本研究は生体内の炎症反応やアレルギー反応などにおけるメディエータとして、虚血再潅流障害、敗血症、エンドトキシンショック、多臓器不全などさまざまな病態に密接な関連があると考えられる血小板活性因子(PAF)がin vivo微小循環に与える影響の解析を試みたものであり、細胞内シグナル伝達経路におけるカルシウムイオン(Ca2+)の役割に着目してCa2+拮抗剤、カルモデュリン(CaM)及び一酸化窒素合成酵素(NOS)阻害剤を用いた検討により、下記の結果を得ている 1.ハムスターチークパウチin vivo微小循環に対するPAF局所投与によって惹起される毛細血管後細静脈での高分子物質血管外漏出増大(血管透過性増大)はLタイプCa2+拮抗剤であるベラパミルやニフェジピンにより有意に抑制されたが、細動脈収縮はCa2+拮抗剤により影響を受けないことが示された。 2.CaMは、平滑筋細胞や非筋細胞におけるカルシウム受容蛋白質でありCa2+-CaM複合体を形成して多くの標的酵素を活性化するが、CaM阻害剤であるN-(6-aminohexyl)-5-chloro-1-naphthalenesulfonamide(W-7)前処置はPAF局所投与による血管透過性亢進に対して抑制的効果を及ぼさず、逆にその濃度によっては血管透過性を著明に増加させる場合があることが示された。 3.W-7をハムスターチークパウチに局所投与し急速に除去すると、一酸化窒素(NO)産生によると推測される細動脈拡張及び血管透過性亢進をもたらすことから、in vivo実験におけるW-7の使用にあたってはこのことに十分留意する必要があることが示された 4.NO 合成酵素(NOS)の特異的阻害剤の一つであるNG-monomethyl-L-arginine(L-NMMA)前処置を行うことにより、PAF単独投与あるいはW-7前処置後PAF投与による高分子物質血管外漏出を有意に抑制したことから、NOが血管透過性増大に主たる影響を与えている可能性が示された。 以上、本論文はPAFがin vivo微小循環に与える影響に関して検討し、PAF、Ca2+(-CaM)及びNOが相互に密接な関連を持っていることを明らかにした。本研究は炎症やアレルギー反応をはじめとする生体反応の解明と治療の確立に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |