現代製鉄法の主流である高炉法で、鉄を生産性高く安定に製造するには、均質で、通気性に優れ、高温強度が高く、大きさがそろった塊状の鉱石を使うことが望ましい。現在の大型高炉は日産1万トン以上であり、1基の高炉で年間およそ600万トンの鉱石が消費される。優れた品質の鉱石を大量に、安定に確保することは困難である。 そのため、塊鉱石のほかその採取の際に必ず発生する粉鉱石、副原料、コークスを混合して着火、焼結する、人工鉱石とも言うべき焼結鉱が開発されている。この技術は主に我が国で開発され、塊鉱石の不足、成分のばらつきを解消し、生産性を飛躍的に上げた。 しかし、高品質の使いやすい鉱石はすでに資源的に逼迫しており、様々な成分、性状の鉱石を使わざるを得なくなっている。これまでの焼結技術では使用できなかった多様な鉱石を使うことができれば、原料確保の自由度は飛躍的に増大する。 本研究ではこれら多様な鉱石の溶融反応特性や造粒法などを試験法を開発しつつ調査した。次にこれら鉱石を焼結原料として使用した場合の焼結機構の変化とその改善法について研究した。その結果、同じ鉱石でも粒度により成分が違うことを利用して、選択的に造粒する事により、造粒のための副原料を添加することなく、焼結性に優れかつ成分も従来の高能率焼結鉱とおなじである、新しい焼結鉱製造法を開発した。 第1章では、焼結鉄鋼原料に関する総括的な背景について説明し、本研究の位置づけを示している。 第2章では多種類の鉄鉱石粒子のタブレットを作成し、溶融挙動について昇温試験を行い変形開始温度を調査している。その結果、溶融挙動の特徴を2つの温度指標で表現することが妥当であることが実験的に確認できた。すなわち、まず一定温度で15分間保持した場合の変形開始温度T1、および毎分100℃の速度で昇温した場合の変形開始温度T2である。 初期融液はT1、T2いずれよりも低い温度で生成しているが、脈石成分や主成分の酸化鉄が溶け込んで固相が晶析し、実際の変形はそれより高い温度でないと起こらない。T1は固液共存状態の融液の流動性の指標であり、T2は鉱石の微粉部の溶融挙動の指標となることがわかった。T2は鉱石の種類による相互作用はなく加法性が成立した。これらの特性温度を使うことにより従来曖昧であった溶融挙動を定量化できるようにした。 第3章では、融体生成状況を直接観察できる装置を開発し焼結反応では初期融液に脈石相が融解していき固相が析出して行く様子を観察している。粒子間結合や空隙の生成・結合は、これら融液の複雑な挙動の結果であることが直接観察できた。これらの結果は2章の結果をよく説明できた。 これらの結果から、焼結体主構造と初期融液成分を独立に制御できれば、焼結体の健全な構造と化学組成の制御が可能であることを推定した。そこで、鉄鉱石大粒子(粒径1から5mm)と脈石成分の異なる微粉鉄鉱石(粒径0.5mm以下)を混合して造粒する事により、大粒子の周りに小粒子(付着粉)を付着させた疑似粒子を作ることを試みた。 この章では、さらにこのモデル疑似粒子を試験的に作成し、造粒性、焼結性について調査した。その結果カオリナイト系(Al2O3-SiO2水和物)鉱石を付着粉とすると疑似粒子の強度は上昇した。またモデル粒子を充填層で焼成したところ副原料のCaOを均一に添加したものは強度が低く、微粉部に濃縮添加したものは強度が高かった。微粉部の成分制御を独立に行うことのメリットが十分大きいことがわかった。 第4章では、水分、CaO、カオリナイト系脈石含有鉄鉱石微粉を用いて様々な条件で造粒し、実機に近い条件で試験した。その結果主粒子の粒度範囲を2から5mmと制御すること、粉コークスを微粉部に偏在させること、付着粒子部にCaO量を増加し粒子結合層にカルシウムフェライト層を十分成長させることが開気孔を確保し焼結体の通気性を確保することに効果があることがわかった。 第5章では実機試験を行い、選択造粒法を適用するための指標として付着粒子部の脈石成分が使用できることを見いだした。さらに、操業上必要な入熱量を求め、成分とエネルギー収支、焼結体製品品質を最適化する方法を見いだした。この方法は実際に大型製鉄所における焼結工場で採用され、使用可能鉱石の種類を広げ原料入手の可能性を広げるとともに、焼結鉱の品質改善、高炉操業の制御性向上に大きく寄与している。 以上の結果を第6章で総括し、将来の鉄鋼原料の課題にも言及している。 本論文の内容は鉄鋼製錬学の進歩に大きく寄与し、博士(工学)の学位請求論文として合格であると判断する。 |