内容要旨 | | 配電線の雷害対策は,誘導雷と直撃雷の双方に対して適切な対策がなされ,がいし等の絶縁箇所が雷過電圧によりフラッシオーバすることに起因する雷害事故は,着実に減少してきている。しかし,雷のエネルギー量が大きい場合には,配電線に生じる過電圧の抑制を役割とする避雷器あるいは装置に内蔵された避雷素子自体が,雷自身のエネルギーにより焼損に至る可能性がある。今後,避雷器および避雷素子を内蔵した装置の施設が進められ,フラッシオーバに起因する配電線事故が減少すると,避雷器のエネルギー耐量超過による配電線事故が大きな問題になる可能性がある。このような避雷器焼損事故は,エネルギー量が大きい雷が多発する日本海沿岸の地域の冬季に特に多い。 上記の配電用避雷器の焼損事故防止策に関する研究は,今までにほとんどなされていない。このため,我々は,エネルギー量が大きい雷による配電用避雷器の焼損事故防止のために,配電用避雷器のライトニングパフォーマンスおよび効果的な避雷器焼損事故防止策について検討を行った。 本研究では,Electro-Magnetic Transients Program(EMTP)を用いた解析を多導体系の配電線に適用し,その手法の有効性を実規模配電線による実験により検証を行った上で,避雷器焼損事故防止策の検討を進めた。 まず,避雷器の配電線路上における施設位置と,配電線直撃雷に対する避雷器処理エネルギーの関係を検討した。この検討により,処理すべきエネルギーが大きい箇所の避雷器から優先的に対策することが可能となる。図1に,架空地線直撃の場合の,末端柱に施設された避雷器と末端柱以外の柱(以下,非末端柱と略記)に施設された避雷器の処理エネルギーを示す。架空地線直撃の場合,末端柱の避雷器の方が非末端柱の避雷器より処理エネルギーが大きい。また,この現象は,波尾長が長い雷の方が顕著である。 図1 雷電流の波尾長と避雷器処理エネルギーの関係(説明本文参照) 次に,各種雷害対策の避雷器焼損事故の防止効果を,「焼損率(1回の雷の直撃により避雷器が焼損事故に至る確率)」という尺度を用いて定量的に評価し,効果的な避雷器焼損事故防止策について検討した。焼損率の算出にあたっては,表1に示す冬季雷の雷電流パラメータの累積頻度分布を用いた。 避雷器の焼損率に対する架空地線および避雷器容量の影響を図2に示す。架空地線を施設すると,焼損率を約1/3〜1/5に低減できるため,架空地線の施設は焼損率低減のために有効である。一方,避雷器の容量アップは,架空地線が有る配電線の方が効果が大きく,容量を15kJから30kJにアップすると,焼損率を約1/2以下に低減できる。しかし,架空地線が無い配電線では,避雷器容量アップによる,焼損率低減の効果は小さい。なお,15kJ,30kJは,定格2.5kAおよび5kAの避雷器の容量に相当する。 表1 冬季雷の雷電流パラメータの累積頻度分布図2 架空地線有無および避雷器容量と焼損率の関係(説明本文参照) 近年,配電用避雷器の焼損事故の原因は,配電線直撃雷だけでなく,需要家設備への落雷時の配電線への雷電流の逆流現象も原因の一つである可能性が報告されている。このため,需要家設備落雷時の配電線への雷電流逆流現象の避雷器焼損事故への影響について,配電線直撃雷と比較しながら検討を行った(図3参照)。需要家設備の接地抵抗値が100以上の場合,雷電流逆流現象による焼損率は,配電線直撃雷による焼損率の約90%とほとんど変わらず,雷電流逆流現象が避雷器焼損事故の原因になりうることが明らかになった。 図3 雷電流逆流現象と配電線直撃雷による焼損率の比較(説明本文参照) 冬季雷が発生する地域では,架空地線が1条施設されている配電線においても避雷器焼損事故が少なくない。このため,架空地線が1条施設されている配電線における避雷器焼損事故防止策として,架空地線の多条化について検討を行った。 架空地線の条数を1条から2条にすることにより,焼損率を約1/3にすることができる(図4参照)。また,2条目の架空地線の施設範囲と焼損率の関係を求めた(図5参照)。避雷器の容量アップ(15kJ→30kJ)と同等なレベルに焼損率を低減するためには,末端柱避雷器の場合,6〜8径間にわたって2条目の架空地線を施設すればよい。 避雷器容量アップ(15kJ→30kJ)と2条目の架空地線の施設について,コスト面および避雷器焼損事故防止効果の面から検討を行った結果,両者は同等程度の効果を有しており,架空地線が1条施設されている配電線に,2条目の架空地線を施設する対策は,有効な避雷器焼損事故防止策になりうることが明らかになった。 図4 架空地線の条数と焼損率の関係(説明本文参照)図5 2条目の架空地線の施設範囲と焼損率の関係(説明本文参照) |