学位論文要旨



No 213776
著者(漢字) 小林,主一郎
著者(英字)
著者(カナ) コバヤシ,シュイチロウ
標題(和) 都市プラント最適運転の実用化に関する研究
標題(洋)
報告番号 213776
報告番号 乙13776
学位授与日 1998.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13776号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山地,憲治
 東京大学 教授 正田,英介
 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 教授 松尾,友矩
 東京大学 助教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 横山,明彦
内容要旨

 公共的都市プラントでは、国策、自治体方針、地域ユーザの要求などに基づく総合的な機能要求が基本設計に反映される。従って、都市プラントの運転制御では、社会的要求に対して、プラント全体をシステムとして制御することによる機能の達成が要求される。これを満足するためには、高信頼性が要求される制御システムの階層的ハードウェア構成に応じた、広義のソフトウェア設計問題を解決する必要がある。

 一方、システム供給の立場からは、高度化するシステム性能を保証し、かつ、費用対効果の高いシステムを設計するために、できるかぎり汎用的な枠組みとして制御システムを構成することが望ましい。また、今後の高齢化社会における年齢層の問題や公共事業における日常的組織異動を含めて考えた場合、プラント経験者の量的確保が困難なことなどの背景がある。このため、知的制御機能を有する自動化の推進が望まれる。

 本研究では、処理量の原則やエネルギーの有効平準化利用の原則など、社会的な要請に基づいて設定された運転目的、運転方案を前提として、都市プラントをシステムとして総合的に運転制御するために、機能的、ハードウェア的階層構造を持った総合的制御システムを提案する。即ち、近年高度化してきた都市プラントの運転制御目標達成を目的とし、日々の運転制御に係わる知識を階層的にとらえ、総合的にプラントを制御することのできる制御システムの機能構成を提案する。加えて、最新のシステム技術を適用することにより、各階層での技術課題を解決するための設計手法について述べる。

 提案する制御システムでは、

 ・地域需要予測に基づいたプラント運転計画の最適化機能からなるスケジューラ

 ・サブシステム毎に分散した知的プロセス制御系

 ・サブシステムの自動制御系

 からなる階層的な機能から構成される。

 まず、上位階層であるスケジューラで、都市プラントの運転計画最適化に関する定式化問題と解法の高速化問題が課題となる。本提案システムでは、都市プラントの処理量の原則、および、エネルギーの有効平準化利用の原則に基づいたプラント運転計画問題を整数計画(IP)問題として定式化した。離散変数を含む問題は、オンライン向けとしては規模が大きくなり、実時間用途を達成するためには解法の高速化が不可欠である。そこで、遺伝的アルゴリズム(GA)によりIP問題の解を高速で求め、プラント運転計画をオンラインで得ることができる実用的な方法を提案した。

 本手法を定量的に評価するため、実プラント規模の地域冷暖房(DHC)プラントを例にとり、シミュレーション検討を行った。結果、従来の最適化手法(分岐限定法BBM)と比較して、問題が複雑になるに従い、GA応用の効果が大きくなることを確認した。パーソナルコンピュータを用いて演算時間を計測したところ、取り扱った例では全て10秒以内で実用的な解が得られた。GAではヒューリスティクスの導入が容易であり、演算時間の短縮に貢献することも確認できた。

 また、都市プラントの運転計画を得るためには、地域需要予測が必要である。地域需要のオンライン予測のためには、地域の経年変化に対応できる非線形統計モデルを同定する手法が必要であり、本提案システムではニューラルネットワークモデルの適用を提案した。具体的な予測モデル構築手順と精度の検討を行うため、DHCプラント運転計画に必要な地域熱需要予測問題を対象とし、実データに基づく評価を行った。

 本提案モデルでは、日量だけではなく、熱負荷の日間変動(1時間毎)を、できる限りパラメータの少ないモデルで予測することができることを目的とした。また、プラント運転支援にも利用できる方式を目指した。このため、熱負荷の特徴量を予測して運転支援に必要な熱負荷パターンを検索する方式とし、類似日の検索が可能な構成とした。

 結果、本方式では最新情報に基づく非線形特性の学習機能を有するだけではなく、時間毎のモデルを有する必要がないため、時間毎に多数のモデルが必要な手法に比べて効率的に予測モデルを構成できるようになった。

 得られたモデルの構成を最小とするため,実データにより、入力層,中間層,および,出力層に関して構造を評価した。その上で,特徴量の同定精度,および,予測精度について考察した。

 次に、プロセス制御階層における、運転計画を参照した計画遂行のための知的制御が問題となる。本提案システムでは、上水道送水系を例にとり、実際に運転員が実施している運転判断を規範とし、需要予測に基づいて最適化された運転計画を参照して、プラントの運転制約を守りながら、需要変動に応じて安定な制御を行うためにファジィ制御を応用した制御方式を提案した。

 即ち、制御対象が安定領域にある時は、プラント運転計画とフィードバック信号に偏差があっても、プラント運転計画の補正量を小さくし、逆に制御対象が危険領域にある時は、プラント運転計画の補正量を大きくする非線形的な制御方式を提案した。本方式では、運転員の感覚をファジィ・メンバーシップ関数で表現し、プラント運転計画を参照した運転制御の遂行を可能としていること、および、ポンプ運転台数に応じてゲインを切り替えるなど、離散的な現象に対しての考慮により安定した運転が得られることを、シミュレーションにより示した。

 最後に、サブプロセス制御自体が複雑な場合の問題解決のために、オンライン制御型のエキスパートシステム(ES)の適用を提案した。ここでは、浄水場制御系を例にとり、実時間型の制御用ESを設計する場合に問題となる、知識の抽出と設計方針の設定を中心に考察した。実際、機場で運転員が判断している知識を抽出し,定量的な検討を加えることにより、従来自動化できなかった、洗浄水量節減を考慮したろ過池のオンライン制御型ESを適用することにより自動化が可能となったことを示した。

 また、設計プロセスとして、

 ・既存のプロセスが存在する場合、プロセスの解析を行い、知的な運転制御の効果を分析すること、

 ・実際のプラントに蓄積されているプラント運転制御に関するノウハウをインタビューにより獲得する場合、単純に運転員の言葉だけで理解せずに、事前に得た知見を有効に活用すること、

 ・得られた知識を分析し、得られた制御規範の矛盾性を排除し、ESの設計方針を設定すること

 ・オンライン制御型とするため、前向き推論を基本として、制御規範をルールベースとして設計すること

 ・可能な範囲で中央監視室でのヒューマンインターフェイス機能にESの動作説明機能を持たせること、

 からなる一連の設計手法を提案した。

 以上、本論文では、都市プラントの運転最適化問題を階層的にとらえ、上位階層では、運転管理者、または、代行としての運転員の意志をプラントの運転計画に反映させる機能を持たせた。この階層では、我が国のような人口集中型都市における都市プラントにおいて、地域需要に対応したプラント供給負荷の不確定性、経年変化に追従しつつ、供給義務を制約とする処理量の原則に基づき、1日を通してエネルギーを有効に、かつ、平準化利用することのできる計画的な運転制御目標を設定することができる。

 下位の階層であるプロセス制御階層では、設定された運転計画を参照しながら、システム全体が協調のとれる範囲で、サブプロセス制御への目標値設定を行う機能を有する構成とした。また、サブプロセス自体が複雑な場合にも対応ができるような制御システム構成を考慮した。

 即ち、本提案システムは、

 ・需要予測に基づいたプラントの運転計画最適化

 ・知的制御の枠組みを有し、プラント毎に蓄積されたノウハウを組み込むことのできる総合的なプロセス制御

 ・プラントを構成するサブプロセス制御の自動化

 という階層から構成され、いくつかの具体的なケースの検討を通して、都市プラント制御システムの汎用的構築の可能性を示すことができた。また、本提案システムの各階層において、システム技術適用による問題解決手法の有効性を示した。

審査要旨

 本論文は「都市プラント最適運転の実用化に関する研究」と題し、地域冷暖房、上水道送水系などの都市プラントについて、最適運転の実用化という観点から、汎用的な制御システムを提案し検討したものである。提案する制御システムは、1)対象地域の需要予測、2)需要予測に基づいてプラント運転の上位計画を定めるスケジューラ、3)サブシステム毎に分散した知的プロセス制御系、4)個々のサブシステムの自動制御系という階層的な機能に分けて構成される。

 第1章は序論であり、プラント制御の歴史的展開をレビューした後、本論文の対象である都市プラントの特徴を地域的な需要に対して供給義務を持つ公共性という点から整理し、階層構造を持つ都市プラント制御システムの基本構成を提示している。

 第2章では、都市プラントとして地域冷暖房(DHC)プラントを例にとり、上位階層であるスケジューラで課題となる、都市プラントの運転計画最適化に関する定式化問題と解法の高速化問題を取り扱った。ここでは遺伝的アルゴリズム(GA)により整数計画問題の解を高速で求め、プラント運転計画をオンラインで得ることができる実用的な方法を提案し、従来の最適化手法(分枝限定法)と比較して、問題が複雑になるに従い、GA応用の効果が大きくなることを確認した。

 第3章では、DHCプラント運転計画に必要な地域熱需要予測問題を対象とし、地域の経年変化に対応できる非線形統計モデルを同定する手法として、ニューラルネットワークモデルの適用を提案した。本方式は最新情報に基づく非線形特性の学習機能を有し、時間毎のモデルを有する必要がないため、時間毎に多数のモデルが必要な従来の手法に比べて効率的に予測モデルを構成できるようになった。また、得られたモデルの構成を最小とするため、実データにより、入力層、中間層、および出力層に関して構造を評価し、予測精度について考察し、実用性を確認した。

 次に、第4章では、上水道送水系を例にとり、プロセス制御階層における、運転計画を参照した計画遂行のための知的制御問題を取り扱った。ここでは、実際に運転員が実施している運転判断を規範とし、需要予測に基づいて最適化された運転計画を参照して、プラントの運転制約を守りながら、需要変動に応じて安定な制御を行うためにファジィ制御を応用した制御方式を提案した。本方式では、運転員の感覚をファジィ・メンバーシップ関数で表現し、プラント運転計画を参照した運転制御の遂行を可能としており、ポンプ運転台数に応じてゲインを切り替えるなど、離散的な現象に対しても考慮がなされている。また、提案した制御方式により、安定した運転が行えることをシミュレーションにより示した。

 第5章では、末端のサブシステムの自動制御問題として、浄水場制御系を例にとり、サブプロセス制御自体が複雑な場合の問題解決のために、オンライン制御型のエキスパートシステム(ES)の適用を提案した。ここでは、実際の浄水場で運転員が判断している知識を抽出して定量的な検討を加え、オンライン制御型ESを適用することにより、従来自動化できなかった、洗浄水量節減を考慮したろ過池の自動化が可能となることを示した。また、プラント運転制御に関するノウハウをインタビューから獲得する手法、得られた知識を分析して矛盾性を排除するESの設計方針、制御規範のルールベース化、中央監視室でのヒューマンインターフェイス機能にESの動作説明機能を持たせることなどからなる一連の設計手法を提案した。

 第6章では全体の結論をまとめ、今後の課題を整理した。

 以上要するに、本論文は、公共的都市プラントの制御システムを階層構造として構成することによって、最適運転の実用化が可能となることを示したものである。各階層の設計において、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、ファジィ理論、およびエキスパートシステムを駆使したツールを開発し、実際の適用例を通してその有効性を確認しており、これらの成果は電気工学、特に制御システム工学上貢献することが少なくない。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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