本研究は、HTLV-1キャリアー頻度が低率で遺伝的背景も西日本とは異なると考えられる関東地区のキャリアー妊婦について母子感染のハイリスクグループを特定するべくHTLV-1の感染病態を解析するため、母体血、臍帯血の抗体測定、抗原、プロウイルスの検出を行い、さらに胎内感染についても検討し、下記の結果を得ている。 1.関東地区の妊婦33036名を対象として妊娠中のHTLV-1抗体をスクリーニングし、陽性者の再検査、確認(確定診断検査)法を施行した結果、抗体陽性率は、スクリーニング検査(PA、EIA)法のPA(凝集)法で0.19%、EIA(酵素免疫)法で0.18%で、それらは確認(WB,IF)法のWB(ウェスタンブロット)法で0.18%、IF(間接蛍光抗体)法で0.19%となり、関東地区での妊婦のキャリアー率は約0.2%であることが示され、スクリーニング検査法の妥当性も示された。 2.各抗体測定法陽性検体の抗原陽性数(率)は、PA法で陽性64検体中40検体(62.5%)、EIA法で59検体中40検体(67.8%)、対して、確認法のWB法で58検体中41検体(70.7%)、IF抗体では62検体中41検体(66.1%)で、スクリーニング法の限界と確認法の実施の必要性が示された。 3.gag蛋白のみを抗原に用いたWB法の抗体(バンド)の出現パターンと母体ウイルス抗原検出(率)との関係は、p53、p28、p24、p19陽性群では39検体中25検体(64.1%)、p53、p24、p19に陽性群では3検体中1検体で陽性であったが、他の7検体では抗原陽性検体はなかった。さらにPCR(polymerase chain reaction)法によるプロウイルスの検出結果も加えて、このgag蛋白だけを抗原とした明瞭なWB法のパターン分類から感染状況をふくめた判定のできる可能性が示された。 4.母体IF抗体価と母体抗原陽性率との関係では、抗体価5-10倍で62%に対し、20倍以上で86%であり、高抗体価群で抗原陽性率が高いことが示された。 5.抗体陽性の妊婦40検体中28検体で抗原陽性であった。この28例の出産時の臍帯血2例(7.1%)で抗原が陽性であり、胎内感染の存在が示された。また、抗原陽性妊婦に胎内感染のハイリスクグループの可能性が示された。 6.プロウイルス陽性妊婦37検体の臍帯血では、3検体(8.1%)でプロウイルス陽性で、DNAレベルでも胎内感染の存在が示された。さらに、これら3検体の抗体価はPA法2048倍以上、IF法20倍以上の高抗体価群、そして母体抗原陽性群に3検体とも入り、胎内感染のハイリスクグループの可能性が示された。 以上、本論文はHTLV-1の母子感染において、non endemic areaの関東地区で研究を行い、母体及び臍帯血の抗体、抗原、プロウイルスの解析から、HTLV-1のキャリアー妊婦の診断法の確立と、胎内感染の存在を明らかにし、その胎内感染のハイリスクグループの抽出の検討をした。本研究により、判定に保留、false positive例の多かったキャリアー妊婦検査診断の確立、胎内感染を看過しての母子感染予防対策の再考、胎内感染研究の分野に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |