骨形成因子(Bone Morphogenetic Protein;BMP)は、異所性骨/軟骨形成誘導活性を有する蛋白性因子であり、BMP-2〜BMP-8は110〜140アミノ酸の成熟体分子がS-S結合により二量体を形成し、TGF-サブファミリーに属するものである。BMPは、骨格形成のみならず、腹側中胚葉の誘導、背腹軸決定、種々の臓器や歯の形成における上皮-間葉相互作用等に重要な役割を果たしていると考えられている。このようなBMPの多彩な機能の解明のためには、受容体の構造とともに、骨以外の形態形成活性を有するBMP類縁因子の解析が必要である。本論文は、このような背景のもとで、新規BMP受容体及び新規BMP類縁因子の遺伝子をクローン化しその機能を解析した結果をまとめたもので、本文は5章よりなっている。 研究の背景と意義を述べた第1章に続き、第2章では、新規なI型BMP受容体の遺伝子クローニングとその特性の解析結果が述べられている。TGF-スーパーファミリーに属するアクチビンの受容体ActR-IIと線虫のdaf-I遺伝子産物の間で保存された配列に基づくプライマーによるRT-PCRで得たプローブを手がかりに、ハイブリダイゼーションを繰り返して、相同的な構造をもつ5種類のセリン/スレオニンキナーゼ型受容体遺伝子をクローン化した。このうち、502アミノ酸のCFK-43aと532アミノ酸のCFK-23aは、85%のアミノ酸が一致しており、配列の特徴からI型受容体に分類された。これらはCOS細胞で発現させると、各々単独で特異的にBMPと結合した。リガンド特異性としては、いずれにもBMP-4とBMP-2がよく結合し、特異性・強度ともCFK-43aが優っていた。発生過程のマウス四肢において、CFK-43aは骨になる予定の前軟骨性間充織に特異的かつ一過性に強く発現しており、新生児になると発現はきわめて弱かった。前軟骨性間充織はBMP-2を発現する間葉系細胞群に囲まれており、リガンドとレセプターが隣接した位置に発現していることになる。一方、CFK-23aは脾臓を除く広い組織分布を示した。 第3章では、新規なBMP類縁因子hBMP-12,hBMP-13の遺伝子クローニングとその特性の解析結果が述べられている。BMP-2〜BMP-8に保存されている配列に基づくプライマーを用いたPCRによってプローブを作製し、ヒト染色体DNAからMBP類縁因子の成熟体領域をコードしうるDNA断片を得た。このうち、hBMP-12,hBMP-13はマウスのGDF-7,GDF-6及びヒトのhGDF-5と81〜86%のアミノ酸が一致しており、新規なサブファミリーに属する。大腸菌で発現・調製したhBMP-12は、担体に結合させてラットの皮下や筋肉中に埋植すると、組織学的及び生化学的に腱/靭帯組織と認められるものを形成誘導した。同様の処理で、hBMP-2の場合は骨/軟骨組織を形成誘導することから、hBMP-12とは明らかに異なる受容体を介している。また、発生過程においてBMP-12は、他のBMPと異なり、肩甲骨の腱/靭帯の形成付着部及び指の先端の腱の付着部に隣接した領域で発現していた。 第4章では、第3章で述べたhBMP-12が第2章で述べたCFK-43aを介して情報伝達を行なう可能性について調べた結果が述べられている。まず、標識BMP-4の結合に対する阻害を検討したところ、BMP-4,BMP-2に比べると弱いながらhBMP-12がCFK-43aに結合することが分かった。そこで、分化誘導活性の有無を細胞レベルで検討した。マウス筋芽細胞C2C12株はBMP2には応答しhBMP12には応答しないが、CFK-43aを発現するようになった形質転換細胞株は、hBMP-12によりアルカリ性ホスファターゼ産生誘導などの骨系への分化誘導応答を示した。これらの因子と受容体は発生過程で発現部位が隣接していることから、腱/靭帯と骨の付着部の形成誘導に関与していると考えられる。 第5章は論文全体の総括で、今後の展望についても考察されている。 以上、本論文は骨形成因子の新規な受容体と類縁因子の遺伝子をクローン化し、性質を調べるとともに、これらが骨と腱/靭帯の付着部形成に重要な役割を果たしている可能性を示したもので、学術上応用上寄与するところが少なくない。よって、審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 |