近年、パワーエレクトロニクス技術,及びその関連技術の進歩に伴い、高調波低減を可能とするPWM整流装置,新エネルギー用交直変換装置,および無効電力補償装置など,電圧型自励式交直変換装置を電力系統に連系する用途が増加しつつある。この傾向は今後とも増大するものと想定される。 系統連系用途におけるPWM方式は,交流電圧制御タイプよりも交流電流制御タイプが望ましい。その理由は、系統短絡容量の増加がほとんどないこと,系統電圧の変動やひずみに対して過電流が起こりにくいので安定した性能が得られること,及び系統に連系される場合には変換装置の出力電圧は変換装置自身のみでは決定できないためである。現在、一般に広く用いられている交流電流制御タイプのPWM方式は,三角波比較方式,またはヒステリシスコンパレータ方式であるが、非線形性が大きいことから両方式とも電流制御性能に関する定量的な解析は行われていない。パラメータの設定は、経験と個別のシミュレーションにより実施されている。 第1章ではまず、パワーエレクトロニクスと電力系統との連系についての歴史を簡単に振り返ると共に、系統連系される自励式変換装置での技術の核であるPWM方式について,現状と問題点を明らかとした。設置される場所に関わらずに目標性能を安定して発揮し,しかも高コストでないという意味での汎用性のある設計法の確立が望まれていることを指摘した。 第2章では最初に、単相,及び三相構成の電圧型自励式交直変換装置の動作モードを解析し、PWM法を検討するための前提となる,主回路に関する基礎微分方程式を導いた。特に、三相の場合には,瞬時三相/二相変換(変換)を用いることにより、基礎微分方程式が各相成分毎に非干渉化されることを示すと共に,空間上では直流側電圧EBがスイッチング指令に応じて半径2EB/の空間ベクトルにより表現されることを示した。 次に、単相,及び三相構成の電圧型自励式交直変換装置における交流電流制御タイプのPWM方式に対して、基礎微分方程式を出発点とした定サンプル型解析モデルを考案し,電流制御性能に関する定量解析を行った。1サンプル期間が被変調信号(目標関数)に対して十分に短いことを利用してサンプル期間ごとに線形近似を行って解析した点に特徴がある。本解析モデルの解析条件に従えば、パルス幅変調に伴う電流誤差の大きさは予め与えた目標追従誤差幅以内に収まることが理論的に保証される。正弦波入出力交直変換装置,およびアクティブパワーフィルタを対象として、シミュレーションにより解析モデルの動作が理論どおりに行なわれることを確認した。解析モデルを電流誤差と電流ひずみの両面で,上述の2つの既存PWM方式と比較すると、このモデルは両方式のほぼ中間の特性を示す。 第3章では、系統背後電圧が平衡正弦波である場合を前提として,目標関数(指令)を正弦波に限定するPWM方式を解析対象としている。 まず、単相,及び三相構成の電圧型自励式交直変換装置における正弦波電流制御タイプのPWM方式に対して、定サンプル型解析モデルを考案し,電流制御性能に関する定量解析を行った。前章の解析モデルとの違いは、以下のとおりである。 ・目標関数(指令)は正弦波に限定される。また、交流系統電圧を積極的に電流制御に利用するので、系統背後電圧にも正弦波(三相の場合には平衡性も)であることが要求される。 ・直流電圧の存在範囲が広がる。即ち、目標関数の力率に応じて,直流電圧は交流系統の波高値より低くてもよいので、直流電圧の利用率が向上する。 次に、単相,及び三相構成の電圧型自励式交直変換装置において、正弦波電流制御が可能となるPQ制御可能範囲が主回路定数によって定まる楕円と二次曲線に囲まれた範囲となることを理論的に導いた。この性質は、PWM方式の違いによらず,成立する。 正弦波入出力交直変換装置を対象として、シミュレーションにより解析モデルの特性を,既存の代表的なPWM方式である三角波比較方式,及びヒステリシスコンパレータ方式と比較した。その結果、以下の知見が得られた。 ・PQ制御可能範囲を外れた指令に対しては、解析モデルだけでなく,三角波比較方式,及びヒステリシスコンパレータ方式でも正弦波制御が不可能になることが確認された。また、PQ制御可能範囲内の運転指令に対しては、3者とも正弦波制御が可能である。 ・直交電圧比が1以下の場合でも,運転指令がPQ制御可能範囲内にあれば、解析モデルだけでなく,既存の2方式でも、正弦波制御が可能である。 ・平均スイッチング周波数を同一とすると、解析モデルの電流追従誤差の大きさ,及び電流ひずみの割合の特性は、既存2方式の中間となる。 第2章,第3章で導入した単相解析モデルは定サンプル型で,かつ電流制御タイプのPWM方式そのものとも考えることができるので、第4章ではその視点から,系統連系に用いる汎用単相変換装置のPWM方式の設計法として設計基準の形にまとめた。本PWM方式では定サンプル型であるため汎用ハードウェアの適用に向いていること,設計基準に従って設計するだけで動作の安定性が理論的に保証されること,ゲート指令における最小オフ継続時間と最小オン継続時間が保証されること,及び連系電流波形の制御が系統電圧の変動に対してロバストであることから、系統連系用途の汎用単相自励式変換装置に適した設計法と言える。ゲート指令が電流誤差関数のみで決定されるので、単相誤差追従式と命名した。 電圧型自励式交直変換装置を電力系統に連系して使用する場合,スイッチング成分の系統への流出を防止するために、交流フィルタの設置が不可欠である。その設計を単相の場合について論じた。交直変換装置のスイッチング電圧の周波数スペクトラムはPWM方式により異なるので、交流フィルタの設計は各PWM方式に固有な方法でなければならない。誤差追従式PWM方式に適した設計法を設計手順の形で示した。その正しさを確認するために、ac100V,50Hz,dc200V,1kVAの単相連系変換装置に対して交流フィルタを設置し、その動作をディジタルシミュレーションにより確認した。フィルタ容量はわずか1.1%である。連系点電圧,電流に含まれるスイッチングリプルはほぼフィルタにより吸収され、それらはほぼ基本波成分のみの正弦波になることが確認できた。共振などの異常現象の発生は全く見られなかった。 また、既存のPWM方式に対して,ここに述べた交流フィルタの設計手順が適用できるか否かを評価した。三角波比較方式では原則的に問題ないが、ヒステリシスコンパレータ方式については適用は困難と考えられる。 第5章ではまず、単相の場合と同様に三相の場合について解析モデルをもとに、定サンプル型PWMの設計法(三相誤差追従式)として設計基準の形にまとめた。単相の場合と同様に、本方式は系統連系用途の汎用自励式変換装置に適した設計法と言える。 次に、本PWM方式に適した交流フィルタの設計手順を示した。その正しさを確認するために、ac200V,50Hz,dc320V,100kW,pf=0.95の三相変換装置に交流フィルタを設置し、ディジタルシミュレーションによりその動作を求めた。フィルタ容量はわずか5.3%である。交流フィルタによりスイッチングリプルはほぼ吸収され、連系点電圧,電流はほぼ基本波成分のみの正弦波となることが確認された。共振などの異常現象の発生は全く見られなかった。 最後に、既存のPWM方式に対して,ここに述べた交流フィルタの設計手順が適用できるか否かを評価した。単相の場合と同様に、三角波比較方式では原則的に問題ないが,ヒステリシスコンパレータ方式については適用は困難と考えられる。 第6章では誤差追従式PWM方式の動作を実機により検証するために、ac100V,50Hz,dc180V〜240V,1kVAの4象限運転が可能な連系用単相電圧型自励式交直変換装置を試作した。パワーデバイスにはIGBTを使用した。シミュレーションで予測した波形とほぼ同等の動作波形が測定された。電流追従誤差は目標追従誤差幅以内となり、特別な起動操作を行なわなくとも自動的に目標関数(指令)に対する追従を開始することが確かめられた。また、交流フィルタの効果もシミュレーションで予測した結果となり、スイッチングに伴う高調波成分を吸収するとともに,共振などの不安定現象は全く見られなかった。 第7章では得られた成果をまとめると共に、今後の課題についても述べた。 今後、電力系統に自励式変換装置を接続する必要性は,ますます増加してゆくものと想定される。この場合、連系場所にかかわらずに安定した性能を約束し,高コストでない汎用変換技術の開発が重要と考えられる。本論文での提案はその解決のための1つの手段となるので、系統連系される自励式変換装置の普及に貢献することが期待される。 |