本論文は、代表的な強誘電体セラミックスであるチタン酸バリウム(BaTiO3)焼結体について、微細組織形成および電気的特性に及ぼす微量添加物の効果を系統的に調べた結果をまとめたものである。本論文は七章より構成されている。 第一章は序論であり、BaTiO3の微細組織と電気的特性についての従来の研究結果をまとめるとともに、本研究の位置付けについて述べている。 第二章は、BaTiO3焼結体の結晶粒成長に及ぼす微量添加物の影響について調べた結果である。BaTiO3の結晶粒成長挙動が、Ba/Ti比0.0003程度の極微少の不定比性によって顕著に変化することを明らかにしている。この様な極微少量でも、Ti過剰BaTiO3は異常粒成長し、一方、Ba過剰BaTiO3は正常粒成長することを見いだしている。また、複数のドーパントを添加した場合には、その結晶粒成長挙動がペロブスカイト型ABO3化合物中のA/B比で整理しうることを突き止め、Bサイト過剰では異常粒成長、Aサイト過剰では正常粒成長となることを示している。Ti過剰もしくはBサイト過剰試料では、正常粒成長が著しく抑制され、このために異常粒成長が生じると結論づけている。この正常粒成長の抑制は、Ti過剰試料の結晶粒界に生じるTi-O結合の生成によるものであると結論づけている。さらに、Ti過剰試料で認められる異常粒成長挙動を記述する速度式を導出した。 第三章は、固相反応によってBaTiO3単結晶および粗大結晶粒BaTiO3多結晶体を作製した結果である。種子結晶を接合した焼結体を、適切な温度で熱処理することにより、3x3x0.5mmの寸法の単結晶を作製している。そして、単結晶育成条件としては、母材が異常粒成長を示すこと、熱処理温度は異常粒成長が生じる温度直下が適していることを見出している。また、第二章で得られた知見をもとに、添加物量を調整することによって、通常の焼結法によって結晶粒径1mm程度の粗大結晶粒の多結晶体を作製することに成功した。 第四章は、半導性BaTiO3焼結体が示す抵抗-温度特性(PTCR特性)を、結晶粒界の二重ショットキー障壁モデルから導出した理論式を用いて評価を行った結果である。Ba/Ti比や焼結温度からの冷却速度によるPTCR特性の変化を記述する式を示すとともに、実測値と理論からの計算値を比較検討した。その結果、試料の作成条件の違いによって生じるPTCR特性の変化に影響する最も重要な因子が、結晶粒界における界面準位の状態密度の違いであることを指摘している。 第五章は、粗大結晶粒試料を用いた単一結晶粒界部でのPTCR特性の直接測定結果を述べている。PTCR特性が結晶粒の方位関係に依存することを初めて明らかにした。すなわち、PTCR特性は結晶粒界の整合性に大きく依存し、ランダム粒界では明瞭なPTCR特性が発現するのに対し、3対応粒界ではPTCR特性が発現しないことを見出した。さらに、結晶方位関係が3対応粒界からずれるに従いPTCR特性が明瞭になるという斬新な結果を得ている。 第六章は、BaF2を添加したBaTiO3焼結体の電気的特性について調べた結果である。BaF2が添加されると半導性を示すこと、そしてPTCR特性が出現することを見出している。BaF2が添加されると、BaTiO3が還元され、空孔生成によって半導性が生じると結論している。実際に、BaF2を添加するとBaTiO3中に多数の空孔型転位ループが生成することを実証した。 第七章は、本論文の総括である。 以上を要するに、本論文はBaTiO3焼結体の微細組織形成およびその電気的特性に関する基礎的知見を与えたものであり、材料学の進歩に寄与すること大である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |