【方法】〔1〕新機構HFOベンチレータの開発とその作動特性の研究 ベンチレータは、ブロアー、ロータリーバルブ、ピストンシリンダー、バイアス回路、平均気道内圧調整装置からなり(図1)、その特徴は以下の通りである。
(1)ブロアーで生じた定方向流の流入・流出口の接続をロータリーバルブで切り換えることにより振動を発生する。(2)この振動源と患者との間にピストンシリンダーを介在させ安全機構とする。(3)バイアス回路の流出口を大気に開放せずシリンダーの振動源側に接続して、ローパスフィルターの効率化と機械死腔の減少を両立させる。(4)シリンダーをできるだけ患者の近くに置いて全パワーを患者の近くまで導き、一回換気量は最終的に口元の絞りで調節する。
図1:新しいHFOベンチレータの回路図 このベンチレータの出力特性を簡便なモデル肺を用いて調べた。これは16literのポリエチレン製タンクに気管内チューブとミラーカテ先トランスデューサを接続したものである。まず換気周波数、肺コンプライアンス、気道抵抗がベンチレータの一回換気量に与える影響を調べた。肺コンプライアンスは、タンクの容量によって変化させ、気道抵抗は気管内チューブ径(4〜8mm)により変化させた。一回換気量は、モデル肺に既知量の空気を用手的に注入して得た圧容量関係から求めた。更にタンク内に炭酸ガスを吹送し(100、200ml/min)、バイアス流量(10〜30l/min)がタンク内の炭酸ガス濃度に及ぼす影響を調べた。
〔2〕正常成犬におけるHFO換気 21頭の正常成犬(平均体重11kg)をペントバルビタールにて麻酔、挿管後、一回換気量20ml/kg、呼吸数10〜12/minのVCVで換気した。血液ガスが安定したのち、HFOベンチレータに接続し、3、9、15Hzで換気を行った。各周波数でPaCO2が35〜45mmHgとなるように一回換気量を調節し、10分間換気後の血液ガスを測定した。一回換気量は熱線流量計で得られる風向識別なしの流量を時間積分することにより測定した。さらに21頭中10頭については、ミラーカテ先トランスデューサを気管分岐部直上まで挿入して動的気道内圧(Dynamic airway pressure)を測定した。
〔3〕犬重症肺障害モデルにおけるHFO換気 上記10匹の犬について、重症肺障害モデルを作成するため中心静脈カテーテルよりオレイン酸0.2ml/kgを緩徐に投与した。安定後、VCVとHFOで10分間ずつ交互に換気し、血液ガスを測定した。VCVによる換気は一回換気量20ml/kg、毎分10〜12回とした。HFO換気は9Hzと15Hzを無作為の順で用い、PaCO2が35〜45mmHgとなるよう一回換気量を調節した。なお各施行の前に気道内圧を30cmH2Oに20秒間維持した。VCVでは酸素化が保たれるようにPEEPレベルを設定し(5〜11cmH2O)、HFOでは平均気道内圧をVCVに一致させた。VCVとHFOでガス交換および動的気道内圧の比較を行った。
統計解析には反復分散分析とDunnett’s testを用い、有意水準をp<0.05とした。
【考察】 今回開発したベンチレータの特徴として、その駆動メカニズムとバイアス回路が挙げられる。ブロアーを動力源に使用してロータリーバルブで送脱気を切り替える方式は従来なかったが、単純な機構でありブロアーのパワーアップで出力の増強が可能である。また、バイアス回路の排出口をピストンシリンダーの振動源側に接続することにより、一回換気量が有効に患者側に送られ、同時にローバスフィルターによる機械死腔の増加も避けることができる。
一回換気量が換気周波数に依存する現象はほとんどのHFOベンチレータに共通する特性であり、従来の従量式のベンチレータと対照的である。また一回換気量が気道抵抗に依存することから、臨床応用時には気管内チューブ径や病的肺の呼吸抵抗が重要となることが示唆される。さらに一回換気量がコンプライアンスに依存しないことは一般にコンプライアンスが低下する病的肺において有利な点である。
正常肺での適正な一回換気量と周波数の関係(V
2×f=一定)から、周波数より一回換気量の方がCO2レベルに与える影響が大きいといえる。また正常肺での気道内圧の振幅は3、9HzにおいてVCVより小さかった。「肺胞換気量一定の条件で気道内圧のふれを最小にする周波数」としてHFOの至適周波数を定義すると、正常成犬の場合、至適周波数は成犬の肺胸郭系の共鳴周波数とされる15Hzより小さいと推測される。
犬の重症肺障害モデルにおいては、同一平均気道内圧の条件下でHFO換気がVCVに比べて酸素化の点で優れていることが成犬レベルで初めて明確に示された。そのメカニズムとして、重篤な肺障害においてVCVでは呼気終末時に一部肺胞の虚脱が生じるのに対して、HFOでは肺胞内圧の変動が小さいため、sustainedinflationで開いた肺胞の開存を維持できるためと考えられる。また虚脱した肺胞が再開通する際に気道上皮の障害や蛋白漏出が生じ慢性的な肺損傷へと進展することから、HFO換気が人工換気による肺損傷予防の観点からも有利であると推測される。
従来の臨床仕様のHFOベンチレータでは体重5〜6kgの乳児が上限であったのに対し、本ベンチレータでは平均11kg、最大15kgの成犬が十分換気可能であった。今後は、さらに大きな対象に安全に使用できるHFOベンチレータを開発し、知見を蓄積することが必要である。