本研究は慢性関節リウマチ治療に重要な役割を果たしている抗リウマチ薬の作用機序解明を目的としたものである。単球・マクロファージ細胞を用いた実験系により、種々の抗リウマチ薬に関して主に細胞内現象の観点から作用機序を検討し、下記の結果を得ている。 I活性酸素を介するアポトーシス誘導 (1)チオール基含有抗リウマチ剤bucillamineは、銅イオン存在下でTHP-1の細胞死を誘導した。この細胞死はカタラーゼの添加により完全に回避されたことから、過酸化水素など活性酸素が細胞死のメディエーターであることが示唆される。一方この細胞死は赤血球の添加によっても完全に回避され、赤血球は活性酸素のスキャベンジャーの役割を果たすと考えられる。 (2)bucillamineは銅イオン存在下で、DNAラダーやsubdiploid DNAピークを出現させた。このアポトーシスに特徴的なDNA degardationに先立ち、活性酸素産生や選択的細胞膜透過性の変化が認められた。アポトーシスの誘導はAnnexin V結合性、TUNEL法によっても確認された。また単球にも、THP-1細胞と同様にアポトーシスが誘導された。他の抗リウマチ薬にはアポトーシス誘導能は認められなかった。 (3)bucillamineは活性酸素を介してアポトーシスを誘導することから、慢性関節リウマチで見られる滑膜細胞の異常増殖を、アポトーシス誘導により抑制する可能性が示唆された。 II細胞内プロテアーゼ活性 (1)細胞内プロテアーゼ活性を蛍光ペプチド基質を用いて、フローサイトメーターにより測定した。auranofinにより単球およびTHP-1のカテプシンB/L活性は濃度依存性に抑制された。一方、gold sodium thiomalateは単球およびTHP-1のエラスターゼ活性に影響を与えず、カテプシンB/L活性に対しては、単球とTHP-1とで異なる影響を与えた。即ち、THP-1のカテプシンB/L活性はgold sodium thiomalateにより抑制されたが、逆に単球のカテプシンB/L活性は増強された。gold sodium thiomalateは単球のグランザイムA様活性に影響を与えなかった。他の抗リウマチ薬は細胞内プロテアーゼ活性に影響を与えなかった。 (2)auranofinとgold sodium thiomalateは末梢血単球のカテプシンB/L活性に対して異なった影響をおよぼすことから、抗リウマチ作用における2種類の金製剤の作用機序が異なる可能性が示唆された。 IIILeucine methyl ester(Leu-OME)による細胞死抑制活性 (1)Leu-OMEはライソゾーム酵素により代謝され、単球・マクロファージに細胞毒性を与えることが知られている。メタンスルフォンアニリド系抗リウマチ薬であるT614、FK3311、CGP28238、NIM-03、NS398は全てLeu-OMEによるTHP-1細胞死を抑制し、その抑制効果はT614で最も強く認められた。一方、セリンプロテアーゼ阻害剤であるPMSFもLeu-OMEによるTHP-1の細胞死を抑制した。 (2)メタンスルフォンアニリド系抗リウマチ薬はLeu-Leu-OMEによるTHP-1細胞死や、Leu-OMEによる単球の細胞死は抑制しなかった。 (3)FITC-dextranを用いてライソゾームpHを測定したところ、クロロキンと塩化アンモニウムはライソゾームpHを上昇させたが、T614とPMSFは影響を与えなかった。更に、クロロキンと塩化アンモニウムは、Leu-OMEによる単球の細胞死を抑制したが、THP-1の細胞死を抑制しなかった。 (4)Leu-OMEによる細胞死に対するT614とPMSFの薬理学的効果の相同性から、T614もプロテアーゼ阻害剤として作用しうる可能性が考えられた。 以上、本論文は単球・マクロファージ細胞を用いた解析により、抗リウマチ薬の新たな薬理活性として、活性酸素産生を介するアポトーシス誘導能(チオール基含有抗リウマチ薬)、細胞内プロテアーゼ活性調節機能(金製剤)、ライソゾーム酵素抑制活性(メタンスルフォンアニリド系抗リウマチ薬)を明らかにした。本研究は抗リウマチ薬の作用機序解明に極めて重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |