本研究は、糖尿病患者の食事自己管理に対する自己効力感尺度(Diabetes Mellitus Dietary Self Efficacy Scale,以下DMDSESと略す)を開発し、その信頼性と妥当性を検討するとともに、尺度の有用性について検討したものである。 さらに開発したDMDSESを用いて、糖尿病患者の食事自己管理に対する自己効力感が食事自己管理行動及び医学データを予測する上で有効であるかどうかを検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.糖尿病患者の食事療法の自己効力を測定する尺度開発が行なわれ、<外的誘惑に対する統制感>と<内的誘惑に対する統制感>の2下位尺度から構成される15アイテム6件法のDMDSESが開発された。妥当性と信頼性の検討の結果、基準関連妥当性に一部課題を残すものの、自己効力感尺度としての信頼性と妥当性は検証されたと考えられる。 2.DMDSESはアイテムプールの段階で、日本人の糖尿病患者及び専門家の経験を集約するために質的な研究方法である内容分析の手法を用い、アイテムの絞り込みと固定の段階では統計学的な手法が用いられている。その結果、DMDSESには、「縁の原理」に生きる日本人の食に関する捉え方の特徴と我慢することが美徳といった日本人特有の精神性を反映したアイテムが採択された。 3.糖尿病の外来患者223名に適用した結果、DMDSESは食事自己管理行動と有意相関を認めた。このことは、自己効力感と自己管理行動が相互に影響していることを意味し、自己効力感が高いことが自己管理行動を促進する可能性を示唆している。 4.DMDSESは血糖コントロールの指標であるHbA1cおよび肥満度の指標であるBMIと有意な逆相関が認められた。このことは肥満度と血糖コントロール状態が自己効力感に大きく影響していることを示唆している。また、調査後2.3ヶ月後のHbA1cとも有意な逆相関を示したことから、DMDSESが血糖コントロール状態の持続と関連していることが確認された。 5.糖尿病患者の食事自己管理に対する自己効力感が高くなると、食事自己管理行動や血糖コントロール状態が改善する可能性が確認できたことから、患者の食事自己管理に対する自己効力感を高める患者教育のアプローチ方法を開発していく意義が示唆された。 以上、本論文は我が国の糖尿病患者の食事自己管理に対する自己効力感尺度を開発し、その妥当性と信頼性を検証したものである。患者教育の領域では患者の自己効力感への注目は高まっていたが、これまでは糖尿病患者の自己効力を把握するための尺度は欧米のものか課題を特定しない一般性自己効力感尺度をもちいるしかなかった。今回開発されたDMDSESは日本人の食の考えを反映したものであり、我が国の今後の糖尿病患者教育の評価研究において重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。 |