本研究は、放射線治療の際の腫瘍容積内の線量の不均一性、なかでも腫瘍容積内の低線量域が、局所制御に影響している可能性が定性的に示唆されている頭蓋底部の脊索腫症例を対象に、腫瘍容積に対する線量分布を線量容積ヒストグラム(dose-volume histogram:DVH)を用いて定量的に評価し、その局所制御との関係の解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.患者固有の因子、線量分布に関する因子、およびそれ以外の治療に関する因子と局所制御との関係を解析したところ、頭蓋底部脊索腫の放射線治療後の局所制御に対して統計学的に最も有意に相関のある因子として、多変量解析にて選択されたのは、性と腫瘍容積であった。男性あるいは腫瘍容積の小さな患者の方が、女性あるいは腫瘍容積が大きい場合に比較して、有意に予後が良好であった。 2.腫瘍容積内の線量の不均一性の影響を評価するために、性による層別化を行って最も強い因子であった性の影響を除き、DVHを用いて算出した線量分布に関するパラメーターを検討したところ、腫瘍容積内の最低線量や、腫瘍容積内の最低の5cm3線量は、局所制御と有意に相関しており、それらが低い方が局所再発率が高かった。これらの因子は腫瘍容積内の低線量域を反映していると考えられ、その存在が局所再発の原因の一つであることが示唆された。 3.Equivalent Uniform Dose(EUD:等価均一線量)も同様に局所制御と有意に相関していた。統計学的には他の線量容積因子よりも優れた予後因子であることは証明できなかったが、EUDは放射線生物学的基礎にもとづき、腫瘍の絶対容積の影響や、低線量域を含めDVH全体を反映したパラメーターであることから、腫瘍容積に対する不均一な線量分布を評価するのに有用なパラメーターであると考えられた。 4.処方線量と局所制御との間には有意な相関はみられなかったことから、腫瘍容積に対する線量分布が不均一な場合に、照射線量を表現する数値として処方線量を用いることには問題があり、実際に照射された不均一な線量分布を反映する因子で評価するべきと考えられた。 以上、本論文は、線量分布に優れた陽子線を用いることによって治療成績が向上した頭蓋底部の脊索腫に対する放射線治療において、腫瘍容積内の線量分布をDVHを用いて定量的に評価することにより、その局所制御が不良である原因の一つが低線量域の存在にあることを明らかにした。本研究はこれまで十分な定量的検討が行われていなかった、腫瘍容積内の線量分布と実際の治療効果との関係の解明に重要な貢献をなしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |