学位論文要旨



No 213615
著者(漢字) 山崎,徹
著者(英字)
著者(カナ) ヤマザキ,トオル
標題(和) 振動インテンシティを用いた固体伝搬音解析に関する研究
標題(洋)
報告番号 213615
報告番号 乙13615
学位授与日 1997.12.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13615号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大野,進一
 東京大学 教授 田中,正人
 東京大学 教授 橘,秀樹
 東京大学 助教授 金子,成彦
 東京大学 助教授 鎌田,実
内容要旨

 本論文は,機械構造物の騒音に対する寄与が大きい固体伝搬音の解析を有効に行うために,その伝搬性状の把握とその有効的な解析法である統計的エネルギ解析法(SEA法)の解析精度向上を可能にする手法の確立を目的としている.そのために本論文では,前半部ではエネルギの伝搬に着目した振動インテンシティ計測法の提案を行い,後半部ではそれを用いたSEAパラメータの評価法について検討を行っている.本論文は以下に示す5つの章で構成される.

 第1章「序論」では,研究の背景,振動インテンシティ計測および統計的エネルギ解析法に関する従来の研究について調査を行い,本論文の目的について示している.

 第2章「振動インテンシティ計測」では,実用的な二次元の振動インテンシティ計測手法について考察するために,二次元の振動インテンシティの特性とこれまでに提案されている有限差分近似を用いる計測方式について検討を行っている.ここでは,一般的な二次元の振動場として加振力が作用している周辺単純支持矩形平板と伝搬波の影響だけを考慮した遠距離振動場を対象に,数値的に検討している.振動インテンシティの特性としては,振動パワーフローの形態が加振周波数だけでなくパワーの流入部と流出部の位置によって決定されることを明らかにし,そのため固体伝搬音の伝搬経路の解明に有効であることを示している.また,振動パワーフローの形態は振動場が残響的であればあるほど位置に依存する局所インテンシティ成分の割合が大きくなるために複雑な形態となり,残響的な振動場で正しくパワーフローを計測するには半波長当たり複数点の細かさでの計測が必要であることを明らかにしている.振動インテンシティの構成については,せん断力成分が半分程度の割合で支配的であり曲げモーメント成分とねじりモーメント成分は同程度であることを示し,いずれの成分も正しく計測することが重要であることを示している.これまでに提案されている差分近似を用いる方式については,差分誤差や計測系のずれの影響について検討を行い,検出器間隔が波長に比べ小さいほど差分誤差の影響は小さい.しかし逆に計測系のずれに敏感となってしまい,検出器間隔は波長の十分の一程度が実用的には適当であることを明らかにしている.また,多数個の検出器を使用する方式では,近接場の振動インテンシティ計測が理論的に可能ではあるものの差分誤差の影響によって精度は悪くなり,遠距離場での計測においても少数個の検出器を使用する方式よりも計測系のずれの影響が大きくなってしまうことを明らかにしている.以上の結果から,実用的な振動インテンシティ計測手法としては,計測系のずれの影響が小さい少数個の検出器を使用する方式の考案と振動インテンシティ計測のメリットの一つである加振点などの位置の特定には他の手段を講じることの必要性について言及している.

 第3章「振動インテンシティ実用的計測手法」では,第2章で考察した条件を満足する計測手法として,遠距離場での完全な振動インテンシティ計測が可能かつ計測系の位相ずれの影響に鈍な少数個の検出器を使用する方式-5点法と,加振点などの位置の特定が可能かつ少数点計測に基づく振動インテンシティの再構築を行う二次元の波動分離法を実用的計測手法として提案している.はじめに,加振力が作用しダンパを有する周辺単純支持矩形平板を対象にこの実用的計測手法は数値的に検証されている.各種計測誤差として差分誤差や計測系のずれの影響についても明らかにしている.また,実験によっても矩形平板や複数の平板で構成される二種類の平板構造物を対象に検証がなされ,振動パワーフローの伝搬経路の解明やその伝達量の計測,加振点の位置の特定に有効であることを検証し,実用的計測手法の確立を行っている.

 第4章「統計的エネルギ解析法パラメータの評価法」では,固体伝搬音解析に有効な統計的エネルギ解析法(SEA法)の解析を容易かつ精度良く行うために,SEAパラメータ(内部損失率,結合損失率)を実験的に評価する手法として,振動インテンシティ計測に基づく新しい評価法を提案している.この手法は,前章までの振動インテンシティの計測法に基づき直接的に要素間の伝達パワーを評価するものである.数値的かつ実験的にL型構造物とT型構造物にこの評価法を適用し損失率の評価を行い,その有効性についで検証している.その結果,本評価法によって構築したSEAモデルは1dB程度の誤差で固体伝搬音解析が行えることを確認されている.また,従来の損失率評価法であるパワー注入法と比べ,パワー注入法では実験データの精度のために物理的におかしい値を求めることがあるが,本評価法ではそのような問題は生じず安定した損失率の評価が行えることを確認している.さらに,複雑な構造物として13枚の平板で構成される箱型構造物を対象とした検証実験においても,本評価法によって構築したSEAモデルは,誤差2dB程度の実用的な精度で固体伝搬音解析が行えることを確認している.それ以外の方法によって評価した損失率との比較においても,本評価法で得た損失率は同程度かそれ以上の解析精度が確認されている.さらに,従来の実験的なSEAモデルの構築法であるパワー注入法や近似的なパワー注入法と比べ,一要素にのみ加振を与えるだけで良い本評価法は,実験が容易であり,SEAモデル構築に要する時間,労力を大幅に削減することが可能であることが示されている.

 最後に,第5章「結論」では本研究で得られた結果を総括している.

審査要旨

 山崎徹提出の論文は,「振動インテンシティを用いた固体伝搬音解析に関する研究」と題し,5章から構成されている.

 本論文は,機械構造物の騒音に対する寄与が大きい固体伝搬音の解析を有効に行うために,その伝搬性状の把握に有効な振動インテンシティ計測法の確立と,統計的エネルギ解析法(SEA法)の解析精度向上を可能にする振動インテンシティ計測法を用いた手法の確立を目的としている.そのために本論文では,前半部ではエネルギの伝搬に着目した振動インテンシティ計測法の提案を行い,後半部ではそれを用いたSEAパラメータの評価法について検討を行っている.

 第1章では,研究の背景,振動インテンシティ計測および統計的エネルギ解析法に関する従来の研究について調査を行い,本論文の目的について述べている.

 第2章では,実用的な二次元の振動インテンシティ計測手法について考察するために,二次元の振動インテンシティの特性とこれまでに提案されている有限差分近似を用いる計測方式について検討を行っている.その結果,振動インテンシティの特性としては,振動パワーフローの形態が加振周波数だけでなくパワーの流入部と流出部の位置によって決定されることを明らかにし,そのため固体伝搬音の伝搬経路の解明に有効であることを示している.また,振動パワーフローの形態は振動場が残響的であればあるほど位置に依存する局所インテンシティ成分の割合が大きくなるために複雑な形態となり,残響的な振動場で正しくパワーフローを計測するには半波長当たり複数点の細かさでの計測が必要であることを明らかにしている.振動インテンシティの構成については,せん断力成分が半分程度の割合で支配的であり曲げモーメント成分とねじりモーメント成分は同程度であることを示し,いずれの成分も正しく計測することが重要であることを示している.これまでに提案されている差分近似を用いる方式については,差分誤差や計測系のずれの影響について検討を行い,検出器間隔が波長に比べ小さいほど差分誤差の影響は小さいが,逆に計測系のずれに敏感となってしまい,検出器間隔は波長の十分の一程度が実用的には適当であることを明らかにしている.また,多数個の検出器を使用する方式では,近接場の振動インテンシティ計測が理論的に可能ではあるものの差分誤差の影響によって精度は悪くなり,遠距離場での計測においても少数個の検出器を使用する方式よりも計測系のずれの影響が大きくなってしまうことを明らかにしている.以上の結果から,実用的な振動インテンシティ計測手法としては,計測系のずれの影響が小さい少数個の検出器を使用する方式の考案と振動インテンシティ計測のメリットの一つである加振点などの位置の特定には他の手段を講じることの必要性について言及している.

 第3章では,第2章で考察した条件を満足する計測手法として,遠距離場での完全な振動インテンシティ計測が可能かつ計測系の位相ずれの影響に鈍な少数個の検出器を使用する方式-5点法と,加振点などの位置の特定が可能かつ少数点計測に基づく振動インテンシティの再構築を行う二次元の波動分離法を実用的計測手法として提案している.はじめに,加振力が作用しダンパを有する周辺単純支持矩形平板を対象に,実用的計測手法の数値的検証を行っており,各種計測誤差として差分誤差や計測系のずれの影響についても明らかにしている.また,実験によっても矩形平板や複数の平板で構成される二種類の平板構造物を対象に検証を行い,振動パワーフローの伝搬経路の解明やその伝達量の計測,加振点の位置の特定に有効であることを検証し,実用的計測手法の確立を行っている.

 第4章「統計的エネルギ解析法パラメータの評価法」では,固体伝搬音解析に有効な統計的エネルギ解析法(SEA法)の解析を容易かつ精度良く行うために,SEAパラメータ(内部損失率,結合損失率)を実験的に評価する手法として,振動インテンシティ計測に基づく新しい評価法を提案している.この手法は,前章までの振動インテンシティの計測法に基づき直接的に要素間の伝達パワーを評価するものである.数値的かつ実験的にL型構造物とT型構造物にこの評価法を適用し損失率の評価を行い,その有効性について検証している.その結果,本評価法によって構築したSEAモデルは1dB程度の誤差で固体伝搬音解析が行えることを確認している.また,従来の損失率評価法であるパワー注入法と比べ,パワー注入法では実験データの精度のために物理的におかしい値を求めることがあるが,本評価法ではそのような問題は生じず安定した損失率の評価が行えることを示している.さらに,複雑な構造物として13枚の平板で構成される箱型構造物を対象とした検証実験においても,本評価法によって構築したSEAモデルは,誤差2dB程度の実用的な精度で固体伝搬音解析が行えることを確認している.それ以外の方法によって評価した損失率との比較においても,本評価法で得た損失率は同程度かそれ以上の解析精度が望めることを示している.さらに,従来の実験的なSEAモデルの構築法であるパワー注入法や近似的なパワー注入法と比べ,一要素にのみ加振を与えるだけで良い本評価法は,実験が容易であり,SEAモデル構築に要する時間,労力を大幅に削減することが可能であることを言及している.

 最後に,第5章「結論」では本研究で得られた結果を総括している.

 以上を要するに,本論文は,固体伝搬音の解析を有効に行うために,その伝搬性状の把握に有効な振動インテンシティ計測法の確立と,統計的エネルギ解析法(SEA法)の解析精度向上を可能にする振動インテンシティ計測法を用いた手法の確立を行ったものであり,工学上寄与するところが大きい.

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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