界面重合法マイクロカプセルは、近年様々な分野に応用されその技術の進歩はめざましいものがある。その応用の一つとして、筆者は電子写真用のトナーにこの技術を展開し、界面重合法マイクロカプセルトナーを発明した。このマイクロカプセルトナーは、芯が主に磁性粒子のような顔料と定着性成分で構成され、その周りを界面重合膜で覆われた直径が約10m弱の微粉末である。省エネを狙い、熱ではなく圧力で定着させるトナーである。界面重合法マイクロカプセルトナーは、芯を構成する磁性粒子含有油性物質にモノマーを含ませ、これを異種のモノマーを含む水性媒体中に乳化し、油滴界面で界面重合反応を進めて作製される。従ってこのO/W型エマルションの生成過程がマイクロカプセルトナーの粒子サイズを制御する重要な過程である。またトナーとしての特性を付与するために、界面重合法マイクロカプセルトナーの粒子表面を湿式法で化学修飾する必要がある。筆者は、このトナーの[1]粒子サイズ制御方法の確立を目的に界面反応性モノマーや磁性粒子を油相に含むO/W型エマルションの速度論的安定性をモデル系で研究した。[2]粒子表面の湿式化学修飾の可能性見極めを目的に、界面反応性モノマーとの反応を利用した化学修飾の可能性を研究した。またこのトナーは狭粒子サイズ分布が望まれるので、[3]新規に創出した均一粒子サイズ分布乳化法の基礎として液滴の分裂過程の研究も行った。
[1]粒子サイズ制御方法の確立 [1.1] O/W型エマルションの油相内に溶解している炭素官能型3官能イソシアネートと水/ジエチレントリアミンとの界面反応で生成した界面重合膜は、力学的な反発力でエマルションを安定化(合一停止までの時間の短縮化)する。材料要因/工程要因の影響を調べ、粒子サイズの設計空間を定量的に把握したが、この設計空間では、界面重合膜の生成量でO/W型エマルションの安定性を記述できることが分かった。この中で興味のある材料起因の研究結果は次の通りである。
・ Si官能型3官能イソシアネートは加水分解してNH3を発生するが、これをO/W型エマルションの油相内で炭素官能型3官能イソシアネートと併用すると、顕著に合一停止までの時間を短縮出来ることが分かった。油滴界面で効率よく炭素官能型3官能イソシアネートにNH3が供給されるからと思われる。図.1に炭素官能型3官能イソシアネートにSi官能型多官能イソシアネートを併用した効果を示す。縦軸のtsatは、安定性評価がスタートしてからエマルションの粒子サイズの成長が止まるまでの時間であり、横軸のm0は、安定性評価スタート時のmで、mはエマルションの粒子サイズに相当するパラメーターで、mが大の程粒子サイズが小さくなるパラメーターである。Si官能型の多官能イソシアネートは(CH3)nSi(NCO)4-nであり、a,b,c,dの順にn=3,2,1,0に対応するものを炭素官能型3官能イソシアネートと共に油相に含ませ、エマルションの安定性を評価した。
図.1 エマルションの安定性に及ぼす炭素官能型3官能イソシアネートとSi官能型多官能イソシアネートの併用効果 この結果から分かる様に、nが小さい程、tsatが短い。これはnが小さい程、(CH3)nSi(NCO)4-nの加水分解速度が大きい順番と一致していることは興味深い。
・ 油相の極性が、炭素官能型3官能イソシアネートの反応率に影響することが分かった。油相がDBPとDBP/流動パラフイン混合液の場合の炭素官能型3官能イソシアネートの反応率を測定した結果を、図.2に示す。DBPに流動パラフィン(LP)を混合すると安定性評価がスタートしてからエマルションの粒子サイズの成長が止まるまでの時間tsatが短くなり、これは炭素官能型3官能イソシアネートの反応率の向上と対応している。油相が比較的極性の大きいDBPでは相対的に膨潤した界面重合膜が生成し、DBPに流動パラフインを混合して極性を下げると緻密な界面重合膜が生成するらしい。
図.2炭素官能型3官能イソシアネートの反応率及びmの時間変化 ・ 乳化剤であるAOTは、添加量によっては界面重合膜の生成を阻害する。界面反応性モノマーやプレポリマーの界面への移行が阻害されるのであろう。
[1.2] 磁性微粒子を油相に分散して含むO/W型のエマルションにおいて、磁性微粒子の磁気的引力がエマルションの安定性に影響を及ぼし不安定化させることが分かった。油滴の合一への影響を実質的に無くすためには、油滴の表面に吸着して厚い吸着層を形成しうる高分子乳化剤[例えばPVA]を使うのが有効である。