本研究は、炎症性皮膚疾患において種々のサイトカインにより発現が制御されていると考えられるケラチン遺伝子の発現調節機構を明らかにするため、培養正常ヒト表皮角化細胞にケラチン遺伝子調節領域をトランスフェクトする系にて、炎症性サイトカインであるIL-1 、TNF によるケラチン遺伝子の発現調節機構の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1、我々の持つ種々のケラチン遺伝子調節領域-CATコンストラクトを正常ヒト表皮角化細胞にトランスフェクトすることにより、ケラチンK6のみがIL-1 、及びTNF により発現誘導された。 2、ケラチンK6調節領域のdeletion construct及びmutation constructを作製し、ケラチンK6調節領域におけるIL-1 及びTNF のresponsive elementの同定を試みた結果、これらは、HeLa細胞においては4つのC/EBP siteを介してケラチンK6の転写活性を誘導すること、表皮細胞においてはこの4つのsiteのうち、第3、第4番目のpalindromicなC/EBP siteを介してケラチンK6を誘導することが明らかとなった。さらにゲルシフト法により、このresponsive elementにTNF 及びIL-1 刺激により核蛋白の結合が誘導され、そのバンドの一部は抗C/EBP 抗体によりスーパーシフトしたことから、この配列に結合する蛋白の一部はC/EBP であることが判明した。 3、同じくケラチンK6調節領域-CAT constructを正常ヒト表皮角化細胞にトランスフェクトする系において、IL-1 によるケラチンK6誘導はEGFにより阻害されるが、TNF による誘導は阻害されないこと、また、PCPLC(phosphatidyl-cholin-specific phospholipase C)阻害剤であるD609は、TNF によるケラチンK6誘導は阻害するがIL-1 によるケラチンK6誘導は阻害しなかったことより、TNF 、IL-1 によりるケラチンK6誘導は、それぞれ別々の経路により引き起こされることが示唆された。 4、培養ヒト表皮角化細胞へのトランスフェクションの過程で、培養上清中のIL-1 をELISA法にて測定したところ、トランスフェクション操作により実験結果を左右する程度の量のIL-1 が放出されることが明らかとなった。数種のトランスフェクション法を比較検討したところ、コンフルエントな細胞を用いたポリブレン-DMSO法が最も効率がよく、しかも表皮細胞からのIL-1 放出が最も少ない方法であることが判明した。そのため上記実験において、トランスフェクション法としてコンフルエントな表皮細胞をもちいたポリブレン-DMSO法を用いた。 以上、本論文は培養ヒト表皮角化細胞において、ケラチンK6調節領域のみがIL-1 、TNF により誘導され、さらにそのresponsive elementはpalindromicなC/EBP siteであることを明らかにした。本研究はこれまであまり知られていなかったケラチン遺伝子の発現調節機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |