<結果> I期、II期の平均体重はそれぞれ3.01±0.38kg、3.22±0.47kgで、在胎週数の平均は41.0±0.9週、40.7土1.1週であり両群に差はなかった。また、分娩様式、胎児仮死、APGAR scoreなどにI期、II期間に差は認められなかった。
合併症:気胸、気縦隔の症例はI期は8例で、II期は6例であった。PPHNの合併はI期12例、II期4例で、II期が有意に少なかった(P<0.01)。
検査所見:CRP値はI期、II期とも日令2-3にピークが見られ、以後減少した。1週間以内の白血球数はI期、II期とも高値を取ったが、血小板数はあまり変化は見られず、ともに有意差は認められなかった。
治療に使用した薬剤:I期、II期ともおおむね同じであった。ただし、I期にPPHNの合併症が多かったために血管拡張剤の使用が有意に多かった
換気条件:I期とII期との間で、生後1週間以内の酸素濃度、人工換気条件(PIPとMAP)には差は認められなかった。I期、II期とも、MAPは日令0から日令2までほとんど同じ13cmH2O前後で管理しており、酸素濃度も80%前後と下げられていない。
人工換気療法の日数:I期17.6±9.3日、II期群13.8±11.6日とII期で短かったが有意差はなかった。
酸素投与日数:I期25.4±15.4日、II期13.5±5.9日とII期が有意に短かった。(P<0.01)、
入院期間:I期45.6±14.4日、II期31.8±15.13日とII期群が有意に短かった(P<0.05)。
図表 サーファクタント洗浄前後のPO2,PCO2:サーファクタントの効果を判定するためにII期の症例の洗浄前後のPCO2につき検討したところ、サーファクタント前の値に比し有意に後が低下していた。(P<0.05)PO2に関しては症例数が少なく有意差は出なかったが、サーファクタント洗浄後が高い傾向にあった。
ECMOに関する検討:ECMOの行われた症例は、I期でECMOの施行が始まった1988年以降の症例14例のうち5例に施行され、II期の17例の内1例に行われた。II期が有意に少なかった(P<0.05)。ECMOの適応の理由は、I期5例はPPHNの管理のためで、II期の1例は換気不全のためであった。
oxygenation index(OI)、AaDO2から、ECMOの適応の可能性のある症例につき検討を加えたところ、該当する症例はI期6例、II期5例であった。I期6例の内、1例はトラゾリンが著効し、改善した。他の5例は、すべてECMOの適応となった。II期5例のうち1例はECMOの適応となったが、2例はHFOによる換気にて改善、1例はサーファクタントの追加投与とHFOによる換気にて、1例はサーファクタントの追加投与とNO吸入により改善している.
予後:生命予後は良好で、全例呼吸器から離脱し、酸素も中止できた。神経学的予後に関しては退院後フォローアップのできたI期13例中脳性麻痺(CP)、精神発達遅滞(MR)が3例、II期16例中2例認められる。I期のECMOの適応となった症例には、退院時のABRにては正常の反応がでていたにも関わらず、後日ABRに無反応となり、高度の難聴なった症例が4例認められた。
<考案> 重症MAS症例のサーファクタント希釈液による洗浄療法は、単なる投与と異なり、サーファクタントの使用量も少なくてすみ、気管内の胎便を洗い出す洗浄効果と洗浄によるサーファクタント機能低下の改善の両者が達成できることから有力な治療と考えられている。また、胎便の洗い出しに関しても、従来行われていた生食水による洗浄に比べ、種々の利点があると考えられる。
今回の検討で、I期、II期間で、人工換気の期間には有意差が認められなかったが、酸素投与日数、入院期間は有意に短縮されており、サーファクタント洗浄療法は、今後期待される治療と考える。また、PPHNの併発を抑え、侵襲の大きなECMOの適応の減少つながることから、今後重症MASの治療の中心となると考えられる。
問題点として,II期の症例で、サーファクタントによる肺洗浄後に引き続き高い換気圧、酸素濃度での換気が必要であったことは、洗浄後もサーファクタント欠乏、サーファクタントの不活性化によるARDS様の病変が引き続き存在していることが考えられた。この点からも、サーファクタント洗浄後HFOによる換気を行うことは、PPHNの予防のみならず、肺損傷の増悪を防ぐ意味で意義があると考える。HFOによる換気だけでなく、サーファクタントの追加補充もまた病態面から考えても有用である思われる。
予後に関しては、I期、II期間で差は認められなかったが、I期でECMOを行った症例に難聴の症例が見られており、今後の注意深いフォローアップが必要と思われる。