学位論文要旨



No 213823
著者(漢字) サムロール・シェルダン・テオドール
著者(英字) Sumrall Sheldon Theodore
著者(カナ) サムロール・シェルダン・テオドール
標題(和) 不感性高エネルギー物質に関する研究
標題(洋) DISSERTATION ON THE"STUDY OF INSENSITIVE,HIGHLY ENERGETIC MATERIALS"
報告番号 213823
報告番号 乙13823
学位授与日 1998.04.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13823号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田村,昌三
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 助教授 齋藤,猛男
 東京大学 助教授 新井,充
 東京大学 助教授 茂木,源人
内容要旨

 1800年代初期より高エネルギー物質の偶発的爆発により多くの人が死傷している。本研究は高エネルギー物質を安全化することを目的として行ったものである。

 本研究の目標は、性能、製造、コスト、起爆性の点では標準的な火薬類と同等であるが、偶発的爆発に対しては極めて低感度である汎用目的の高エネルギー物質を開発することにある。高性能を有する不感化高エネルギー物質は数多く知られているが、それらはコスト的に実用困難である。したがって、不感化高エネルギー物質を合理的なコストで開発することには高い関心がある。

 米国においては政府が所有していた多くの火薬類製造設備が閉鎖され、多くの設備が産業用火薬類の製造に用いられるようになった。したがって、最初の目的は現存するトリニトロトルエン(TNT)タイプ用の設備を用いて製造できる高エネルギー物質を開発することにあった。産業用高エネルギー物質のメーカーはこの目的に適合する低感度の高エネルギー物質を製造し、その高エネルギー物質を商業的に入手可能なものとしようとしている。また、TNT自体は依然として多くの爆発事故を起こしており、低感度の非TNTベースの高エネルギー物質の開発が重要な安全性の向上をもたらすことが期待されている。

 本研究の最初のアプローチはプラスチックボンデイッド爆薬(PBX)について研究し、PBX組成に伴う問題点を克服する方法を考えることにあった。多くの文献調査の結果、伝統的に用いられてきた酸素を含有しないバインダーである末端ヒドロキシポリブタジエン(HTPB)を高濃度の酸素を含有するバインダーで置き換えようとした。熱化学計算プログラムを用いた計算結果は、ポリプロピレングリコール(PPG)のような含酸素バインダーと硝酸カリウムや過塩酸アンモニウム(AP)のような固体酸化剤を用いると高性能となるため、トリメチレントリニトロアミン(RDX)のような極めて高感度の成分を減少させることができることを示した。また、高爆轟特性を維持するために、不感性高性能爆発性物質であるニトログアニジン(NQ)を一部RDXに置き換えることもできる。しかしながら、これらの組成物は極めて不感性ではあったが、実験結果は、爆轟反応が急速に起こるため、バインダー酸素がチャプマン-ジュゲーショックフロントに関与することができず、既存の高性能爆薬と同等の性能を示すことはできなかった。

 本研究の次のアプローチは共融型ボンデイッド爆薬(EBX)の研究に関するものである。EBXは本研究の目的にあった低感度高エネルギー物質として多くの期待をもてるものである。しかしながら、高性能、低コスト、TNT製造設備適合性、室温固化、起爆性、低感度(小薬径)は達成できたが、大薬径での低感度という目的が達成されなかった。

 本研究の最後のアプローチは熱可塑性プラスチックボンデイッド爆薬(TPBX)組成を可能とする熱可塑性プラスチック(TP)バインダーの開発である。熱可塑性プラスチックバインダーを用いることによって、低感度で高性能のものを製造するという目的が到達された。これは低感度で理想的な挙動を示す固体の充填剤を熱可塑性プラスチックバインダーに含有させることにより達成された。小規模および大規模(15kgまでの)での種々の性能等の評価試験の結果、ソフトで柔軟なバインダーを持つことが必要であるという一般的な考え方にもかかわらず、高エネルギー物質の組成物であるTE-T7005タイプは本研究のゴールのすべてに見事に到達したものである。表にTE-T7005タイプの特性を比較のためTNTベースのPBXであるH-6タイプの特性とともに示す。

表 TF-T7005の特性

 以上、本研究により開発されたTE-T7005タイプの高エネルギー物質は、高性能、低感度、耐水性、製造性、硬化性、標準ブースターの適応性、短限界薬径、非TNT型、長期セルフライフ、原材料のコストと入手可能性等すべてを満足するものといえる。

審査要旨

 本論文は、製造性、起爆性、高爆発性能、コスト等の点では標準的な高エネルギー物質と同等であるが、高い安全性を有する、汎用目的の高エネルギー物質を開発することを目的として行った研究をまとめたもので、5章から成る。

 第1章は序論であり、本研究の背景と既往の研究について述べるとともに、本研究の目的と研究方針を明らかにしている。

 第2章は、本研究の最初のアプローチであるプラスチックボンデイッド爆薬(PBX)に関して種々の問題点を解決する方法について検討した結果を述べている。

 文献調査に基づき、熱化学計算プログラムを用いて爆発性能についての計算を行った結果、従来用いられてきた酸素を含有しないバインダーである末端ヒドロキシポリブタジエンを、多くの酸素を含有するポリプロピレングリコールのような含酸素バインダーで置き換えると、それと硝酸カリウムや過塩素酸アンモニウムのような固体酸化剤とにより、高爆発性能が得られるため、トリメチレントリニトロアミン(RDX)のような極めて高感度となる成分を減少させることができる可能性があることを示している。また、高爆発性能を維持するために、低感度で高爆発性能を有する高エネルギー物質であるニトログアニジンを一部RDXに置き換えることも低感度で高爆発性能を有する高エネルギー物質を得る可能性があることを示している。

 しかしながら、実験の結果、これらの組成物は低感度であり、発熱反応は急速に起こったが、バインダー酸素がC-J(チャプマンージュゲー)条件を満足することができず、既存の高爆発性能を有する高エネルギー物質と同等の高爆発性能を示すことはできなかったことを述べている。

 第3章は、本研究の次のアプローチである共融型ボンデイッド爆薬(EBX)について検討した結果を述べている。

 EBXは、本研究の目的にあった低感度の高エネルギー物質として多くの期待をもてるものであり、製造性、起爆性に優れ、高爆発性能、低コストであり、小薬径では低感度であったが、大薬径では低感度という目的が達成されなかったことを述べている。

 第4章は、本研究の第3のアプローチである熱可塑性プラスチックボンディッド爆薬(TPBX)とそれを可能とする熱可塑性プラスチックバインダーの開発について検討した結果を述べている。

 熱可塑性プラスチックバインダーを用いることにより、低感度で高性能を有する高エネルギー物質を開発するという目的が達成されたが、これは低感度で、理想的な爆発挙動を与える固体の充填剤を熱可塑性プラスチックバインダーに含有させることによるためとしている。小規模および大規模(爆薬15kgまで)での種々の性能評価試験の結果、低感度の高エネルギー物質を得るためには、ソフトで柔軟なバインダーを持っことが必要であるという従来の一般的な考え方にもかかわらず、高エネルギーの熱可塑性バインダー/アルミニウム粉末/RDX/3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール-5-オン/過塩素酸アンモニウム系組成物が、本研究のゴールである低感度で、製造性、起爆性、高爆発性能、コスト等すべてを満足するものであることを示している。

 第5章は総括であり、本研究で得られた成果をまとめている。

 以上要するに、本論文は低感度で高性能の高エネルギー物質の開発に成功した結果を述べたものであり、エネルギー物質化学および化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は工学(博士)として合格と認められる。

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