本論文は、次世代光通信に向けた石英系平面光回路(planar lightwave circuit,PLC)に基づく高速光電子ハイブリッド集積モジュールに関し、その実装基板であるPLCプラットフォーム上の低損失マイクロ波伝送線路の設計、試作方法、および高周波素子搭載方法を研究し、それらを応用して超高速光電子集積モジュールを実際に試作、評価した結果をまとめたもので、9章より構成されている。 第1章は序論であって、研究の背景、動機、目的と、論文の構成を述べている。大容量、高速マルチメディア通信を支えるハードウェアの中核は、高速な電子集積回路と光デバイスである。電気と光が混在する通信サブシステムは従来、個別部品を光ファイバや同軸ケーブルでつなぐことにより構成されてきた。しかし高機能化、高密度化、製造コスト低減などの観点から光電子集積技術への期待が高まっている。そのような集積化のアプローチはハイブリッド集積とモノリシック集積に大別されるが、本論文では、石英系平面光回路(PLC)を実装基板として用いるハイブリッド集積を対象とする。従来PLCプラットフォームは、高速電気配線機能を持たず高速モジュールに応用されてこなかった。PLCプラットフォーム上に高周波電気配線を形成しようとすると、用いているSi基板の誘電損失に起因して伝搬損失が大きかったり、素子搭載部での寄生容量が生じたりして、特性が劣化するという問題が存在した。本論文はこれらの問題を解決し、光電子集積モジュールの超高速化を達成せんとするものである。 第2章は「PLCプラットフォームにおけるコプレーナ線路(1)」と題し、電気配線部のコプレーナ線路(Coplanar Waveguide,CPW)について、石英系光導波路と同一プロセスで形成可能な、石英ガラス厚膜を挿入する構造でSi基板の誘電損失の影響を弱め、伝送損失を低減する試みにつき論じている。厚さ30mの石英ガラス厚膜の挿入により、伝送損失を2GHzで1.0dB/cm以下に低減した。また特性インピーダンスについても、CPWのストリップ導体の幅とギャップとの比を変化させることにより、50を中心に制御、設計可能であることを示した。 第3章は「PLCプラットフォームにおけるコプレーナ線路(2)」と題し、Si基板の高抵抗化を行って伝送損失をより一層低減したことについて述べている。まず、Si基板の低抵抗化の原因が、光導波路の形成プロセスにおける熱履歴により生じた酸素サーマルドナーに起因することを明らかにした。そしてこのサーマルドナーを熱処理と急冷との組合せにより消滅させてSi基板を高抵抗化し、CPWの伝送損失を6GHzで0.5dB/cmまで低減することに成功した。これは、10Gb/s級の高速モジュールに応用することができる。 第4章は「PLCプラットフォームにおける薄膜型マイクロストリップ線路」と題し、高周波電気配線としてグランドを安定に確保でき、アレー配線、電源配線を含む回路への応用に優れ、Si基板の影響を受けない薄膜型マイクロストリップ線路(ThinFilm Microstrip Line,TFMS)の形成、評価を行った結果について論じている。特性インピーダンスを50を中心に幅広く制御でき、また伝送損失が6GHzで0.7dB/cmまで低減できることを明らかにした。ここで開発された低損失TFMSも、10Gb/s級の高速モジュールに適用可能である。 第5章は「AuSn半田バンプ採用 高周波対応素子搭載部」と題し、高速動作向けに寄生容量を極力低減したPLCプラットフォーム上の素子搭載構造を提案し、試作を行った結果について記述している。具体的には、電極にAuSn半田バンプを用い、これをアンダークラッド上に形成することでSiテラスと分離させた。この構造で電気的な接続を得るには、調心後に電極を膨らませる必要がある。これに対しては、AuSn半田バンプがリフロー時に表面張力によりボールアップする現象を利用した。試作の結果、実際に光素子を強力、確実に接続固定できることを示した。 第6章は「PLCプラットフォームにおける電気配線の設計論」と題し、2〜4章の各高周波線路特性の実験値をシミュレーション結果と比較検討し、各線路の設計指針、性能限界についてより一般化して論じた。また、各々の適用領域を明らかにした。さらにマイクロ波集積回路、光モノリシック集積回路と比較したPLCプラットフォームの特徴について考察している。 第7章は「光電子ハイブリッド集積2.5Gb/s LDモジュールの製作・評価」と題し、高速光電子ハイブリッド集積送信モジュールを実際に作製したことについて記述している。ここでは、電気配線部に2章記載の石英ガラス厚膜を挿入したCPWを、素子搭載部には従来の薄膜電極型のSiテラスを用いた。また半導体レーザ(LD)には周波数帯域8GHz以上のファブリーペロー型のものを、LDドライバICには5Gb/s動作が可能なGaAs-MESFET型を、それぞれ用いた。パッケージ化したモジュールは2.5Gb/sで良好に動作し、PLCプラットフォームが高速光送信モジュールに適用可能であることを実際に示した。 第8章は「10Gb/s動作OEIC搭載受信器アレイモジュール、およびLDサブモジュールの製作・評価」と題し、2チャンネルアレイの受光用光電子集積回路(Optoelectronic Integrated Circuit,OEIC)をPLCプラットフォーム上に実装して、10Gb/sで動作可能な受信器アレイモジュールを作製したことについて述べている。5章のAuSn半田バンプ高周波対応素子搭載部を利用するとともに、OEIC素子の電源配線には2層電極構造低インピーダンス配線を利用した。この受信器アレイモジュールは8GHzの周波数帯域を有し、搭載した素子の周波数特性を劣化させないことが示された。さらに電気配線部に長さ50mmの3章記載CPWを用いたLDサブモジュール、同じく長さ50mmの4章記載TFMSを用いたLDサブモジュールを各々製作、評価して、10Gb/sの高速動作に必要な帯域の確保されていることを示した。このように、PLCプラットフォームが10Gb/s級高速動作モジュールに応用可能であることを初めて実証した。 第9章は結論であって、本研究で得られた成果を総括している。 以上のように本論文は、次世代光通信システムの主力デバイスとして期待されるPLCプラットフォーム上のハイブリッド光電子集積回路において、10Gb/s級動作を可能とするマイクロ波電気配線技術と高周波特性に優れた素子搭載技術とを確立し、これら技術を応用した高速光通信送信モジュールならびに受信モジュールを開発してその有効性を実証したものであって、電子工学分野へ貢献するところ少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |