近年、大型区画水田の土壌管理や水管理に際し、圃場内の土壌物理性の不均一な分布が用水量や排水量の制御あるいわ環境負荷物質の排出管理などに困難をもたらしていることがわかり、この不均一性の性格や定量化について解明することが急務となっている。本論文は、火山灰土水田の耕盤層としろかき層の土壌物理性の不均一性について、土壌構造モデルから導かれる適正な確率変数を新たに選択して統計理論を適用し、それぞれ自然立地条件を反映した不均一性、人為的管理作業が反映した場合の不均一性としてこれを意義づけ、明らかにしたものであり、7章から構成されている。 第1章は、序論であり、既往の土壌物理性統計に関する問題点を指摘し課題を整理している。第2章で、土壌物理性の位置による変動の性格およびサンプルスケールを考慮した変動の性格を把握するための推測統計学ならびにgeostatistics理論を整理して述べている。 第3章では、土壌間隙構造について、粗間隙部分に毛管モデル、細間隙部分にマトリクスモデルを適用して結合し、間隙の数はポアソン変数であり、間隙率は正規変数となると述べ、飽和透水係数、乾燥密度、任意吸引圧下の体積含水率などの土壌物理性について間隙の数と間隙率を変数に取って関数表示し、それらの各種期待値とサンプル断面積との関係を理論的に解明した。 第4章では、耕盤層を対象土壌とし、高さ5cm、断面積がそれぞれ41,20,7cm2の3種類の土壌試料を線上1.27m間隔で採取し、軟X線写真撮影による土壌間隙構造、飽和透水係数、乾燥密度、pF水分特性などを測定し、土壌間隙構造のモデルが適切であることを検証した後、各土壌物理性の統計量を算出し、分布形を調べている。その結果、これらの物理量はいずれも正規分布あるいわ対数正規分布に適合する。一方、飽和透水係数の平均値は断面積が大きいほど大きくなり、分散は断面積が41cm2のときに特に大きくなる。乾燥密度とpF水分では、平均値も分散も断面積とは関係を持たないなどの統計的性格を明らかにした。そして、第2章で行った理論的解析は不飽和透水係数以外の土壌物理性については十分に適用し得るものであると述べている。 第5章では、そこで、不飽和透水係数に関する理論的解析が実態を良く表現しない原因が従来の間隙数の計算法の未熟さにあるものと分析し、単位面積当たりの間隙の数の算出方法について検討を加え、微小吸引圧区間水分量の変動係数の期待値を使って間隙の数を算出するという間隙の径の変動や屈曲の影響を取り込んだ実態に良く合う算出方法を提案し、これによって得られた理論間隙径分布を使えば、飽和透水係数の平均値の断面積による変化傾向も分散の断面積による変化傾向も実測結果を良く表現することが出来ることを明らかにした。この理論間隙径分布の計算方法は高く評価できるものである。 第6章では、しろかき層を対象土壌とし、しろかきの前後で径5cm、高さ5cmの土壌試料を線上0.5-1.5m間隔で採取して飽和透水係数、乾燥密度、含水比などのしろかきに特有の土壌物理性を実測し、その圃場内における統計的性格としろかきがこの統計的性格におよぼす影響について相関係数、順位相関係数、セミバリオグラムを調べて検討している。その結果、このような土壌物理性はいずれもしろかきの前と後とでは全く相関がなく、全く変わったものとなっている。また空間的構造を見ると、飽和透水係数は空間的には無相関であり、しろかきによる影響はない。乾燥密度はしろかき後には弱い空間的相関が表れるふしもあるが無相関と見てよい。しかし含水比では、しろかきの前にレンジ5m以下の弱い相関があって、しろかき後では無相関になると述べ、しろかき作用の影響を明らかにしている。さらに、沖積土水田のしろかき層の乾燥密度や含水比についてもこのような検討を加え、同様の結論になることも確かめている。第7章は結論をまとめたものである。 以上要するに、本論文は、火山灰土水田の耕盤層ならびにしろかき層の重要な土壌物理性について、圃場内の位置によって異なるものを圃場における土壌物理性として見る推測手法を提案し、圃場内の不均一性の構造を解明し、水田の圃場整備ならびに土壌や水、排出負荷の管理を適切に行うための基礎的な知見を与えたものであり、農地環境工学、水利環境工学、環境地水学の学術上、応用上貢献するところ少なくない。よって審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 |