近年マイコンの普及により自動車用システムも電子化が進み、それに伴い多くのセンサが用いられるようになってきた。LSIの製造技術を利用するシリコン半導体センサはバッチ処理による大量生産で低価格化が可能であり、信号処理回路を集積することによるコンパクト化、マイクロマシーニング技術の適用による高精度微細構造体の実現ができるので最も有望な手段となっている。本研究ではこのようなIC技術をもとにした集積形センサにおいて低価格化・小型化・高信頼化という3つの目的を達成するために、入出力端子数の低減、チップ周辺余地の活用率向上、製造工程数増加の抑制という3つの方針を立てて、それが成立する加速度(振動)センサ、光センサについて、自動車用システムへの適用を狙った研究開発を行った。 第2章では自動車用加速度センサの開発について述べる。ここでは耐サージ性等の信頼性が高いこと、信号処理回路が簡易なこと、コンパクトな集積化センサとするためにICプロセスとマイクロマシーニングの両立性がよいことの3点からピエゾ抵抗式を用いた。基本となる製造プロセスとしてはバイポーラ・プロセスにより回路素子を形成した後、n型エピタキシャル層を正電位にバイアスしながら、その基板を裏面から異方性エッチ液でエッチするECEにより、n型エピタキシャル層に対応する肉薄の梁とそれにより支持されるシリコン重りから成る構造体を実現する方式を開発した。 エアバッグ用加速度センサは比較的低感度でよいことから、8本のピエゾ抵抗で補償型フルブリッジを組むことにより他軸感度の低減が容易な図1に示すような両持ち梁構造を用いることとした。開発の第一段階では製造技術が確立されているオイル・ダンピング方式により、4本ビーム両持ち梁式集積化加速度センサの設計、試作を行った。しかしながら、この方式では実装に手間がかかる点やオイル中の泡による誤動作への対策等実用化への課題が多くあった。そこでエアバッグ用加速度センサ開発の第二段階としては第一段階で開発したデバイス構造や製造プロセスを基本としながら、エア・ダンピング式の加速度センサの開発を行った。通常エア・ダンピング式の加速度センサでは可動部のあるチップを上下から挟み込むようなサンドイッチ構造が用いられているが、ここではフレーム部表面を回路領域として有効に活用するために重りの下側だけに台座との間のエアギャップを形成した片側エアギャップ構造を提案し、それを用いた集積化加速度センサの設計、試作を行った。エア・ダンピングを含む重りの運動方程式において、ギャップ長を変位時の値で置き換えた方程式を数値計算する手法を提案し、試作サンプルのダンピング波形の予測を行った結果、実測値と非常に良く一致し、解析手法の有効性を確認することができた。 またこの解析の結果ダンピング波形の上側のピーク値と下側のピーク値の周波数特性は図2に示すようにそれぞれ異なる遮断周波数のダンピング特性で表すことができることがわかった。この片側エアギャップ構造の加速度センサは製造方法が容易であり、標準カン・パッケージにチップ単体実装することで低価格化を図ることができた。 図1 片側エアギャップ構造のシリコン集積化加速度センサの外観図図2 印加加速度50Gと100Gの場合のVHとVLの周波数応答の実測値と計算値 シャシ制御用加速度センサの開発では高感度化のために重り支持方式は片持ち梁構造とし、最初にDC出力対応のためにオフセット温度依存性の主要因であるシリコン梁/表面酸化膜間の熱膨張係数の違いによるバイメタル効果の解析を行った。単純な片持ち梁モデルを用いて応力シミュレーションを行い、熱応力の梁と酸化膜の厚さへの依存性を調べた結果、熱応力はシリコン梁の厚さへの依存性は比較的少ないが、酸化膜厚とはほぼ比例し、特に梁の厚さが10m程度と薄いときには酸化膜厚を数百nmと薄くすることが有効であることが分かった。このようなバイメタル効果によるオフセットを低減するためには重りの無い補償梁を形成して、検出梁と補償梁の双方のピエゾ抵抗を用いてキャンセルする手法があり、その検証のために簡単なTEGを用いてオフセット温度特性の評価を行った。検出梁と補償梁のブリッジ出力の減算を行った結果、±10mV程度であった元のオフセット温度特性を±0.1mV程度まで低減することができた。 第3章では長さの異なる10本の片持ち梁と梁による容量変化を検出するためのCMOS回路を内蔵し、梁の共振により印加振動のスペクトルを出力するような半導体振動分析センサの開発について述べる。薄膜形の片持ち梁では残留応力による反りが問題になるが、ここでは犠牲層の材料を梁と同じ多結晶シリコンとして、図3に示すように梁をSi3N4/p+ポリSi/Si3N4の3層構造として上側Si3N4膜の厚さを制御することにより反りの制御を行った。梁の変位はp+ポリSiの片持ち梁とそれに対向する基板上の拡散領域で構成される可変容量の容量変化に変換され、バッファを介して電圧として出力される。各梁の低周波における出力および共振周波数の評価結果は簡単なモデルによる計算結果とほぼ一致し、設計に近い特性が得られた。 第4章では図4に示すように10ヶのフォトダイオードを内蔵し、スリット通過光のエッジ位置を検出することによりスリット・ピッチの1/10の分解能で光学的に角度を検出するような集積化光センサの開発内容について述べる。受光素子(フォトダイオード)の出力電流を2値信号に変換する光電流検出回路は製造バラツキ/温度依存性を低減し、かつ構成をコンパクトにするため、温度依存性を小さく設定したJFETのドレイン飽和電流と光電流とを直接比較するような新しい方式を考案し、その特性の検証を行った。発光素子は安価なGaAs赤外LEDを用い、受光素子表面は可視光を通さない赤外透過形樹脂で覆うことにより可視光の影響を低減する実装を用いることとした。このため、赤外の感度を高くするため、pn接合の深い(〜10m)フォトダイオードを集積させた。このような深いpn接合のフォトダイオードの感度を計算するため、表面再結合を考慮した解析を行い、計算式の導出した。この光センサの試作チップを車両に搭載できるような操舵角センサ用のケースに収納して、操舵角センサとしての基本特性の評価を行った結果、所定の0.3度の角度分解能が得られることを検証できた。 図4 片持ち梁式振動検出セルの素子構造図図5 フォトダイオード・アレイによる高分解能光学式角度検出の原理図 第5章では高温まで動作が可能な、信号処理回路をオンチップ化したコンパクトな自動車用光位置センサの開発内容について述べる。この中でバイポーラICへの集積に適したPSD構造の設計を行い、その埋め込み層があるような構造での分光感度特性の解析を行い、解析式を導出して分光感度の計算を行った。信号処理については回路構成を簡易化するため、JFETバッファとNPNトランジス差動対を利用した集積化に適した差電流/和電流演算回路を設計した。また高温動作を補償するため、表面をAl膜でシールドしたようなダミーのPSDを用いたリーク電流補償回路を開発した。これらの検討をもとに試作した集積化光位置センサのサンプル評価では100℃まで位置検出誤差1%以下であることを検証した。 第6章では結論としてこれらの開発の結果のまとめを行うとともに得られた知見をより一般化した形で活用できるように集積化センサの最適化設計を行うための手順とそこでの判断基準について考察を行った。最適化設計の手順としてはまずシステムからの要求仕様をもとに検出部とその出力の信号処理の機能・仕様を明確化し、信号処理の概要が固まった段階で回路形成のための基本製造プロセスを決定する。集積化センサを設計する場合回路形成用プロセスに検出素子実現のための工程を付加する形が基本であり、信号処理の内容と検出素子の要求仕様から回路形成用プロセスを決めていかなければならない。信号処理回路のためのデバイスついては信号源の性質と回路の性質、規模の2点からCMOS、バイポーラ等のデバイスがどういう場合に有効となるか考察した.基本製造プロセスが決まれば、それをもとに検出部のデバイス設計(メカ部の設計を含む)、信号処理回路設計を行う。デバイス設計では基本製造プロセスを念頭において詳細設計を行い、その実現のために必要な追加工程を洗いだす形になる。この追加工程を基本製造プロセスに融合させる手法をまとめた. |