学位論文要旨



No 213894
著者(漢字) 小町,恭一
著者(英字)
著者(カナ) コマチ,キョウイチ
標題(和) 超LSI製造用表面波プラズマプロセス装置に関する研究
標題(洋)
報告番号 213894
報告番号 乙13894
学位授与日 1998.06.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13894号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 鳳,紘一郎
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 助教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 小野,靖
内容要旨

 現在、プラズマを用いるプロセス技術は、超LSI製造プロセスでは欠かすことのできない技術となっている。デバイス高集積化の流れの中で、0.25mから0.1mの超微細加工をプラズマを使って達成することが期待されている。その一方で、よりコスト低減をめざしてさらなるウェーハの大口径化(200〜300mm径)が検討されている。すなわち、大面積でかつ高精細な構造を持つ薄膜デバイスを、その高機能・高品質性を失うことなく量産するためのプラズマプロセス技術が求められている。このようなプラズマプロセスを実現するためにプラズマ源に要求される性能は、高密度プラズマの生成、大口径で均一な分布、低圧力での生成、である。現在の主流である平行平板型RFプラズマ装置では、上記の要求を同時に満たすことが困難になってきたため、新たなプラズマ源を開発することが必要となってきた。

 本論文は、「超LSI製造用表面波プラズマプロセス装置に関する研究」と題し、次世代の超LSI半導体デバイスを製造するためのプラズマプロセスに対して要求される性能を実現するために、マイクロ波表面波を用いた新しい大口径かつ高密度プラズマ装置を考案し、実験によってその特性を明らかにすると共に,実際の各種プロセスへの適用について論じたものであって、全6章から成る。

 第1章は「緒言」と題し、次世代半導体デバイス製造工程においてプラズマプロセスに対して要求される性能について明らかにするとともに、従来より用いられているプラズマ装置及び最近開発されたプラズマ装置の技術動向および技術課題を説明し、本研究の背景と意図について述べている。

 第2章は「表面波プラズマ装置の原理と設計」と題し、マイクロ波導波路として誘電体線路を用いる新しいプラズマ装置を提案し、そのプラズマ発生原理を述べるとともに理論解析によるマイクロ波伝搬特性について論じている。誘電体線路をマイクロ波導波路とした。ここで述べている誘電体線路とは片面を金属板でおおわれた誘電体板で構成されたものであり、誘電体板に対向して真空チャンバを設置した。誘電体線路上には表面波と呼ばれるモードが伝搬し、その電界によって真空チャンバ内にプラズマを発生させる。このプラズマを表面波プラズマ(SWP)と呼ぶことにした。なお、高密度プラズマの表面にはプラズマ表面波と呼ばれる波が伝搬できるが、SWPではそれを広い面積にわたって励振することができる。このSWP装置の特長は、

 1)誘電体の面積を大きくすることによって容易にプラズマ発生面積を大きくすることができる、

 2)プラズマ条件の変化による誘電体線路内のマイクロ波伝搬への影響が小さいので、その伝搬特性が安定している、

 ということが挙げられる。

 この誘電体線路上の表面波によって発生したプラズマ(表面波プラズマ;SWP)を均一モデルで表し、マイクロ波とプラズマの一次元理論解析により、プラズマが存在しているときのマイクロ波伝搬特性と線路寸法の関係を明らかにし、マイクロ波回路としての装置設計の指針を示した。理論解析によると、プラズマ周波数がマイクロ波周波数以上になるような高密度プラズマが存在している場合でも、誘電体とギャップ長(誘電体とプラズマの間隔)をある値以上に大きくすればマイクロ波は誘電体線路に沿って伝搬でき、その結果マイクロ波はプラズマ表面波を広い面積にわたって励振できることを明らかにした。また、その設計指針をもとに、2.45Ghz、1.5kWのマグネトロンを用いて180mm×300mmのプラズマ発生面積をもったプラズマ装置を試作し、0.67〜500Paの広い圧力範囲において安定かつ均一なプラズマを発生できることを確認した。また、誘電体線路の形状がプラズマに及ぼす影響について、実測、理論計算の両方で評価し、高密度かつ均一なプラズマを発生させるための装置形状を決定した。

 第3章は「表面波プラズマの特性」と題し、試作したプラズマ特性測定用装置においてプラズマの電子密度、電子温度、イオン電流の基本特性、およびチャンバ内外の電界分布を測定した結果について述べている。イオン電流については1.3Paから13.3Paまで圧力が変化させて測定したが、天板から60mm離れた位置では圧力を変化させても比較的均一な分布を示した。圧力が1.3Paのとき、イオン電流の平均値14.2mA/cm2、面内均一性±11%が得られた。電子温度、電子密度については、低圧力化によって電子温度が上昇したが、他のパラメーターに対する依存性が小さかった。SWPの代表的な値としては、電子温度2eV、電子密度5×1011cm-3であった。従来の平行平板電極型RFプラズマ装置に比べると、SWP装置の方が高密度プラズマの生成が可能である。

 プラズマ発生中のチャンバ内外の電界分布と発生しているプラズマ分布とを比較したところ、誘電体線路のマイクロ波進行方向には正弦波状の定在波が存在するものの、発生したプラズマは均一であることことを測定によって確認した。このことは、マイクロ波を進行波にする必要がなく、誘電体線路の各部を短絡しても良いことを意味しており、この結果共振器構造を適用することによってマイクロ波電力吸収効率を高くすることが可能で、実用的に有利であることを示している。また、チャンバの天板から下に向かう方向では電界、プラズマ密度とも指数関数的に減少しており、表面波プラズマ装置では、プラズマはチャンバ上部の天板付近で生成され、チャンバ下部に向かって拡散することを明らかにした。

 第4章は「レジストアッシング、等方性エッチングへの適用」と題し、表面波プラズマ装置を半導体デバイス製造工程内のレジストアッシングおよび等方性エッチングプロアセスに適用した場合の装置構成とプロセス性能について述べている。通常のSWP装置のチャンバ内に金属製のシャワーヘッドを挿入し、プラズマと処理基板であるウェーハを分離する構造とした。これはプラズマ照射損傷をなくすことを目的としている。シャワーヘッドの効果によりウェーハ上にはほとんど荷電粒子が存在しないことを確認した。

 O2/CF4を用いたレジストアッシングプロセスでは、150mm径ウェーハに塗布されたレジストに対して、試料台温度30℃でアッシング速度2m/min、SiO2との選択比500を得た。このO2/CF4プロセスをAl合金エッチング後のマスクレジストのアッシングに適用し、Al配線の下地のSiO2をほとんどエッチングすることなくレジストをアッシングすることができた。エッチング条件によってはアッシングだけではレジスト残渣がある場合があるが、アッシング後の薬液処理まで行うことによって、残渣なくレジストを除去できるアッシングプロセスを確立することができた。このときの残渣にはAlが含まれており、O2/CF4プロセスだけでは完全除去することは困難であり、薬液処理が必要である。

 O2/N2を用いたレジストアッシングプロセスでは、アッシング速度とプラズマ照射損傷の点からシャワーヘッドの最適化を行った。シャワーヘッドの穴径を2mm以下、開口面積をできるだけ大きくして穴のピッチを3mmとすることにより、200mm径ウェーハに塗布されたレジストに対して、試料台温度200℃で1.9m/minの高アッシング速度が得られた。このシャワーヘッドを用いたときは、MNOSキャパシタをアッシング条件で処理してもフラットバンド電圧のシフトがほとんどなかったことから、デバイスに対するプラズマ照射損傷はないということができる。すなわち、損傷なしに高速アッシングができる高性能のアッシング装置である。

 レジストアッシングと同じ装置構成でガスだけを替えて、Poly-Siの等方性エッチングにも適用した。SF6/O2/Arを用いることにより、150mm径ウェーハ上のPoly-Siに対して、エッチング速度300nm/min以上、面内均一性±5%、SiO2に対する選択比80以上を得た。

 以上のように、SWPを利用したレジストアッシング装置、等方性エッチング装置は、高いプロセス性能を持ち、150mm径及び200mm径ウェーハを処理できる装置として確立することができた。再現性やパーティクルに関する評価も良好な結果を得ており、量産ライン用装置として稼働中である。

 第5章は、「酸化膜エッチングへの適用」と題し、半導体デバイス製造工程内の異方性エッチング、特に酸化膜エッチングに適用するための装置について設計・試作した結果を述べている。異方性エッチングを行うために、チャンバの天板直下に試料台と対向するように金属製の上部電極を配置し、ウェーハにRF電力を供給した。上部電極は電気的に設置されており、マイクロ波が透過できるように開口部を設けた。この開口部の形状は、イオン電流が均一かつ大きくなるように実験的に決定した。その結果、30mm幅のスリット状の開口形状が最も良いことがわかった。この構成によって発生させたArプラズマの密度は、圧力が4〜5Paでピーク値を示し、1012cm-3台の高い値を示した。また、イオン電流分布は直径200mmの円内で±10%の均一性を得ることができ、高密度かつ均一なプラズマが得られることがわかった。マイクロ波によってArプラズマを発生させ、さらにRF電力を印加したときのSiO2膜のスパッタ速度は、接地電極を設けることによって安定かつ均一な分布が得られるようになった。

 この装置を用いて実際にコンタクトホールをエッチングした。0.25m径、1.5m深さのホールをほぼ垂直な形状で形成することができた。0.35m径のホールのエッチング速度は、1.3m径のホールのエッチング速度に比べて5%低下、0.25m径でも15%低下で抑えることができ、マイクロローディング効果の小さいエッチングを実現することができた。

 以上示したように、SWPを用いて設計したエッチング装置は、64MDRAM以降のデバイスに必要とされる低圧力での高密度かつ均一なプラズマを生成でき、0.25m径のホールをほぼ垂直な形状で形成することができるので、次世代デバイスに適用しうる有力なエッチング装置である。

 第6章は、「結言」と題し、各章において述べられている表面波プラズマに関する研究成果を要約し、次世代超LSI製造用のプラズマ装置として有望であることを述べている。

 以上これを要するに本論文では、2.45GHzのマイクロ波電力を用いて、誘電体線路を導波路とする新しい表面波プラズマ装置を考案し、均一かつ高密度プラズマを発生させる条件を理論的、実験的に確認し、さらに実際のプロセスへ適用するための装置の工夫を行って、次世代半導体デバイス製造に必要な大口径かつ高密度プラズマの生成が可能であることを示した。

審査要旨

 本論文は、「超LSI製造用表面波プラズマプロセス装置に関する研究」と題し、次世代の超LSI半導体デバイスを製造するためのプラズマプロセスに対して要求される性能を実現するために、マイクロ波表面波を用いた新しい大口径かつ高密度プラズマ装置を考案し、実験によってその特性を明らかにすると共に,実際の各種プロセスへの適用について論じたものであって、全6章から成る。

 第1章は「緒言」と題し、次世代半導体デバイス製造工程においてプラズマプロセスに対して要求される性能について明らかにするとともに、従来より用いられているプラズマ装置及び最近開発されたプラズマ装置の技術動向および技術課題を説明し、本研究の背景と意図について述べている。

 第2章は「表面波プラズマ装置の原理と設計」と題し、マイクロ波導波路として誘電体線路を用いる新しいプラズマ装置を提案し、そのプラズマ発生原理を述べるとともに理論解析によるマイクロ波伝搬特性について論じている。具体的には誘電体線路上の表面波によって発生したプラズマ(表面波プラズマ;SWP)を均一モデルで表し、マイクロ波とプラズマの一次元理論解析により、プラズマが存在しているときのマイクロ波伝搬特性と線路寸法の関係を明らかにし、マイクロ波回路としての装置設計の指針を示した。理論解析によると、プラズマ周波数がマイクロ波周波数以上になる高密度プラズマが存在している場合でも、誘電体とギャップ長(誘電体とプラズマの間隔)をある値以上に大きくすればマイクロ波のカットオフ領域を回避でき、マイクロ波が表面波として伝搬できることを明らかにした。また、その設計指針をもとに、2.45GHz、1.5kWのマグネトロンを用いて180mm×300mmのプラズマ発生面積をもったプラズマ装置を試作し、0.67〜500Paの広い圧力範囲において安定かつ均一なプラズマを発生できることを確認した。また、誘電体線路の形状がプラズマに及ぼす影響について、実測、理論計算の両方で評価し、高密度かつ均一なプラズマを発生させるための装置形状を決定した。

 第3章は「表面波プラズマの特性」と題し、試作したプラズマ特性測定用装置においてプラズマの電子密度、電子温度、プローブにより計測されるイオン電流等の基本特性、およびチャンバ内外の電界分布を測定した結果について述べている。プラズマの電子温度、電子密度を測定した結果、従来の平行平板型RFプラズマよりも高密度で、最近開発された高周波誘導結合型発生装置と同等の高密度を有するプラズマが生成されていることを明らかにした。また、プラズマ発生中のチャンバ内外の電界分布と発生しているプラズマ分布とを比較したところ、誘電体線路のマイクロ波進行方向には正弦波状の定在波が存在するものの、発生したプラズマは均一であることことを明らかにした。このことにより、マイクロ波を進行波として伝搬させる必要がなく、共振器構造の適用を可能とすることによってマイクロ波電力吸収効率を高くすることが可能で、実用的に有利である。また、チャンバの天板から下に向かう方向では電界、プラズマ密度とも指数関数的に減少しており、表面波プラズマ装置では、プラズマはチャンバ上部の天板付近で生成され、チャンバ下部に向かって拡散することを明らかにした。

 第4章は「レジストアッシング、等方性エッチングへの適用」と題し、表面波プラズマ装置を半導体デバイス製造工程内のレジストアッシングおよび等方性エッチングプロセスに適用した場合の装置構成とプロセス性能について述べている。アッシング時のデバイスへのダメージを回避するために、装置としてプラズマとウェハを分離するための小さな穴を多数あけた金属板(シャワーヘッド)を設置する方式を採用した。O2/CF4ガスを用いての室温アッシングにおいては、高速かつ高選択比のアッシングプロセスを実現し、Al合金エッチング後のレジスト除去に適用できることを示した。O2/N2ガスを用いての高温アッシングにおいては、シャワーヘッドの穴径、開口面積の最適化を行い、高速かつダメージフリーのプロセスを実現できる高性能のアッシング装置を開発した。さらにPoly-Siの等方性エッチングにも適用し、高速かつSiO2に対して高選択比のプロセスを得た。

 第5章は、「酸化膜エッチングへの適用」と題し、半導体デバイス製造工程内の異方性エッチング、特に酸化膜エッチングに適用するための装置について設計・試作した結果を述べている。試料台に対向する位置に接地した上部電極を設け、装置内に設置した試料台との間に高周波電力を印加することによって、ウェハに対して安定かつ均一な高周波バイアスを印加できる構成を実現した。この構成において、エッチングプロセスに必要な低圧力において高密度プラズマが得られることを確認した。このときのプラズマ特性の測定とともに、実際に酸化膜のエッチングを行い、この装置が次世代半導体デバイスに必要な0.25m径のコンタクトホールを形成できる微細加工性を有することを明らかにした。

 第6章は、「結言」と題し、各章において述べられている表面波プラズマに関する研究成果を要約し、本装置が次世代超LSI製造用のプラズマ装置として有望であることを述べている。

 以上これを要するに、本論文では2.45GHzのマイクロ波電力を用いて、誘電体を導波路とする新しい表面波プラズマ装置を考案し、均一かつ高密度プラズマを発生させる条件を理論的、実験的に検討し、さらに実際のプロセスへ適用するための種々の技術的工夫を行って、次世代半導体デバイス製造に必要な大口径プロセスプラズマの生成が可能であることを示したものであって、電気工学上貢献するところが多い。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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