本研究は転写因子AP-1を阻害するこにより、細胞のtransformationが抑えられるか否か、又transformした細胞においてAP-1の質的、量的変化がどのようになっているかを調べることにより細胞のtransformationにおけるAP-1の意義を明らかにしようと試みられたものであり以下の結論を得ている。 1.V-Src、V-yes、V-fps、c-H-ras、N末欠失した活性型rafによるchicken embryo fibroblast(CEF)のtransformationはFos及びJunに変異を導入して得たtransdominant suppressor(supFos,supJun)によって抑制された。これより,これらの遺伝子のtransformationにおいてAP-1が必要である可能性が示唆された。 V-myc、及びV-rosによるCEFのtransformationはsupFos,supJunによって全く抑制されなかった。 2.V-src、c-H-ras、ND-rafでtransformした細胞では有意にAP-1CAT活性が上昇していた。1の結果と合わせて、これらの癌遺伝子のtransformationの重要な共通ターゲットの1つがAP-1であることを示唆している。これに対してmycでtransformした細胞では全くAP-1活性は上がっていなかった。V-rosのtransformationはsupfos、supJunで抑制されなかったが、V-rosでtransformした細胞ではAP-1は上がっていた。 3.V-src、c-H-ras、ND-rafでtransformした細胞で、AP-1をprobeとしたGel-shiftを行った所、DNA結合活性の上昇が認められた。また上昇したAP-1結合活性は抗fra-2、抗Jun抗体によってスーパーシフトした。 4.V-src、c-H-ras、ND-rafでtransformした細胞では、fra-2とc-Junのm-RNAが増加していた。しかしJunDのm-RNA量に変化はみられなかった。c-fosは全く検出されなかった。 5.v-src,v-fps,v-ros,v-yes,c-Ha-ras,ND-raf感染細胞にてJunのタンパク量の増大が観察された。Fosは検出できなかったが、Fra-2のタンパク量の増加とリン酸化の上昇がみられた。 6.supFosを導入したtransgenic mouseを作成した。マウスで安定した発現が期待されるRSVのLTR領域をプロモーターとして選んだがsupFosの発現量がきわめて低くsupFosの生物活性を確認できなかった。それにかわる手段としてウイルスベクターをchickenに感染させるという実験を行ったがsupFos,supJunを感染させて腫瘍抑制の生物活性を確認するのは困難であった。 以上,本論文はいくつかの癌遺伝子のtransformationにAP-1の存在が必要であり、それらのtransformした細胞においてAP-1活性が上昇していることなどからAP-1がtransformationにおいて重要な役割をしている可能性を示したものである。更にtransfromした細胞におけるAP-1活性が上昇がfra-2とc-Junの転写レベルでの発現量の増大によるものであることを示した。本研究はtransformationと転写因子の関係の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |