本論文は、鋼材と比べて比強度にすぐれたアルミ合金(比強度:約2倍)を構造材としたはめあい接合による単層アルミトラスの構造挙動に関する基礎的研究を行い、その知見を設計に応用して本構造方式の大空間構造への適用可能性調査することを目的としている。 アルミニウムは長所として、(1)鋼材と比べて比強度にすぐれていること、(2)押出し成型が容易であること、短所として、(3)溶接強度が母材強度の約1/2であること、を持つ。長所を生かし、短所をさけるために、本研究では「はめあい接合」を採用している。はめあい接合部は、面内方向はピン接合、面外方向はほぼ剛接合となり全体として半剛接となることが予測される。アルミニウムは鋼材と比較して弾性係数が約1/3となり一般的には座屈耐力が減少すると予測される。一方比強度は約2倍であり、耐力比較の基礎となる設計用荷重も減少する。さらに単層トラスでは、半剛接的な特性により耐力が増大する効果を期待できる。これらの特徴を持つ「はめあい接合部によるアルミニウム単層トラス」を大空間に適用可能なトラスシステムとして提案する。単層ラチスシェルの構造挙動のうち、最も重要な座屈耐力は接合部の曲げ剛性や部材半開角などに大きく影響される。 本論文のI部(第3章〜第6章)は、はめあい接合部の力学特性を部材と接合部からなる構造要素実験により把握している。さらにこれらの構造要素で構成される小規模単層ドームモデルについて、(a)ライズ/スパン比、(b)荷重モードをパラメータとして実験を行い構造挙動を調査している。特に、本システムの耐力に影響する座屈挙動に注目した。次いでII部(第7章〜第10章)は、部材(チューブ)端部の詳細モデルを連続体要素をもちいた有限要素法により解析し、本構造方式の構造挙動を再現できる全体トラスモデルへ拡張する。さらに材料非線形および幾何学的非線形解析を複合した解析方法を用いて第5章で実験に用いた小規模単層ドームの数値解析を行い、実験値との比較により精度の高い座屈耐力を推定できる解析法を提案している。さらにIII部(第11章〜第15章)は、I部およびII部で得られた知見を用いて実大規模のアルミニウム単層ドームを設計し、荷重モードの影響や初期不整の影響などの構造挙動や設計上の留意点などを数値解析や確認実験により詳細に調査している。 以下にI部〜III部で得られた知見及び結論を述べる。 I部では、はめあい接合部によるアルミニウム単層トラスの構造挙動を実験的に調査し把握した知見をまとめた。主な結論を以下に示す。 (1)引張、圧縮、曲げ(強軸、弱軸)実験により、アルミニウムチューブとはめあい接合部からなる構造要素の剛性、耐力などの基本的構造特性を、はめあい接合部の影響に着目し把握した。 (2)本アルミニウム単層トラスは、ハブの回転により増大したハブ周辺複数部材のコイン部歪が降伏歪に至り最終耐力に達する。 (3)本実験の範囲では、最終耐力に至る経路は2種類ある。Type-1は載荷の初期段階から一部のハブに回転が生じる経路であり、Type-2はハブのねじれ座屈現象が最初に生じる経路である。その後の現象はどちらも同様で、ハブの回転によりコイン部に曲げモーメントが生じコイン部弱軸まわりの歪が降伏歪に達することにより、ハブ周辺の複数部材の剛性が低下し最終耐力に達する。 (4)本実験的研究により、はめあい接合部によるアルミニウム単層トラスの基本的構造挙動が把握された。 II部では、はめあい接合部によるアルミニウム単層トラスの構造挙動を解析的に調査し把握した知見をまとめた。主な結論を以下に示す。 (1)はめあい接合部の有限要素法解析により、変断面コイン部を持つチューブの軸剛性の低下が定量的に評価された。 (2)ハブとフィラーの接触領域の応力解析により、応力の伝達機構が明らかになるとともに、剛性低下が定量的に評価された。 (3)はめあい接合部を有するアルミニウム単層トラスを解析するためのハブ・チューブモデルを提案した。このモデルでは、はめあい接合部の剛性低下をバネ要素により適確に評価し、さらにハブの大きさを考慮することにより接合部の回転も自由度として加えることが可能である。 (4)アルミニウムの長所を生かし短所をさけるため、本研究では、はめあい接合部を採用している。そのため、ボールジョイント等を用いる鋼による単層ラチスとは異なっている。この差が構造挙動としての接合部の回転に現われてくる。 III部では、I部、II部の基礎的研究を設計に応用することを目的に、設計施工した実大単層ドームを対象に確認実験および解析法の応用による数値解析などを行い知見をまとめた。その結果を以下に示す。 実大規模の単層ドームを設計し実際に施工した。その結果下記に示す知見および結論を得た。 (1)アルミニウム単層トラスの設計フローを定めた。通常の屋根架構の設計フローに座屈検討を必須として加えた。さらに各項目における留意点を明記した。 (2)断面設計の際には、まず座屈応力を勘案し部材細長比を限界細長比90の2/3にあたる60以下に設定した。 (3)連続体置換法による座屈荷重を参考とした。今回の実大規模単層ドームでは、局部座屈の値が最も低い値を示し、この値を座屈荷重の目安とすることとした。 (4)大規模ドームを想定した大ブロック施工方法は、はめあい接合による本単層トラスに適用可能であることが把握された。 さらに設計・施工した実大単層ドームを対象に研究した解析法を応用して荷重モードの影響および初期不整の影響を調査した結果、下記に示す知見および結論を得た。 (5)はあい接合部によるアルミニウム単層トラスは、荷重モードにほとんど影響されず、ハブの回転によってほぼ一定な値で耐力が決定される点で他の単層ラチスとの明確な相違がある。 (6)同じ軸バネを用い設計モデルを解析した非線形解析Aと比較して、初期不整の影響は初期荷重段階からの全体剛性低下に現われている。しかし、その剛性低下の割合は軸バネ定数の変化よりは少ない。 (7)終局耐力に関しては初期不整の影響は顕著であり、非線形解析A、Bと比較して大きく低下傾向を示す。その値は非線形解析A、Bで求めた終局荷重(約4800N/m2)の約80%(約4000N/m2)に低下した。 (8)設計形状とその性能を保持するためには、初期不整を取り除く方策が必要である。今回にモデル作成ではほぼ一律に約4〜5mm程度設計形状より節点が低めになっている。今後のモデル施工のデータを取る必要は或るが、この程度の不整が平均的であると想定すれば、モデル作成の際に4〜5mm程度のむくりを事前に取っておけば良い。 次いで設計および施工した実大単層ドームを用いた確認実験および数値解析の結果、下記に示す知見および結論を得た。 (9)本実験の耐力は、小規模単層ドームモデル実験と同様にハブの回転で決定され、ハブの回転に対する耐力は、設計荷重の約2.8倍の値を示した。 (10)本システムの回転に対する耐力時における挙動は、実験の範囲では急激な鉛直変形の増加を伴わず比較的安定している。 (11)提案した解析方法を用いた非線形解析結果と実験結果とを比較した。その結果、ハブの回転に対する最終耐力においては、提案した非線形解析による解析値は実験値の約1.07倍の値を示し比較的よく一致しているが、鉛直変位及び一部の部材軸力で実験値と非線形解析値の相違が認められた。 (12)リング2とリング1の変位差が490N/m2までの低荷重時で実験において急激に増加していた。しかし、解析ではその傾向を示していなかった。この実験における低荷重時のリング2での相違が全体の変位に大きな影響を与え、実験値と解析値の相違を生じている原因の一つである。 以上本論文は、はめあい接合部によるアルミニウム単層トラスの大空間構造への適用可能性調査を目的に、I部として構造要素実験と小規模単層ドームモデル実験を行い基本的構造挙動を調査し、II部として、はめあい接合部の特徴を考慮した解析法の提案し、III部として、I部およびII部の基本的研究で得られた知見を設計へ応用した。 |