薬物ターゲティングと2)薬物徐放を考え製剤設計を行った。抗癌剤のターゲティングには腫瘍部位に親和性を有するキャリヤーの利用が試みられているが、全身投与での効果は十分でない。一方、臨床では腫瘍栄養動脈へ抗癌剤を直接投与する治療が行われている。静脈内投与と動脈内投与のターゲティング効果について、癌患者を想定して構築した生理学的モデルを用いて薬物速度論的に考察すると、静脈内投与と動脈内投与では血中薬物濃度推移に大差は無いが、腫瘍組織中累積薬物量は動脈内投与が大きく上回り、その差は腫瘍組織初回通過時の滞留あるいは取り込み量でほぼ決まると理解できる。また、動脈内投与の場合では腫瘍組織中累積薬物量が全身クリアランスの変動の影響を受けにくく、腫瘍組織への一定薬物量の送達という観点からすれば患者の生理的状態の影響を受けにくい投与方法であると言える。また、TNP-470は急速静注よりも点滴静注で延命効果が優れることから、薬物ターゲティング後にTNP-470が持続的に腫瘍組織を曝露するように薬物徐放が必要である。

1-3.製剤化と最適化検討

 動脈内投与後にTNP-470の腫瘍ターゲティングと徐放が期待できるDDS製剤として1)腫瘍組織中の血管塞栓による滞留と主薬徐放を期待する固形のマイクロカプセル製剤、2)腫瘍組織中の微細血管の塞栓ならびに腫瘍血管構造の特殊性による滞留と主薬徐放を期待する油性溶液製剤を考え、薬物徐放性、製剤保存安定性を調べた。マイクロカプセル製剤については、ポリDL-乳酸/グリコール酸共重合体(PLGA)を基剤とした液中乾燥法、または各種固形油性基剤を用いたスプレーチリング法によって主薬封入率がほぼ100%の新規な製剤(粒子径:125〜250m)を数種類調製した。しかしながら、PLGAマイクロカプセルでは薬物放出とは別に製剤中での分解が無視できないことや、他のいずれの製剤も室温での保存安定性が不十分であることが示唆される結果であった。

 油性溶液製剤については、種々製剤を調製し薬物徐放性を比較した結果、投与が容易な低粘度のMCT(medium-chain triglyceride、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリン)製剤の徐放性が最も優れ、2週間程度の徐放が可能であることがわかった。また、長期保存安定性も極めて良好であった。なお、MCTはヤシ油を原料とする半合成脂肪酸トリグリセリドで安定な油性基剤であり、経静脈栄養用のエマルジョン製剤としてすでに人に用いられている。

1-4.肝動脈内投与後のTNP-470の組織分布

 最も優れた製剤特性を有するMCT製剤の肝臓腫瘍ターゲティング能を調べる目的で、Walker256肝担癌ラットの肝動脈内に製剤を投与し組織分布を調べたところ、MCT製剤は肝臓正常部や他の正常組織に比較して腫瘍組織選択的に高い割合で長期間滞留する優れた腫瘍ターゲティング能を有することがわかった。

2.VX-2後肢担癌ウサギにおける抗腫瘍効果2-1.各種製剤の抗腫瘍活性の比較

 大腿部内側にVX-2腫瘍を移植したウサギに対して製剤を大腿動脈内投与し抗腫瘍効果を調べた。腫瘍移植3週後の投与で、MCT製剤は持続的かつ強力な腫瘍増殖抑制効果を示した(5mgTNP-470投与、図2)。効果の強さは、徐放期間が1週間程度の油性溶液製剤であるLipiodol(LPD)製剤がこれに次ぎ、PLGAマイクロカプセル製剤ではおそらく一時的な血管塞栓による効果に止まった。このような差の一因は、製剤からのTNP-470の徐放性や製剤中での安定性の違いに求めることができると考えている。以上、抗腫瘍活性の面からもMCT製剤が最適製剤であることが支持された。

図2.抗腫瘍活性の製剤間比較
2-2.MCT製剤の抗腫瘍活性と効果増強

 さらに増殖が進んだ移植後4週の腫瘍(腫瘍体積:10〜40cm3)に対するMCT製剤の抗腫瘍効果を調べたところ、5mgTNP-470含有群では腫瘍増殖をほぼ完全に抑制し、20mg含有群では腫瘍は縮小した。この時、病理組織観察では腫瘍実質の壊死や血管構築の減少を確認した。一方、副作用に関して、いずれの投与群においても体重推移に影響を認めなかった。

図3.MCT製剤による抗腫瘍効果増強

 移植2週後にTNP-470を水溶液として皮下、静脈内あるいは動脈内に投与した場合、効果はいずれの群もせいぜい増殖抑制程度であったが、MCT製剤では単回投与で強力な効果が得られ、その有効性、有用性は高いと言える。その効果増強について考察するため、図3には投与量と投与9日後の腫瘍体積のT/C値の関係を示す。MCT製剤と同等の効果を得るためには、静脈内投与では4倍以上の投与量を、皮下投与に至っては20倍以上を必要とすることが理解できる。

3.Walker256肝担癌ラットにおける抗腫瘍活性3-1.MCT製剤の抗腫瘍効果

 臨床では動脈内投与療法は肝臓癌を対象として最も頻繁に行われている。そこで、前述の肝担癌ラットを用いて薬効ならびに副作用の評価を行った。腫瘍移植1週後に肝動脈内投与し、その後1週間の腫瘍サイズの変化量と投与1週後の腫瘍重量を調べたところ、MCT基剤のみでは腫瘍内の微細血管の部分的塞栓に起因すると考えられる増殖抑制傾向がみられたが、1.25mgTNP-470含有MCT製剤では腫瘍は有意に縮小し重量も小さく抑えられた。さらに抗腫瘍効果の投与量依存性を調べたところ、MCT製剤では0.1mgTNP-470含有でほぼ完全に増殖を抑制し、さらに高投与量(〜5mg)では腫瘍重量は投与時の2/5以下に減少した。また、体重減少などの副作用は全く認められなかった。

 本病態モデルにおけるMCT製剤の効果を図4にまとめた。移植1週後に投与するとその後2週間にわたり抗腫瘍効果が持続し、移植後2週のかなり増殖が進んだ腫瘍に対しても腫瘍縮小効果を発揮することがわかった。

図4.肝担癌ラットにおける抗腫瘍活性
3-2.血中GOT、GPTレベルの変動

 肝担癌ラットを用いて薬効量のMCT製剤投与の肝機能への影響を調べたところ、無処置群では腫瘍の増殖浸潤に伴い両酵素レベルは徐々に上昇したが、MCT製剤投与では基剤容量に依存する両レベルの一過性上昇の後、抗腫瘍効果と一致してその後の上昇を抑制し、腫瘍増殖に伴う肝障害をMCT製剤が抑制することがわかった。

4.総括

 MCT製剤はTNP-470徐放性、製剤保存安定性ならびに腫瘍ターゲティング能の全てにおいて優れた特性を有することがわかった。また、VX-2後肢担癌ウサギならびにWalker256肝担癌ラットの両病態モデルにおいて、MCT製剤は、体重減少などの副作用を伴わずに肥大した腫瘍を縮小させる持続的で強力な抗腫瘍効果を発揮することがわかった。すなわち、TNP-470の抗腫瘍DDS製剤として、MCTを基剤とする動脈内投与用製剤を得ることができた。以上の結果は、血管新生阻害剤をDDS製剤化し、その抗腫瘍効果を増強して低副作用で腫瘍を縮小させ得たはじめての例であり、今後は本DDS製剤の臨床応用が期待される。

UTokyo Repositoryリンク