学位論文要旨



No 213892
著者(漢字) 松尾,栄人
著者(英字)
著者(カナ) マツオ,エイト
標題(和) ラジアルタービンの流動特性と空力設計法への適用
標題(洋)
報告番号 213892
報告番号 乙13892
学位授与日 1998.06.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13892号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉識,晴夫
 東京大学 教授 小林,敏雄
 東京大学 教授 長島,利夫
 東京大学 教授 荒川,忠一
 東京大学 助教授 谷口,伸行
内容要旨

 ラジアルタービンの空力設計においては内部流動のモデル化とその形状との関係を求めることが重要であり、完全三次元流動解析や実験を実施し、その結果を使ってモデル化を行っている。ラジアルタービンのスクロール、ノズル及び動翼の内部流動モデルの作成、その内部流動モデルに基づいた基本的な形状寸法、性能、内部流動の関係式の誘導、空力励振力の推定、それらの関係式を用いた空力設計技術の向上と空力設計の効率化を目的とした設計システムの構築を行ったものである。

 第1章「序論」では、本研究の目的、従来の研究の概要と経緯として、ラジアルタービンの性能推定法、内部流動の計測と解析、実用機の設計、適用技術等に分けて、技術の現状と課題を示している。その中で、経験式や流動解析に頼っている現状の設計では、翼枚数や内外径等の基本的形状寸法の空力的に合理的な決定方法が明確でないため、新しい形状の創出や設計の効率化が困難であり、経験式と流動解析を補完する形の流動モデルの構築、流動関係式の導出及び評価技術開発の必要性を示した。

 第2章「スクロールの内部流動」では、一般的な断面形状のスクロールの入口・出口の関係式を整理して損失及び圧縮性と流出角の関係を検討し、流出角は、非圧縮性の場合は、損失によっては変化しないが、圧縮性のある場合は、損失は密度の変化を介して影響するために小さく、圧縮性によって大きく変化することを明らかにした。

 また、従来の技術では、明確になっていない矩形スクロールの設計に必要な流出角や損失の特性を明確にすべく、スクロール内部及び出口の流動モデルを作成し、その関係式を導出している。スクロール内部流動モデルは、自由渦の流れの主流、側壁面上の平衡三次元境界層、内外周壁面上の二次元境界層で構成され、出口の流動モデルは、前二者で構成されている。これらの内部流動モデルに基づいて、損失の推定計算式、出口の流速及び流出角分布計算式を導出して、実験結果との対比、実験係数の導出等、計算と実験結果の両面からの検討を行っている。

 その中で出口の流速と流出角の計算式は、壁面からの計測されない距離を考慮しており、その距離による影響と距離が0の場合の修正を行っている。

 また、形状及びこの距離の異なる二つのスクロールの内部流動計測結果及びこの距離0の速度係数と流出角の修正値と速度係数の推定計算結果、理論流出角及び次記の式で求めた境界層厚さとを比較して

 (1)非圧縮性の場合の平均流出角は、実用的には理論流出角に等しいこと、

 (2)速度係数と平衡三次元境界層厚さの間には、

 

 ここで、は境界層厚さ、b1は出口巾、は速度係数である。

 が成立することを明らかにした。

 この結果は、矩形スクロールの形状設計に空力的な合理性を与えるものであり、空力設計を容易にしている。

 第3章「ノズルの内部流動と空力設計」では、従来、経験的に与えられていた翼枚数や入口・出口の半径を軸流タービンの翼列を等角写像して求める手法、簡便なノズル側壁間隙損失の推定式を作成して、その妥当性を検証している。

 更に、ラジアルタービンの高圧力比化に伴って発生しているノズルウェーク共振による動翼の破壊を予測し、回避するためのノズルウェーク空力励振力推定法の構築と翼形状の改善で空力励振力を低減する手法等について述べている。ノズルウェーク空力励振力推定法として、完全三次元粘性流動解析で求まる動翼入口の角運動量流束分布をフーリエ級数展開してノズル枚数次数の整数倍の係数を空力励振力の振幅として算出する方法を作成した。

 この方法を用いて4種のノズル翼型についての流動解析結果とその角運動量流束分布を比較した結果、角運動量流束分布はノズルの背面形状によって大きく変化し、背面曲線型の空力励振力が最も小さいことが明らかになった。このことから一般に超音速翼型として使用されている背面曲線型は低空力励振力の翼型であり、背面形状を最適化することによって更に低空力励振力の翼型設計の可能性があることを示した。

 流動解析と流速分布計測の結果、共振応力の推定結果と計測結果の比較を行い、推定誤差要因の分析や修正係数としての空力励振力係数の算出を行い、空力励振力係数を1次と2次で1/3,3次で1/2とすると振動応力を誤差10%以下で推定できることを明らかにした。その結果から空力励振力の小さな翼型の設計方法、空力励振力の推定法をまとめ、空力設計システムへ反映できるものとし、その高精度化のために必要な研究項目を抽出した。

 第4章「動翼の内部流動と空力設計」では、動翼の基本形状寸法推定法として、翼間の旋回流の式から翼面で逆流が生じない最小翼枚数を求める手法を作成し、その算出結果が現設計の翼枚数と良く一致すること、翼高さが高くなると翼枚数を少なくできることを明らかにした。また、圧力比の変化に伴う効率低下の一因である動翼の出口付近での逆流による効率変化の推定計算式を導出し、高圧力比設計のものを低圧力比で運転したときの効率低下を精度良く算出できることを示した。

 更に、準三次元から完全三次元非粘性の流動解析を動翼出口の流動計測結果で検証し、その適用性や問題点を整理して、高性能・高信頼性化のための研究開発の方向を検討している。その検討結果によると三次元流による旋回流が性能に大きく影響していると考えられることから、新型動翼として動翼出口部分の翼を背面側へ傾斜させて二次流れと翼根部の応力を低減した高性能・高信頼性のリーンバック動翼を開発して実用化した。このときに使用した動翼出口の二次流れの強さを評価するパラメータ、即ち出口の半径方向流速分布が二次流れの性能への影響評価に有用であることを示した。

 第5章「空力設計システム」では、従来の技術に加えて2、3、4章で得られた空力的な合理性を持つ設計関係式あるいは性能や信頼性の向上策を生かした空力設計システムについて述べ、その有用性を実機への適用実績に基づいて示した。

 このシステムは、空力的な合理性を持つため、設計の効率化に有効であり、一つのシステムで多くの分野での使用条件にも対応できるものである。このような特徴を生かして、新型の高圧力比・高性能・低空力励振力型のノズル形状、可変流量型ノズル等を有する過給機、小型ガスタービン、ガスエキスパンダー等の新製品開発にも活用されている。

 第6章「結論」では、本研究で得られた結果をまとめて述べている。

 本論文は、ラジアルタービンの内部流動をモデル化して関係式を誘導し、空力的に合理的な形状設計手法を作成した点、更にその結果を設計システムとして実用化し、多くの実機設計の実績を積んでいる点から、工学的な新規性と有効性を兼備したものである。

審査要旨

 本論文は,「ラジアルタービンの流動特性と空力設計法への適用」と題し,6章からなっている.

 ラジアルタービンの空力設計においては内部流動のモデル化とその形状との関係を求めることが重要であり,完全三次元流動解析や実験を実施し,その結果を使ってモデル化が行われている.

 本論文は,ラジアルタービンのスクロール,ノズル出口及び動翼の内部流動モデルの作成,その内部流動モデルに基づいた基本的な形状寸法,性能,内部流動の関係式の誘導,ノズルウエーク空力励振力の推定,それらの関係式を用いた空力設計技術の向上と効率化を目的とした空力設計システムの構築を行ったものである.

 第1章「序論」では,本研究の目的,従来の研究の概要として,ラジアルタービンの性能推定法,内部流動の計測と解析,実用機の設計,適用技術等に分けて,技術の現状と課題を示している.その中で,経験式や流動解析に頼っている現状の設計では,翼枚数や内外径等の基本的形状寸法の空力的に合理的な決定方法が明確でないため,新しい形状の創出や設計の効率化が困難であり,経験式と流動解析を補完する形の流動モデルの構築,流動関係式の導出及び評価技術開発の必要性を述べている.

 第2章「スクロールの内部流動」では,一般的な断面形状のスクロールの入口・出口の関係式を整理して損失及び圧縮性と流出角の関係を検討し,損失による流出角の変化は密度の変化を介して生ずるため小さいが,圧縮性による影響は密度変化に比例して流出角が大きく変化することを明らかにしている.

 また,矩形スクロールの設計に必要な流出角や損失の特性を明確にすべく,矩形スクロール内部及び出口の流動モデルを作成し,その関係式を導出している.スクロール内部流動モデルは,自由渦流れの主流,側壁面上の平衡三次元境界層,内外周壁面上の二次元境界層で構成し,出口の流動モデルは,前二者で構成している.これらの内部流動モデルに基づいて,損失の推定計算式,出口の流速及び流出角分布計算式を導出して,実験結果との対比,実験係数の導出等,計算と実験結果の両面からの検討を行っている.

 その中で出口の流速と流出角の計算式は,壁面からの計測点迄の距離,即ち計測されない距離を考慮しており,その距離による影響と距離が0の場合の修正を行っている.

 また,形状,計測されない距離の異なる二つのスクロール内部流動計測結果及び計測されない距離0の速度係数と流出角の修正値と速度係数の推定計算結果,理論流出角及び次式で求めた境界層厚さを比較して

 (1)非圧縮性の場合の平均流出角は,実用的には理論流出角に等しいこと,

 (2)速度係数と平衡三次元境界層厚さの間には,

 213892f02.gif

 ここに,は境界層厚さ,b1は出口巾,は速度係数

 が成立することを明らかにしている.

 この結果は,矩形スクロールの形状設計に空力的な合理性を与えるものであり,空力設計を容易にしている.

 第3章「ノズルの内部流動と空力設計」では,翼枚数や入口・出口の半径を軸流タービンの翼列を等角写像により求める手法や簡便なノズル側壁間隙損失の推定式を作成し,その妥当性を検証している.

 更に,ラジアルタービンの高圧力比化に伴って発生するノズルウェーク共振による動翼の破壊を予測・回避するためのノズルウェーク空力励振力推定法の構築とノズル翼形状の改善で空力励振力を低減する手法等の作成を行っている.ノズルウェーク空力励振力推定法として,完全三次元粘性流動解析で得られる動翼入口の角運動量流束分布をフーリエ級数展開してノズル枚数次数の整数倍の係数を空力励振力の振幅として算出する方法を作成している.

 この方法を用い,4種のノズル翼型について角運動量流束分布を比較した結果,角運動量流束分布はノズルの背面形状によって大きく変化し,背面曲線型のノズル翼の空力励振力が最も小さいことを明らかにしている.

 次に,ノズルウェーク空力励振力の推定結果を動翼の振動応力の解析結果及び計測結果を用い,推定誤差要因の分析や修正係数としての空力励振力係数の算出を行っている.空力励振力係数を1次と2次で1/3,3次で1/2とすると振動応力を誤差10%以下で推定できることを明らかにしている.その結果から空力励振力の小さな翼型の設計方法,空力励振力の推定法をまとめている.

 第4章「動翼の内部流動と空力設計」では,動翼の基本形状寸法推定法として,翼間の循環流の式から翼面で逆流が生じない最小翼枚数を求める手法を作成し,その算出結果が現設計の翼枚数と良く一致すること,翼高さが高くなると翼枚数を少なくできることを明らかにしている.

 また,圧力比の変化に伴う効率低下の一因である動翼の出口付近での逆流による効率変化の推定式を導出し,高圧力比設計のものを低圧力比で運転したときの効率低下を精度良く算出できることを示している.

 更に,準三次元から完全三次元非粘性の流動解析を動翼出口の流動計測結果で検証し,その適用性や問題点を整理して,高性能・高信頼性化のための研究開発の方向を検討している.その検討結果から三次元流による旋回流が性能に大きく影響していると考え,新型動翼として動翼出口部分の翼を背面側へ傾斜させて二次流れと翼根部の応力を低減した高性能・高信頼性のリーンバック翼を開発して実用化している.このときに使用した動翼出口の二次流れの強さを評価するパラメータ,即ち出口の半径方向流速分布が二次流れの性能への影響評価に有用であることを示している.

 第5章「空力設計システム」では,従来の技術に加えて2,3,4章で得られた空力的な合理性を持つ内部流動モデルや関係式に基づいて作成した空力設計システムについて述べ,その有用性を実機への適用実績で示している.

 また,このシステムは,空力的な合理性を持つため,設計の効率化に有効であり,多くの分野のラジアルタービン設計にも活用できることを示している.

 第6章「結論」では,本研究で得られた結果をまとめて述べている.

 上記のように本論文は,ラジアルタービンの内部流動をモデル化して関係式を誘導し,空力的に合理的な形状設計手法を作成した点,更にその結果を設計システムとして実用化し,多くの実機設計の実績を積んでいる点から,機械工学,特に流体工学の発展に寄与するところが大きい.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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