学位論文要旨



No 213759
著者(漢字) 伊丹,美昭
著者(英字)
著者(カナ) イタミ,ヨシアキ
標題(和) 高精度良加工性電縫鋼管の製造技術の開発
標題(洋)
報告番号 213759
報告番号 乙13759
学位授与日 1998.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13759号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 木内,学
 東京大学 教授 中桐,滋
 東京大学 教授 畑村,洋太郎
 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 柳本,潤
内容要旨

 電縫鋼管はロール成形加工を用いタンデムに連続配置されたロールにより素板を連続的に円筒状に曲げ成形した後,継ぎ目部を電気抵抗溶接を主たる溶接法として製造される,製造品種は一般配管やラインパイプや建築用の配管用鋼管,油井鋼管,熱交換用鋼管,一般・機械構造用鋼管,電線鋼管など非常に広い範囲で用いられている.電縫鋼管の成形・溶接技術の発展により,電縫鋼管の寸法精度や加工性あるいは溶接部の品質はここ10年来大幅に向上した.製品の大径化や厚・薄肉化,高強度,高精度化,ラインの自動化による省力化およびフレキシブル化による多品種少量生産への対応など大きく進歩してきた.しかしながら,ますます鋼管の利用者側の要求の厳格化に伴い更なる機能あるいは特性が要求されてきている現状にある.油井管・ラインパイプでは使用環境の苛酷化による高圧潰強度,耐高内圧特性を持つ廉価な商品が,自動車用鋼管では軽量化要求による構造用鋼管の薄肉高強度鋼管および排気系材料では高耐食・良加工性のフェライト系ステンレス鋼管が要求されており,更なる低価格高機能な電縫鋼管が求められている.

 一方,製造者側からも,引き抜き加工に近い肉厚,外径を持った高精度な鋼管あるいは熱処理省略が可能な低歪で造管することにより溶接ままにて良加工鋼管を製造する技術,プロペラシャフトなどふれ回りの少ない曲がりのない高真円度の薄肉高強度鋼管,あるいは成形の歪履歴によって発生する残留応力の低減などの電縫管に求められる新たな機能や特性に対してユーザーの要求を先取りした技術開発を行うことが必要となっている.また,電縫鋼管のロール成形技術は,材質面からの製品の高強度化や良加工性化,寸法精度の高精度化などの製品の品質の向上と肉厚・外径範囲の拡大などの製品管寸法の拡大やロール兼用化やロール位置の自動調整などの数値制御化やセンシング技術の導入による操業の合理化および省力化の技術開発など更なる製造技術の展開が求められている.

 第1章はこのような技術動向を踏まえて電縫鋼管に求められる機能と特性と製造技術の課題を述べ,本研究の目的と位置付けを明確にした.

 第2章は電縫鋼管の形状計測技術として,オンラインでの鋼管の寸法測定を半径法による非接触で高精度にロール位置へ反映され,ロール調整時間短縮と鋼管の寸法精度を向上させる開発を行った.特にプロペラシャフト等鋼管の寸法精度は疲労強度を向上させるため従来のアーク溶接による周溶接から摩擦圧接による溶接工程へ変わりつつあり,管端での寸法精度も要求され精度厳格化が進んでいる.コストダウン指向により従来冷間引き抜きで製造していたものを溶接まま材にて±0.1mm以内の高精度精度を確保した製品が求められている.このような背景のなかで,操業においては歩留まり低下,ロール調整時間の増大などの生産性の低下は大きな問題となってきている.これらに対応する技術として,非接触にて精密なパイプの形状の測定を行なうことで,測定データをもとにフィードバックして,定量的にロール調整を行うことが必要で,調整時間の短縮による生産向上を目的として外径・真円度測定装置を開発した内容を述べている.

 第3章では第2章と同様に高寸法精度化技術のなかでのサイザーの残留応力の寸法精度に及ぼす影響を検討した.近年では外径,真円度,肉厚,真直度などの寸法精度において,より高寸法精度の機械用構造鋼管が要求されており,外径精度に及ぼす残留応力の問題が顕著になっている.特にt/D=3%以下の薄肉・高強度の電縫管において,造管後パイプを定尺に切断したときに管端変形による真円度劣化(切断変形)を起こすことが問題となっている.そこで,パイプの外径精度向上を目的として,サイジング工程でそれ以前の前歴を消去し,サイザーの成形条件で最終製品の残留応力が決定されること,管端変形はサイザー成形で発生する残留応力(軸方向残留応力分布)が支配的因子となるなどのメカニズムを解明した.また,2ロール成形のロール圧下量が多段成形の変形や真円度に与える影響と4ロールサイザーの成形を厳密にシミュレーションし,さらに電縫部の強度が管端変形に及ぼす影響を定量的に捉え,その防止対策とその検討結果等について述べている.

 第4章では最終製品工程として重要な真直度の高精度化を検討した.一般に電縫管の曲がりの原因としては,素材の強度のばらつきやコイルのキャンバーや耳波や中伸びなどの板の残留応力等も含めた素材形状寸法不良とロール圧下量の幅方向の不均一による成形の不均一,溶接やシーム熱処理に伴う熱応力の発生等の成形による曲がりの発生の要因がある.しかし,矯正に望まれる効果として真直度の向上や残留応力の低減や均一化があるが,反対に矯正により劣化する真円度等の断面形状劣化が発生する問題がある.そこで,生産性を低下させずミルの能力を最大限に発揮させるために板材のレベラーと同様な繰り返し曲げ方式のインラインの矯正機を開発についての研究を行った.繰り返し曲げ方式の利点は,初期曲がりばらつきがある場合でも一度大きな曲げを与え,曲げを整えることを特徴とし,その後も繰り返し曲げにより曲がりが零となるよう収れんさせて,鋼管曲がりを取る方法であり,最大曲げを大きくとることができるかが,この方式の矯正性能を左右する.鋼管は板材と異なり,中空なために曲げによる断面の潰れ変形を押さえ如何に真円度を確保するかが,重要な技術開発のポイントとなる.新矯正法の導入に当たり,鋼管の断面偏平により制限される矯正曲げ量やロール位置設定論理の検討と仕様を決定し,さらに実機を用いて明らかになった矯正能力についてもまとめている.

 第5章では溶接ままにて良加工な製品を製造するため技術として,低歪にて造管を行うことで,鋼管の素板に近い加工性を確保する電縫管製造技術について研究した.自動車用排気系用鋼管あるいは機械構造用鋼管の2次加工性の向上およびコストダウンの要求ににこたえるために熱処理を省略した加工性に優れた電縫鋼管が求められている.溶接ままにて加工性を確保するためには,ロール成形時に付与される加工歪を最小限にする成形法が必要である.そこで,溶接前のブレークダウン,フィンパス成形条件,溶接後のサイザーの絞り状態などの成形条件の最適化により低歪にて造管することにより鋼管製品の加工性を向上させる技術を検討をした.さらにミル設計にあたり自動車の軽量化技術にも対応するために,従来よりも薄肉のt/D=1.3%の薄肉材の安定成形や溶接の安定化対策も加えて検討を行った.また,ロール兼用化技術を用いた低歪成形への適用・最適化ロールセットのためのシミュレーションの検討も行い,延性,加工硬化特性の劣化を防止する低歪造管技術と軽量化を狙いとして薄肉造管技術の開発とさらに小ロット・他品種造管に対応するロール共用化の技術の開発を主要な課題として取り組んだ.

 これらの開発から造管歪を最小限とし,熱処理なしでユーザーの2次加工に耐えられる電縫鋼管を造管することができ,ロール共用化,最適ロール設定法とフィンパスやサイザーの低絞り成形技術を導入した実機で製造した鋼管の伸び特性についても報告した..

 第6章では,鋼管の電縫溶接部靭性を確保する技術や素材の加工硬化特性(n値),塑性異方性(r値)などの材料特,および残留応力の加工性や高圧潰強度などの鋼管の特性への影響を検討した.たとえば,近年では石油資源環境は苛酷化し,寒冷化,深井戸化している.寒冷地化に対応しては低温靭性に優れた油井管の要求がある.そこでこれらのニーズを満たすために従来のような管体熱処理を施すような高コストな商品ではなく,成形溶接後に母材の材質に近いようにする溶接部近傍部の熱処理を施し、溶接部靭性を改善低コスト化に対応している.しかし,誘導加熱方式による電縫部の熱処理はパイプは熱応力を受け溶接部近傍で形状変化を生じ,後段のサイザーの冷間絞りの修正にに伴う冷間加工に伴う靭性の劣化の問題がある.そこで,靭性劣化を抑え,形状を整える温間域での形状修正を鋼管の寸法精度等劣化させずに矯正する成形について検討し対策を講じた.また,油井管の深井戸化としての製造条件への対応として,廉価な電縫鋼管の特徴を生かし,残留応力の影響(サイザー成形の効果)とr値の圧潰特性への影響について検討を行い,圧潰特性向上に対する効果を見いだした.

 排気系材料の高耐食のステンレス化・軽量化の動向のなかで,パイプの加工性はより苛酷な加工に対応することが求められている.自動車用排気材料の高耐腐食性のためにフェライト系ステンレスが用いられており,冷延の低合金鋼の比べ加工性が劣る素材でもある.2次加工の必要特性として,爪拡管を取り上げ加工硬化指数や鋼管全伸びへの異方性の影響と利用法の検討を行った.メタラジー分野の特性と絡めて,鋼管の材料特性としてr値,n値や靭性値といった材料特性と製造技術の関連のなかで,多面、多角的に製造技術を検討した.第7章は総括で各章で得られた結果をまとめている.

審査要旨

 電縫鋼管の電縫鋼管の寸法精度や2次加工性あるいは溶接部の品質は成形・溶接技術の発展により,ここ10年来大幅に向上した.併せて製品の大径化や厚・薄肉化,高強度化,高精度化,製造技術面でのラインの自動化,省力化,更にフレキシブル化による多品種少量生産への対応など大きく進歩してきた.しかしながら,鋼管の利用者側の要求の厳格化に伴い,更なる機能あるいは特性の向上が要求されてきている現状にある.油井管・ラインパイプでは使用環境の苛酷化による高圧潰強度,耐高内圧特性を持つ廉価な管材が,自動車用鋼管としては軽量化要求に対応できる薄肉高強度構造用鋼管および排気系材料では高耐食・良加工性のフェライト系ステンレス鋼管が要求されている.電縫鋼管の製造技術に関連しては,材質面からの製品の高強度化技術や良加工性化技術,寸法精度の高精度化を含む製品品質の向上技術,肉厚・外径範囲の拡大など製品管寸法の拡大技術やロールの兼用化,ロール位置の数値制御化やセンシング技術の導入による操業の合理化および省力化技術などの更なる展開が求められている.本論分はこのような技術動向に対応して,電縫鋼管の使用性能と機能の高度化に関わる問題を製造技術の課題として取り組み新技術の開発を行い成功した内容をまとめたものである.

 第1章はこのような技術動向を踏まえて電縫鋼管に求められる機能と特性と製造技術の課題を述べ,本研究の目的と位置付けを明確にしている.

 第2章は電縫鋼管の形状計測技術として,オンラインでの鋼管の寸法・形状測定を半径法により高精度かつ非接触にて測定する装置の実機適用化を検討している.高寸法精度の鋼管製品が求められなかで,歩留まり低下,ロール調整時間の増大などによる生産性の低下は大きな問題である.本研究ではこれに対応する技術として,外径・真円度測定装置を開発することによって精密にパイプの形状測定を行い,ロール位置設定へフィードバックし,高精度化とともにロール位置調整時間の短縮による生産向上を達成する方法を示している.本研究で示された計測技術は今後の鋼管の寸法精度向上に対し工業的に有用であると評価できる.

 第3章では第2章と同様に電縫鋼管の高寸法精度化技術のなかでのサイザーによる残留応力の寸法精度に及ぼす影響を検討している.その結果,サイザーの成形条件で最終製品の残留応力が決定されること,管端に発生する切断時の変形はサイザー成形で発生する残留応力(軸方向残留応力分布)が支配的因子であることなどの管の変形メカニズムを解明している.また,サイザーのスタンド形式,電縫部の強度の寸法精度へ及ぼす影響を定量的に捉えるなどの検討結果をまとめており,サイザーの利用技術を統一的に整理して示している.これらの成果は製造現場への応用が期待され,電縫鋼管の高精度化製造技術として高く評価できる.

 第4章では電縫鋼管の最終製品として重要な真直度の高精度化を検討している.矯正による真円度等の形状劣化を防止し,生産性を低下させずミルの能力を最大限に発揮させるために繰り返し曲げ方式のインラインの矯正機を提案し,その特性を明らかにしている.この新矯正法の導入に当たり,矯正曲げ量の決定理論やロール位置設定論理の検討を行い,最適仕事の決定方法について示している.さらに実機を用いて明らかになった矯正能力についてもまとめている.上記研究を通して矯正技術を体系的にまとめており,工業的な実用技術として高く評価できる.

 第5章では溶接したままにて良加工性を有する製品を製造するための技術として,成形時の歪付与を小さくして造管を行う技術,素板に近い鋼管の加工性を確保するための電縫管製造技術について研究している.これらの開発から造管歪を最小限とし,熱処理なしでユーザーの2次加工に耐えられる電縫鋼管を造管することを示している.更に,ロールの共用化,最適ロール設定法とフィンパスやサイザーでの低絞り成形技術についても検討し,それらを導入した実機で製造した鋼管の伸び特性についてもまとめている.薄肉,良加工性の鋼管の自動車部品への要求に応えて,特に排気系ステンレス鋼管の廉価な供給に貢献したとして評価できる.

 第6章では,鋼管の電縫溶接部靭性を確保する技術および素材の加工硬化特性(n値),塑性異方性(r値),残留応力の2次加工性や高圧潰強度などへの影響を検討している.具体的にはサイザー成形が寸法精度,残留応力とr値の圧潰特性へ与える影響について検討を行い,中でもその圧漬特性向上に対する効果を見いだしている.鋼管の必要な使用特性に対して,r値,n値や靭性値などの材料特性と製造技術の関連のなかで,多面的に鋼管の製造技術のあり方を検討しており,新規性が認められる.第7章は総括で各章で得られた結果をまとめている.

 以上本論文の技術はすでに製造現場に応用され,鋼管製品性能向上に反映されており,工業的な実用化とともに高機能な廉価な鋼管の製造技術の発展に対しての意義は大きいと考えられる.よって本論分は博士(工学)の学位論文として合格と認められる.

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