現在、我が国では3箇所の地下岩盤内石油備蓄基地において石油の国家備蓄事業が行われている。これらの地下岩盤空洞は、幅18m、高さ22mの卵型あるいは幅20m、高さ30mの食パン型の断面形状を有する長さ230m〜555mの7〜10本の複数の大断面空洞群から成っており、基本的には新鮮で良好な岩盤地域を選定して構築され、吹付けコンクリートとロックボルトを補強部材としたNATM工法により施工を行った。 空洞の安定性は、これらの補強部材により一体化した周辺岩盤のアーチアクション効果によりはかられることになるが、この補強が適切にまた合理的に行われるためには、その岩盤の工学的な評価が適正に行われることが重要なポイントであった。 この岩盤評価の基準となる岩盤分類については、国内外で数多くの分類法が提唱、適用されてきているが、これらのほとんどは地表部付近の風化の影響を含んだ岩盤を対象としており、石油地下備蓄空洞のように深部の新鮮岩盤を対象とした岩盤分類はこれまでみられていなかった。そのため、これらの3基地では、評価対象岩盤として最も近いと考えられる地下発電所を対象とした電源開発方式の分類法に着目し、これを見直し、修正を加えて地下備式分類法として新たに構築し、適用した。 地下備式分類法は、岩盤の「硬さ」と「割れ目間隔」の2項目を主要要素として、その組み合わせによって岩盤を分類する方式であり、さらに補助要素として「割れ目の状態」、「風化・変質」等を設定し、これにより岩盤を総合的に評価するものである。すなわち、基本的には岩盤の「硬さ」と「割れ目間隔」の2主要要素によって岩盤を評価し、対応する支保パターンを決定するもので、この手法に従って掘削工事を行い、地下備蓄空洞は無事完成している。 しかし、本手法を適用していった過程で下記に示すような課題が残され、またこれについては検証がなされていなかった。 1.深部新鮮岩盤の評価 主要要素及び補助要素の設定、位置付けが合理的であったかどうか 2.吹付け、RB工法に対する迅速な岩盤評価 「硬さ」と「割れ目間隔」の2主要要素を各々5区分し、その組み合わせにより岩盤等級を判定し、対応する支保パターンを適用したが、これが合理的であったかどうか 3.大断面空洞(大スケール)の岩盤の評価 弱層部及び低級の岩盤に対しては常に安全側の立場から評価していったが、その評価基準及び施工管理手法が明確で合理的なものであったかどうか 本研究は、このような課題に対し、実施工において幾条かの顕著な断層破砕帯に遭遇するなど、その適合性を評価しうる貴重なデータが得られている串木野基地を例に取り上げ、データの分析、検証を行うとともに、適用した岩盤分類及び施工管理手法の合理性、簡便性、経済性について再度見直し、大断面空洞の迅速施工に対応した岩盤分類、評価手法として一つの試案を提言するものである。 本研究では、まず、岩盤の「硬さ」と「割れ目間隔」の2主要要素の組み合わせにより岩盤を評価することが基本的に妥当なものかどうかについて検討を行った。ここでは数量化II類により調査ボーリングデータを分析し、「硬さ」、「割れ目間隔」、「割れ目の状態」、「風化・変質」の各評価要素の岩盤等級との関連性を検討するとともに、各評価要素間の独立性の検討及び評価要素の設定の妥当性について検討を行った。 その結果、「硬さ」と「割れ目間隔」とは他の要素に比べ独立性においてやや優り、岩盤等級との相関性からもこれを主要な評価要素として位置付けることは合理的であることを示した。また、「硬さ」と「割れ目間隔」には弱い相関性もみられ、岩盤評価を行う際にはこれを組み合わせて評価することが重要であることを確認した。 次に、今回適用した評価手法について最も問題となったのは、大断面空洞に対する評価基準のあいまいさであった。すなわち、岩盤の「硬さ」と「割れ目間隔」の2主要要素の組み合わせにより岩盤を評価、判定するが、その判定結果を大断面に対するスケールを考慮したRock Massとして評価することなく、安全側という観点を主眼に評価していた。内空変位(天端沈下)、吹付けコンクリートの計測結果の分析により、これは特にM級以下の岩盤に関して計測値のばらつきという結果で現れてきていることが示された。さらに、安全側という評価にもかかわらず、管理基準を越える内空変位を計測するところもあり、基本的な岩盤評価基準そのものに不適合となる点があることが示された。 本研究ではこの要因として、岩盤の「硬さ」と「割れ目間隔」の2主要要素の組み合わせであるBIII、CIVといった岩級区分について、この岩級区分の分布域が掘削切羽に占める割合(岩級区分占有率と定義した)についての考慮がなされていなかったこと、また、中庸の岩盤については特に低級の岩級区分の評価が適切になされていなかったことに着目し、これらを適正に評価することが岩盤を評価するキーポイントであると考えた。 さらに、このような内空変位の計測状況とともに、吹付けコンクリートに発生した変状に関しても同様な分析、検討を行い、その要因を明らかにした。 検討は、まず、内空変位計測値及び変状の発生状況について、施工結果及び岩級区分占有率、さらに岩級区分の分布状況と対応づけて整理、検討し、その傾向を把握するとともに、内空変位については重回帰分析及び数量化I類により岩級区分占有率との関係について分析、検討を行った。また、変状発生状況については、弱層部との関連性について詳細に検討した。 その結果、以下の点が明らかとなった。 (1)岩級区分としてはCIV、CVといった中庸から低位の岩級区分が内空変位等の計測値に対する影響が大きく、特にCIVについてはその占有率が30〜40%程度を越えると変位の増加傾向が顕著となる。 (2)他の岩級区分についてはその占有率と計測値とは相関性は低く、特に良好岩盤に対する「硬さ」と「割れ目間隔」の細区分は、空洞の安定性の観点からは有意性がみられない。 (3)変状の発生は、内空変位とは直接的には関係しないと考えられ、多くは岩盤の弱層等の不均質性に起因する表面付近の変位の不一致性によるものである。 このような分析結果に基づき、大断面空洞の安定性、迅速施工という観点から現行の岩盤分類法を再検討し、岩級区分占有率を考慮した新しい評価手法を構築した。この要点を示すと以下のようである。 (1)「硬さ」と「割れ目間隔」の区分はそれぞれ3区分として簡便化する。 (2)岩盤等級は基本的にはH級、M級、L級の3区分とし、極めて脆弱な岩盤をLv級として位置付ける。 (3)CIV岩盤(中庸の岩盤のなかでも低位の岩盤)はその岩級区分占有率が40%(程度)未満の場合にはM級とし、40%(程度)以上の場合はL級として、その占有率により評価を変える。 (4)岩盤は、低級の岩盤から、対応する岩級区分の占有率によりその値が40%(程度)となるかどうかによってその切羽全体としての岩盤等級を判定していく。ただし、Lv級については安全性の観点からこれを30%とする。 この分類法の適用性については、検討した岩盤タンクにあてはめて元の分類との比較検討を行うことにより検証した。 その結果、新分類法は内空変位をよく説明できること、また、経済性に関しても元の分類に比べ優位となることが示され、合理的な岩盤評価手法であることが示された。 また、変状については、分析により、岩盤分類あるいは内空変位とは直接関係せず、岩盤の不均質性に基づくものであることが確認されたことから、これについては弱層の分布等の不均質となったところの監視を十分に行うことで対応する必要があることを示した。 このように、本研究では、中庸の岩盤のなかでも低位の岩盤を占有率によって適正に評価し、また、この占有率によって評価を変えることが大断面空洞の安定性を評価していく上で重要であること、また、弱層部等の不均質性に対する監視により変状の発生に対処することが評価後の管理手法のキーポイントであることを示した。 さらに、本手法が他の岩盤に対しても同様に有効となる可能性についても言及したが、この検証については今後の課題とした。 |