学位論文要旨



No 213700
著者(漢字) 芳我,徹三
著者(英字)
著者(カナ) ハガ,テツゾウ
標題(和) 選択造粒による鉄鉱石の焼結溶融反応制御技術
標題(洋)
報告番号 213700
報告番号 乙13700
学位授与日 1998.02.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13700号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 前田,正史
 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 安井,至
 東京大学 助教授 月橋,文孝
 東京大学 助教授 森田,一樹
内容要旨

 本研究は、焼結鉱製造過程における技術課題として、今後益々厳しくなることが予想される資源動向に対応するため、使用鉄鉱石の自由度拡大と、焼結鉱の品質改善および品質制御性・操業制御性の拡大とをとりあげ、それらを実現しうる技術の開発を目的としたものである。したがって、まず、鉄鉱石銘柄毎の焼結プロセスの中での基礎特性(溶融反応特性、造粒性など)を調査し、各特性を焼結プロセスの中で長所として活用するための方策について検討した。つぎに、焼結溶融反応の改善を目的とした新しい原料事前処理プロセスを付加した場合に、焼結機構がどのような影響を受けるかについて研究を行い、さらに、その実用化に向けて、新プロセスによる溶融反応の制御性について研究を行った。

1.鉄鉱石の基礎溶融特性の明確化

 焼結過程における結合相や気孔ネットワークの形成に重要な融液生成の挙動制御および改善を目的として、タブレット焼成試験により、鉄鉱石銘柄毎の溶融挙動について評価を行った。この溶融挙動を、十分な反応時間の下での「変形開始温度(T1)」及び100℃/minの昇温条件下での「変形開始温度(T2)」として定量化し、変形開始温度と鉄鉱石中の脈石との関係について、以下の知見を得た。

 (1)脈石中のAl2O3-SiO2系粘土鉱物はカルシウム・フェライト分解溶融温度を上昇させ、変形開始温度T1,T2をともに上昇させる。

 (2)脈石中の石英(SiO2)はへマタイト等の固相量を増加させるので、固液共存体としての流動性を低下させて、変形開始温度T1を上昇させる。

 (3)変形開始温度T2で評価される鉄鉱石微粉部の溶融挙動には、特殊な鉄鉱石銘柄の組み合わせによる相互作用はなく、加算性がある。

 さらに、融液生成過程直接観察装置を開発し、初期融液から生成した固相が再溶融するときの融液の挙動が、焼結反応における粒子間結合や気孔ネットワークの形成に重要であること、および、その融液の挙動は、脈石が粘土系の鉄鉱石と石英系の鉄鉱石とでは大きく異なり、後者の鉄鉱石の方が融液を生成しやすいことなどを明らかにした。これらの結果は、タブレット焼成試験での変形開始温度に関する知見を直接観察により確認したものである。

2.焼結溶融反応改善のための「選択造粒技術」の提言

 鉄鉱石の基礎溶融特性に関わる知見をもとに、モデル擬似粒子による単一擬似粒子の造粒特性および焼結特性に関する研究から、モデル擬似粒子の充填層焼結実験までの基礎的研究を行い、以下の知見を得た。

 (1)粘土系鉄鉱石を付着粉とすると高強度の擬似粒子が得られる。

 (2)単一擬似粒子の焼成実験から、石灰石を添加しない擬似粒子の焼成体は高い圧潰強度を示し、粘土系鉄鉱石の方が高強度となる。

 (3)モデル擬似粒子の充填層焼成実験から、焼結過程における擬似粒子間の結合層を強化し、気孔ネットワークの通気性を向上させるには、平均的な石灰石濃度(10mass%)は不適であり、石灰石の濃縮が有効で、石英系鉄鉱石で効果はより大きくなる。

 以上より、焼結溶融反応の改善を目的として、配合原料の中から粘土鉱物を多く含む鉄鉱石を選択し、特にその微粉部を選択的に造粒する「粘土系鉄鉱石微粉部の選択造粒技術」の有用性の見通しを得た。

 一方、焼結プロセスにおいては、本研究で主課題とした融液生成反応のみでなく、造粒性に起因した原料層の通気性や、粉コークスの賦存状態による燃焼性などの多くの現象が焼結機構に関与している。そこで、上記「粘土系鉄鉱石微粉部の選択造粒技術」の焼結機構全体への効果を最大にするために、焼結鍋試験により、異なる造粒条件下での焼結機構の変化に関する解析的研究を行った。試験は、通常の造粒法aに対して、水分だけを上昇させたケースb、粘土系鉄鉱石微粉部と石灰石を選択造粒したケースc、粘土系鉄鉱石微粉部のみを選択造粒したケースdの各ケースに関して、4水準の定負圧焼結鍋試験と1水準の定風量焼結鍋試験を実施し、主として以下の知見を得た。

 (1)配合原料中の粉コークスの燃焼C量(CO+CO2)を上昇させるには、2〜5mm粒径の擬似粒子量の増加による原料充填層の通気性改善と、粉コークスの擬似粒子表層への偏在が有効である。

 (2)配合原料中の粉コークスの完全燃焼率(CO2/(CO+CO2))を改善するには、擬似粒子表層部のCaO/Fe2O3を上昇させて、流動性の良いカルシウム・フェライト系融液を生成させ、開気孔の形成を促進して通気性を改善することが有効である。すなわち、選択造粒dのように、擬似粒子内に石灰石を閉じ込めず、擬似粒子表層に偏在させることが効果的である。

 (3)選択造粒cおよびdによれば、通常造粒aに対して焼結速度が上昇する。さらに、融液量増加に起因すると考察される冷却速度の低下が可能となり、成品強度が向上する。

 以上の結果から、「粘土系鉄鉱石微粉部の選択造粒技術」が、溶融反応を改善するだけでなく、焼結過程における通気性や粉コークスの燃焼性などの焼結機構全体をも改善しうる有力な手段となりうることが明らかとなった。

3.焼結溶融反応制御技術としての「選択造粒技術」

 選択造粒技術の実操業への適用にあたって、焼結鉱品質や焼結操業の最適化のための溶融反応制御技術としての側面から研究を行った。タブレット焼成試験、焼結鍋試験および実機試験の結果から、焼結反応過程における結合相形成部の溶融特性値の制御と、結合相形成部を溶融するための供給熱量の制御に関する検討を行い、以下の知見を得た。

 (1)結合相形成部の溶融特性は、CaOおよびAl2O3組成から推定可能なタブレットの変形開始温度(T2)の変化量T2として指標化できる。

 (2)焼結鉱の成品強度という観点からは、結合相形成部の溶融特性に応じて、供給熱量には最適値が存在する。

 (3)結合相形成部の溶融特性値の指標であるT2と供給熱量との2次元評価マップにおいて焼結鉱の等強度線が存在し、選択造粒を実施することにより、マップ上の操業点を制御できる。

 (4)生産性および成品強度を一定とした実機操業試験において、選択造粒による粉コークス原単位低減、通気性改善および成品焼結鉱のJIS還元率の改善効果が確認できた。

 以上の結果から、「粘土系鉄鉱石微粉部の選択造粒技術」によって焼結溶融反応を制御できることが示され、本研究の目的であった、資源動向に対応するための使用鉄鉱石銘柄の自由度拡大と、焼結鉱の品質改善および品質制御性・操業制御性の拡大という課題を実現できる見通しを得た。

審査要旨

 現代製鉄法の主流である高炉法で、鉄を生産性高く安定に製造するには、均質で、通気性に優れ、高温強度が高く、大きさがそろった塊状の鉱石を使うことが望ましい。現在の大型高炉は日産1万トン以上であり、1基の高炉で年間およそ600万トンの鉱石が消費される。優れた品質の鉱石を大量に、安定に確保することは困難である。

 そのため、塊鉱石のほかその採取の際に必ず発生する粉鉱石、副原料、コークスを混合して着火、焼結する、人工鉱石とも言うべき焼結鉱が開発されている。この技術は主に我が国で開発され、塊鉱石の不足、成分のばらつきを解消し、生産性を飛躍的に上げた。

 しかし、高品質の使いやすい鉱石はすでに資源的に逼迫しており、様々な成分、性状の鉱石を使わざるを得なくなっている。これまでの焼結技術では使用できなかった多様な鉱石を使うことができれば、原料確保の自由度は飛躍的に増大する。

 本研究ではこれら多様な鉱石の溶融反応特性や造粒法などを試験法を開発しつつ調査した。次にこれら鉱石を焼結原料として使用した場合の焼結機構の変化とその改善法について研究した。その結果、同じ鉱石でも粒度により成分が違うことを利用して、選択的に造粒する事により、造粒のための副原料を添加することなく、焼結性に優れかつ成分も従来の高能率焼結鉱とおなじである、新しい焼結鉱製造法を開発した。

 第1章では、焼結鉄鋼原料に関する総括的な背景について説明し、本研究の位置づけを示している。

 第2章では多種類の鉄鉱石粒子のタブレットを作成し、溶融挙動について昇温試験を行い変形開始温度を調査している。その結果、溶融挙動の特徴を2つの温度指標で表現することが妥当であることが実験的に確認できた。すなわち、まず一定温度で15分間保持した場合の変形開始温度T1、および毎分100℃の速度で昇温した場合の変形開始温度T2である。

 初期融液はT1、T2いずれよりも低い温度で生成しているが、脈石成分や主成分の酸化鉄が溶け込んで固相が晶析し、実際の変形はそれより高い温度でないと起こらない。T1は固液共存状態の融液の流動性の指標であり、T2は鉱石の微粉部の溶融挙動の指標となることがわかった。T2は鉱石の種類による相互作用はなく加法性が成立した。これらの特性温度を使うことにより従来曖昧であった溶融挙動を定量化できるようにした。

 第3章では、融体生成状況を直接観察できる装置を開発し焼結反応では初期融液に脈石相が融解していき固相が析出して行く様子を観察している。粒子間結合や空隙の生成・結合は、これら融液の複雑な挙動の結果であることが直接観察できた。これらの結果は2章の結果をよく説明できた。

 これらの結果から、焼結体主構造と初期融液成分を独立に制御できれば、焼結体の健全な構造と化学組成の制御が可能であることを推定した。そこで、鉄鉱石大粒子(粒径1から5mm)と脈石成分の異なる微粉鉄鉱石(粒径0.5mm以下)を混合して造粒する事により、大粒子の周りに小粒子(付着粉)を付着させた疑似粒子を作ることを試みた。

 この章では、さらにこのモデル疑似粒子を試験的に作成し、造粒性、焼結性について調査した。その結果カオリナイト系(Al2O3-SiO2水和物)鉱石を付着粉とすると疑似粒子の強度は上昇した。またモデル粒子を充填層で焼成したところ副原料のCaOを均一に添加したものは強度が低く、微粉部に濃縮添加したものは強度が高かった。微粉部の成分制御を独立に行うことのメリットが十分大きいことがわかった。

 第4章では、水分、CaO、カオリナイト系脈石含有鉄鉱石微粉を用いて様々な条件で造粒し、実機に近い条件で試験した。その結果主粒子の粒度範囲を2から5mmと制御すること、粉コークスを微粉部に偏在させること、付着粒子部にCaO量を増加し粒子結合層にカルシウムフェライト層を十分成長させることが開気孔を確保し焼結体の通気性を確保することに効果があることがわかった。

 第5章では実機試験を行い、選択造粒法を適用するための指標として付着粒子部の脈石成分が使用できることを見いだした。さらに、操業上必要な入熱量を求め、成分とエネルギー収支、焼結体製品品質を最適化する方法を見いだした。この方法は実際に大型製鉄所における焼結工場で採用され、使用可能鉱石の種類を広げ原料入手の可能性を広げるとともに、焼結鉱の品質改善、高炉操業の制御性向上に大きく寄与している。

 以上の結果を第6章で総括し、将来の鉄鋼原料の課題にも言及している。

 本論文の内容は鉄鋼製錬学の進歩に大きく寄与し、博士(工学)の学位請求論文として合格であると判断する。

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