学位論文要旨



No 213612
著者(漢字) 谷脇,一弘
著者(英字)
著者(カナ) タニワキ,カズヒロ
標題(和) 構造形状・断面寸法・部材の材種およびプレストレスを設計変数とした骨組構造物の総合的最適設計法に関する研究
標題(洋) TOTAL OPTIMAL SYNTHESIS METHOD FOR FRAME STRUCTURES DEALING WITH SHAPE,SIZING,MATERIAL VARIABLES AND PRESTRESSING
報告番号 213612
報告番号 乙13612
学位授与日 1997.12.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13612号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 矢川,元基
 東京大学 教授 篠原,修
 東京大学 助教授 木村,吉郎
 東京大学 講師 阿部,雅人
内容要旨

 骨組構造物の最適な計画や設計を行う場合に考慮すべき基本的かつ重要な設計変数として構造物の形状変数、各部材の断面寸法および使用材種が考えられる。さらに、斜張橋やプレストレストコンクリート橋などにおいては、ケーブルに導入すべきプレストレス量も重要な設計変数として考慮する必要がある。

 ところで、これまでに行われてきた数多くの構造最適化の研究においては、まず、構造要素の断面寸法を最適化する研究が行われ、つづいて構造物の幾何形状やトポロジーを最適化する方法、および最適化のアルゴリズムに用いられる感度解析法に関する研究が活発に行われてきている。しかし、離散型の設計変数として表現される各部材要素に使用する材種や、構造要素に導入すべきプレストレス量をも設計変数として考慮し、構造物を総合的に最適化する研究はほとんど行われていないのが現状である。

 本論文の前半2,3章では、鋼斜張橋を対象とし、その主桁・塔・ケーブルの各部材要素の断面寸法、塔の高さ、ケーブルの主桁への定着位置、各ケーブルに導入するプレストレス量を同時に最適化することができる鋼斜張橋の総合的な最適設計法に関する研究を行い、実橋規模の設計例により、本研究で提案した方法の有効性、信頼性および実用性を明らかにしている。つぎに、本論文の後半4〜6章では、トラス構造物を対象とし、静荷重のみ、および静荷重と地震荷重を同時に受ける場合の各部材要素の断面積および離散的な使用材種、幾何形状(各節点の座標)を総合的に最適化することができる最適設計法に関する研究を行い、本研究で提案した方法の有効性、信頼性および能率性を明らかにしている。本論文の構成および各章の内容は以下の通りである。

 第1章では、まず骨組構造物の最適設計問題で考慮すべき基本的な設計変数について述べ、これまでの研究においては設計変数として断面寸法や構造形状を考慮した研究のみがなされていることを指摘している。つづいて、本論文で研究を行った鋼斜張橋およびトラス構造物の総合的な最適設計法の概要、およびこれまでに行われてきたこれらの構造物の最適設計法の研究について概括的に述べている。また、最適化アルゴリズムについて、その歴史的な発展過程を述べるとともに、本論文の各章において基本的な最適化手法として用いている順変数および逆変数を用いた双対法について、その一般的な最適化アルゴリズムの概要を述べるとともに、2部材トラスの最適設計例を用いて解説している。

 第2章では、鋼斜張橋の各部材要素の断面寸法、各ケーブルの主桁への定着位置および塔高を設計変数とした最適設計法に関する研究を行い、その設計アルゴリズムを確立した。これまでに行われている鋼斜張橋の最適設計法に関する研究においては、主桁・塔・ケーブルの各部材の断面寸法を最適化することのみに主眼が置かれている。しかし鋼斜張橋の最適設計問題においては、ケーブルの主桁への定着位置および塔高が、主桁および塔の曲げモーメントおよび軸力分布に大きな影響を与えることから、本研究では、各部材要素の断面寸法のみならず、各ケーブルの主桁への定着位置および塔高をも設計変数として考慮し、道路橋示方書に規定する主桁、塔およびケーブルの応力度の制約条件に基づき、ケーブルに導入するプレストレスを考慮しない場合の鋼斜張橋の総製作費を最小とする最適な設計変数の値を決定できる最適設計法を確立している。設計例として、6段ケーブルを有する橋長600mの実橋規模のファン型3径間連続鋼斜張橋の最小製作費設計問題に適用した例を示し、本論文で確立した最適設計法により、正確に、確実に、かつ能率的に最適設計が行えることを明らかにしている。また、本設計法を用いて実際の設計を行った白鳥大橋(宇部市常磐公園)の例を示し、本研究で確立した最適設計法を用いることにより、従来の設計方式と比較してきわめて能率的かつ省力的に鋼斜張橋の最適設計を行うことができることを明らかにしている。

 第3章では、2章で確立した最適設計法を用いて、主桁・塔・ケーブルの各部材の断面寸法、ケーブルの主桁への定着位置および塔高のみならず、各ケーブルに導入すべき最適なプレストレス量をも決定できる最適設計システムを確立している。まず、実荷重に加えて各ケーブルの軸線方向に独立に単位量の仮想荷重を付加し、2章で確立した最適化アルゴリズムを用いて鋼斜張橋を最適化することにより、仮想荷重に関する総製作費、各部材要素の断面寸法および応力度の感度係数を求める。つぎに、この感度係数を用いてLPの手法により各ケーブルの軸線方向の最適な仮想荷重を求める。各ケーブルの最適な導入プレストレス量は、この最適な仮想荷重を載荷して得られる各ケーブルの軸力として求められる。設計例として、8段ケーブルを有する橋長700mの実橋規模のファン型3径間連続鋼斜張橋の最小製作費設計問題に適用した例を示し、本章で提案した最適設計システムにより、正確かつ確実に鋼斜張橋の最適なケーブルプレストレス量、ケーブル配置、塔高および部材断面寸法を決定することができ、実際の設計にきわめて有効に利用できること、ケーブルに最適なプレストレス量を導入することにより、設計例の規模の鋼斜張橋では、総製作費を2.6〜4.1%程度減少させることができることなどを明らかにしている。

 第4章では、静荷重を受けるトラス構造物の最適な構造形状、各部材の断面積および離散的な使用材種を、次に述べる二段階改良過程を反復することにより決定する最適設計法を確立している。すなわち、まず第1章で述べている順変数および逆変数を用いた双対法により、最適設計問題の変数分離型凸近似最適設計問題を導入し、この近似設計問題のラグランジュ関数を導入する。トラス構造物の各部材の応力度や節点変位などの挙動が、各部材要素の剛性の分布状態により決定されることより、まず、第一段階の改良過程として、連続変数として考慮している形状変数および部材のEA(E:弾性係数、A:断面積)の改良値を、ラグランジュ関数を原変数について最小化、双対変数について最大化することにより求める。つぎに、第二段階の改良過程では、形状変数およびactiveな制約条件群を固定し、各部材に使用する材種を1ランク上位および1ランク下位の材種に変更し、activeな制約条件を満足するように断面積を変更した場合の分離型ラグランジュ関数の値の増減を検討し、その値が減少するように各部材要素の断面積および使用材種を改良する。このような二段階の改良過程を反復することにより、構造物の最適な形状、各部材の離散的な使用材種および断面積を決定することができる。計算例として、種々の設計条件を有する静荷重を受ける31部材トラスの最小製作費設計問題に適用した例を示し、本章で提案した最適設計法により、いかなる初期材種からでも15〜25回程度の反復改良により能率的かつ確実に最適解を決定することができることを示し、本研究で提案している最適設計法の厳密性、信頼性および能率性を明らかにしている。

 第5章では、4章で述べたトラス構造物の総合的な最適設計法を、静荷重による応力度および変位の制約条件のみならず、構造物の固有振動数の制約条件をも考慮できるように拡張を行った。本研究では、構造物の固有振動数および固有ベクトルの形状変数および部材の断面積に関する感度係数を解析的に計算している。計算例として、種々の設計条件を有する15部材トラスの最小製作費設計問題に適用した例を示し、固有振動数の制約条件を考慮した場合においても、4章で提案した最適設計法により、全域的な最適解を能率的に決定することができることを明らかにしている。また、構造物の振動モードおよび固有振動数は、構造形状および各部材要素のEAの分布の変化に対してきわめて敏感に変化するため、固有振動数の制約条件がアクティブとなる場合には、第一段階の改良過程により構造形状および各部材要素のEAの改良値を決定した段階で、再度構造物の固有値解析を行い、固有振動数の制約条件のアクティブ性について検討を行うことにより、確実に最適解に収束させることができることを明らかにしている。

 第6章では、4章および5章で確立したトラス構造物の総合的な最適設計法をさらに発展させ、静荷重のみならず地震時の荷重を受けるトラス構造物について、道路橋示方書に規定されている各部材の応力度および細長比、節点変位に関する制約条件を考慮し、トラス構造物の製作費および建設用地費の和を最小にする最適な構造形状、各部材の断面寸法および使用材種を決定できる総合的な耐震最適設計法を確立している。本研究では、各部材は円管断面を有するものとし、設計変数として断面の直径および板厚を考慮している。この場合、Suboptimizationの考え方を適用し、与えられた断面積のもとで各部材の許容圧縮応力度を最大あるいは細長比を最小にするように各部材の直径および板厚を決定することにより、最適化過程において考慮すべき各部材の断面寸法に関する設計変数を部材の断面積に集約させ、最適設計問題の定式化を単純化している。また本研究では、地震荷重により各部材に作用する軸力および各節点の変位を、応答スペクトル解析により求めている。

 設計例として、193部材を有する送電鉄塔トラスの建設用地費をも含めた最小建設費設計問題に適用した例を示し、構造物の最適な形状、各部材の最適な断面寸法および使用材種を、本章で確立した方法により10〜15回の反復回数により能率的に決定できること、建設用地費の単価の違いにより設計変数の最適値が大きく異なることなどを示し、本章で確立した最適設計法の厳密性、有効性、信頼性、能率性および実用性を明らかにしている。

 最後に7章では、本研究で得られた結論を総括して述べている。

審査要旨

 構造物の最適な計画や設計を行う場合に考慮すべき基本的かつ重要な設計変数として構造物の形状変数、各部材の断面寸法および使用材種、構造要素に導入すべきプレストレス量があげられるが、これまでの研究においては、各部材の使用材種および構造要素に導入すべきプレストレス量をも設計変数として考慮した最適設計法に関する研究はほとんど行われていなかった。

 本論文では、各部材要素の断面寸法および構造形状(各節点の座標)に加えて、さらに各部材の使用材種および構造要素に導入すべきプレストレス量をも設計変数として考慮し、総合的な見地から最適化した創造的な構造物を設計することのできる最適設計法を提案し、鋼斜張橋およびトラス構造物の最適設計例を示し、本論文で提案している最適設計法の信頼性、能率性および実用性を明らかにしている。

 第1章では、研究の背景、既往の研究、研究の目的が述べられている。さらに、本論文の各章において基本的な最適化手法として利用している順変数および逆変数を用いた変数分離型式の凸近似設計空間において双対法により最適解を決定するアルゴリズムの概要が述べられている。

 第2章では、鋼斜張橋の各部材要素の断面寸法のみならず、各ケーブルの主桁への定着位置および塔高をも設計変数として考慮した最適設計アルゴリズムを確立している。設計例として実橋規模の鋼斜張橋の最小製作費設計問題に適用した例、および本設計法を用いて実際に設計を行った白鳥大橋(宇部市常磐公園)の例を示し、本章で確立した最適設計法により、従来の設計方式と比較してきわめて正確に、能率的に、かつ省力的に鋼斜張橋の最適設計を行えることを明らかにしている。

 第3章では、2章で考慮した設計変数に加えて、鋼斜張橋の各ケーブルに導入すべき最適なプレストレス量をも設計変数として考慮した鋼斜張橋の総合的最適設計システムを確立している。各ケーブルの最適なプレストレス量を能率的に決定するため、まず、実荷重に加えて各ケーブルの軸線方向に独立に単位量の仮想荷重を付加し、2章で確立した最適化アルゴリズムを用いて鋼斜張橋を最適化することにより、総製作費、各部材要素の断面寸法および応力度の仮想荷重に関する感度係数を求める。つぎに、この感度係数を用いてLPの手法により各ケーブルの軸線方向の最適な仮想荷重を求め、これを外力として鋼斜張橋を解析することにより各ケーブルに導入すべき最適なプレストレス量を決定している。実橋規模の鋼斜張橋の設計例において、各ケーブルに最適なプレストレス量を導入することにより、総製作費を2.6〜4.1%程度減少させることができることを明らかにしている。

 第4章では、静荷重を受けるトラス構造物の構造形状および各部材の断面積のみならず、各部材の使用材種をも離散型設計変数として考慮し、能率的に最適解を決定できる方法を提案している。トラス構造物においては、外力による挙動が各部材要素のEA(E:弾性係数、A:断面積)の関数として表現されることから、まず第一段階の改良過程として、各部材のEAを一つの独立な連続型変数として取り扱い、形状変数および各部材のEAの改良値を双対法により求める。つぎに、第二段階の改良過程として、第一段階で決定した形状変数の改良値およびactiveな制約条件群を固定し、activeな制約条件群を満足し、かつ各部材に関するラグランジュ関数の値が減少するように各部材要素の断面積Aおよび使用材種を改良している。この場合、改良材種は、Eが同一の材種群あるいはEが異なる材種群のいずれからでも同一のアルゴリズムにより決定することができる。種々の計算例より、この方法によりいかなる初期材種からでも能率的かつ確実に全域的な最適解を決定できることを明らかにしている。

 第5章では、4章で提案したトラス構造物の総合的な最適設計法を、構造物の固有振動数の制約条件をも考慮できるように拡張している。構造物の振動モードおよび固有振動数が、構造形状および各部材要素のEAの分布の変化に対してきわめて敏感に影響を受けることを示し、円滑に最適解に収束させるためには、第一段階の改良過程の後、常に固有振動数の制約条件のアクティブ性について検討を行わなければならないことを指摘している。

 第6章では、静荷重および地震荷重を受けるトラス構造物について、構造物の製作費および建設用地費の和を最小にする最適な構造形状、各部材の断面寸法および使用材種を決定できる総合的な耐震最適設計法を確立している。この研究においては、地震荷重により各部材に作用する軸力および各節点の変位を応答スペクトル解析により求めている。193部材を有する送電鉄塔トラスの設計例より、本章で確立した最適設計法により正確かつ能率的に最適解が決定できることを示し、その実用性を明らかにするとともに、建設用地の単価が送電鉄塔トラスの最適な形状、部材の断面積および使用材種の決定に大きな影響を与えることを明らかにしている。

 第7章では本研究で得られた成果と結論がまとめられている。

 本論文で提案されている最適設計法は、骨組構造物の最適設計問題において考慮すべき基本的かつ重要な設計変数群を考慮することができ、また、いかなる形式の骨組構造物の最適設計問題にも有効に利用することができるものであり、実際の構造物の設計をきわめて創造的に、合理的に、かつ省力的に行うことができ、設計工学分野の研究の発展と技術の進歩に大きく貢献するものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54665