本論文は、製造性、起爆性、高爆発性能、コスト等の点では標準的な高エネルギー物質と同等であるが、高い安全性を有する、汎用目的の高エネルギー物質を開発することを目的として行った研究をまとめたもので、5章から成る。 第1章は序論であり、本研究の背景と既往の研究について述べるとともに、本研究の目的と研究方針を明らかにしている。 第2章は、本研究の最初のアプローチであるプラスチックボンデイッド爆薬(PBX)に関して種々の問題点を解決する方法について検討した結果を述べている。 文献調査に基づき、熱化学計算プログラムを用いて爆発性能についての計算を行った結果、従来用いられてきた酸素を含有しないバインダーである末端ヒドロキシポリブタジエンを、多くの酸素を含有するポリプロピレングリコールのような含酸素バインダーで置き換えると、それと硝酸カリウムや過塩素酸アンモニウムのような固体酸化剤とにより、高爆発性能が得られるため、トリメチレントリニトロアミン(RDX)のような極めて高感度となる成分を減少させることができる可能性があることを示している。また、高爆発性能を維持するために、低感度で高爆発性能を有する高エネルギー物質であるニトログアニジンを一部RDXに置き換えることも低感度で高爆発性能を有する高エネルギー物質を得る可能性があることを示している。 しかしながら、実験の結果、これらの組成物は低感度であり、発熱反応は急速に起こったが、バインダー酸素がC-J(チャプマンージュゲー)条件を満足することができず、既存の高爆発性能を有する高エネルギー物質と同等の高爆発性能を示すことはできなかったことを述べている。 第3章は、本研究の次のアプローチである共融型ボンデイッド爆薬(EBX)について検討した結果を述べている。 EBXは、本研究の目的にあった低感度の高エネルギー物質として多くの期待をもてるものであり、製造性、起爆性に優れ、高爆発性能、低コストであり、小薬径では低感度であったが、大薬径では低感度という目的が達成されなかったことを述べている。 第4章は、本研究の第3のアプローチである熱可塑性プラスチックボンディッド爆薬(TPBX)とそれを可能とする熱可塑性プラスチックバインダーの開発について検討した結果を述べている。 熱可塑性プラスチックバインダーを用いることにより、低感度で高性能を有する高エネルギー物質を開発するという目的が達成されたが、これは低感度で、理想的な爆発挙動を与える固体の充填剤を熱可塑性プラスチックバインダーに含有させることによるためとしている。小規模および大規模(爆薬15kgまで)での種々の性能評価試験の結果、低感度の高エネルギー物質を得るためには、ソフトで柔軟なバインダーを持っことが必要であるという従来の一般的な考え方にもかかわらず、高エネルギーの熱可塑性バインダー/アルミニウム粉末/RDX/3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール-5-オン/過塩素酸アンモニウム系組成物が、本研究のゴールである低感度で、製造性、起爆性、高爆発性能、コスト等すべてを満足するものであることを示している。 第5章は総括であり、本研究で得られた成果をまとめている。 以上要するに、本論文は低感度で高性能の高エネルギー物質の開発に成功した結果を述べたものであり、エネルギー物質化学および化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。よって、本論文は工学(博士)として合格と認められる。 |