学位論文要旨



No 213856
著者(漢字) 小竹,望
著者(英字)
著者(カナ) コタケ,ノゾム
標題(和) FEMによる補強土の変形・破壊解析
標題(洋) FEM simulation of deformation and failure of reinforced soil
報告番号 213856
報告番号 乙13856
学位授与日 1998.05.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13856号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 堀,宗朗
内容要旨

 実際の土構造物の挙動予測において、FEMに代表される数値解析法を用いて微少なひずみ領域から破壊までの現実的な解を得ることは未だ困難な状況にある。本研究では、補強盛土、補強地山等の補強土の変形・破壊の合理的数値解析法の開発を目的として、ひずみの局所化を考慮した非線形弾塑性FEM解析を補強土へ適用した。

 土のFEM解析モデルとして、既往研究によるひずみ硬化・軟化型構成式を用いた。平面ひずみ試験結果に基づく砂の応力〜ひずみ関係の非線形性、せん断強度・変形特性の異方性・拘束圧依存性、ストレス・ダイレイタンシー式に基づく非関連流動則を考慮し、実験で得られたせん断帯の厚さとひずみ軟化特性に基づくせん断帯モデルによりひずみの局所化を考慮している。また、高い非線形性材料の軟化挙動までの解の収束性を確保するため、非線形解析手法として動的緩和法を用いた。補強材のFEM解析モデルとしてトラス要素・ビーム要素の構造要素を、また土と補強材の境界面における滑りや境界面に沿ったせん断領域の形成を表現するFEMモデルとしてインターフェイス要素を導入した。構造要素等の導入に当たり、安定した解を得るために動的緩和法における仮想質量を定式化した。

 補強メカニズムの定量的検証を目的として実施された一連の平面ひずみ室内模型実験を解析対象とした。これらは、補強された砂供試体の平面ひずみ圧縮試験(要素試験)と補強された砂地盤および砂斜面の平面ひずみ模型載荷実験(境界値問題)に大別される。前者は、i)剛性が異なる一層の面状補強材で補強された砂供試体の平面ひずみ圧縮試験、ii)多層のグリッド状補強材で補強された大型砂供試体の平面ひずみ圧縮試験である。後者は、i)種々の補強パターンについて帯状補強材で補強された砂地盤の支持力寒験、ii)種々の補強パターンについて帯状補強材で補強された砂斜面の支持力実験、iii)帯状補強材とのり面工で補強された砂斜面の滑り破壊実験である。無補強供試体、無補強地盤・斜面の実験も含まれている。これらは、実験条件が厳密に制御されており、試料砂の正確な変形・強度特性と模型実験の境界条件が明確であり、高精度の変位場・ひずみ場の計測が実施されている。

 FEM解析結果と実験結果の比較により、数値解析モデル・解析手法を検証した結果、以下の結論を得た。

 ・FEM解析により実測のピーク強度・破壊荷重をほぼ良好に再現できた。また、実験で観察された補強土のせん断帯の発生・発達あるいは破壊形態がFEM解析により良く再現できていることが認められた。

 ・FEM解析結果は、実験結果より初期剛性が大きく、ピーク時のひずみ・沈下量が小さい傾向を示した。FEM解析で得られた局所的応力〜ひずみ関係から、主な原因が砂の応力〜ひずみ関係の応力経路依存性にあると判断された。

 ・FEM解析結果は、補強材の剛性や配置が補強効果に与える影響について実験結果とほぼ同様な傾向を示し、補強材と土の相互作用が良好に再現できることが認められた。また、3次元形状をもつグリッド・帯状補強材について、等価な境界面摩擦角を用いた2次元平面ひずみFEM解析により実験結果を良好に再現できることを示した。

 ・補強供試体・補強地盤の全体的挙動と関連してFEM解析で得られた土と補強材の局所的応力〜ひずみ関係、破壊の進行性等を吟味することにより、補強土の伸張補強メカニズムと破壊メカニズムを明確に示した。

審査要旨

 鉄筋や格子状ジオシンセティック等の引張り補強材を用いて、盛土・自然斜面を補強する工法は、我が国でも広く行われるようになってきた。その実務設計では、通常補強材に発生する引張り力を予測し、それに対して土の自重・外荷重を考慮する極限釣合法による安定解析法である。この設計法は、地盤と補強材の変形を直接扱っていないため、地盤の変形により補強材に引張り力が受動的に発生し、それが地盤の安定に寄与すると言うメカニズムを直接反映できない。このメカニズムを直接考慮するには、土と補強材自身及び土と補強材の境界面での複雑な変形・強度特性を直接取り込んだ三次元有限要素法等の数値解析が必要である。しかし、複合体である引張り補強された地盤の強非線形領域での変形と破壊を数値解析により正確に再現した例は、これまで殆ど無い。このため、補強土構造物の大変形と破壊のメカニズムの理解と、それの実務設計への反映が著しく遅れている。

 この間、要素試験による土のピーク前後の変形特性と強度特性の研究が進み、それの適切なモデル化もなされるようになり、また数値解析法自身も発達してきて、無補強地盤であれば、有限要素法等による破壊解析がある程度可能になってきた。一方、従来は数値計算による研究が困難であったため、補強地盤・補強土構造物の破壊メカニズムの研究は、殆ど模型載荷実験によって行われてきた。東京大学でも、補強された砂の供試体の平面ひずみ圧縮試験、補強された砂地盤や斜面上に位置する基礎の支持力試験等が系統的に行われてきた。

 本研究は、上記のような工学的要請と研究の発展段階を踏まえ、補強砂の矩形供試体の圧縮破壊実験、補強水平地盤・斜面の載荷破壊試験で観察された変形・破壊挙動を、砂の非線形変形特性と強度特性、その異方性と拘束圧依存性、ダイレイタンシー特性、すべり層へのひずみの局所化等を考慮した有限要素法により数値解析し、引張り補強メカニズムを明らかにし、補強土工法の実務設計に有用な新たな知見を提供しようとしたものである。

 第1章は、序論であり以上のような研究の背景がまとめられている。

 第2章は、本研究で用いた有限要素法の詳細の説明であり、動的緩和法を強非線形の物性を持つ地盤の破壊に適用する方法の開発過程を説明している。

 第3章は、土の変形・強度特性のモデル化についての記述であり、特に変形・強度特性の非線形性・拘束圧依存性、異方性、ピーク強度発揮後のひずみ軟化時のすべり層の変形・強度特性のモデル化を説明している。特に、すべり層内部の変形・強度特性とその厚さは粒子径の関数であり、有限要素法の要素の大きさに独立な物理量として、各要素内の平均応力〜平均塑性ひずみ関係での接線剛性を要素の大きさに逆比例させることで、本研究で扱っているような境界値問題での数値解が要素の大きさ(メッシング)に依存しないようにしている。また、解析対象の模型実験で用いた豊浦砂に対して求めたモデルのパラメータの具体的数値を示している。

 第4章は、土と補強材の間の境界条件を研究した結果を記述している。現場の補強地盤及び模型実験での補強材は、通常帯状やグリッド状等の三次元構造を持っているが、それを直接モデル化することは現在の有限要素法ではかなり困難である。そのため、平面ひずみ条件下での数値解析を行うために、層状に配置された一連の補強材群を適切な表面摩擦角度を持つ二次元構造を持つ平面状補強材に置き換えて解析する方法を研究している。その結果、通常用いられているような特別の境界要素を用いる必要はなく、適切な境界面摩擦特性を発揮するように砂の強度を調整した上で通常の砂の要素を用いれば妥当な結果が得られることを見出している。その砂の調整強度は、補強材の面内密度の増加に従って増加することも定量的に示している。

 第5、6章は、各種の剛性を持つ一層の引張り補強材で、あるいは多数層のジオテキスタイルで補強された砂の平面ひずみ圧縮試験の結果の数値解析を説明したものであり、上記の砂の変形・強度特性と砂の補強材の境界の変形・強度特性のモデル化法と数値解析法で、実験結果を適切に再現できることを示している。特に、砂の内部の局所的応力経路は、破壊時の値に近い非常に大きな主応力比で拘束圧が増加する傾向を示し、局所的に最大応力比が発揮された後も、補強材内の引張り力が増加しつつ砂の圧縮強度が増加してゆく、と言う破壊メカニズムを明らかにしている。

 第7、8章は、複数の帯状補強材で補強された水平な砂地盤及び斜面上に配置された帯基礎の支持力試験の数値解析を説明したものであり、補強材の異なる面内密度、層数、剛性、配置深度の影響を適切に解析している。特に、潜在的すべり層と補強材の相互作用のために補強領域内部にすべり層が発生しにくいことを、模型実験での観察記録に照らし合わせて、明らかにしている。

 以上要するに、数値解析により引張り補強地盤・構造物の変形・破壊の現実的な解析結果を得る方法を示し、その上で引張り補強メカニズムを明らかにし、今後の本研究分野の発展及び実務設計の改善に寄与する新しい知見を与えている。これらは、土質工学に分野において貢献することが大である。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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