本研究はヒト表在性膀胱癌の発育に焦点をあて、血管新生誘導因子VEGF(vascular endothelial growth factor)のヒト膀胱癌での発現と、ラット表在性膀胱癌の系を用いて血管新生阻害剤TNP-470による再発予防の効果を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.東京大学附属病院で治療した膀胱癌患者から得られた膀胱癌組織におけるVEGFmRNAの発現をRT-PCRで解析した結果、2例の正常膀胱粘膜ではmRNAの発現を認めなかったのに対し、15例の膀胱癌組織では全例に発現を認め、癌組織におけるVEGFmRNAの過剰発現が示された。 2.抗VEGF抗体によるヒト膀胱癌の免疫染色を行った結果、腫瘍細胞および血管内皮細胞の染色性は浸潤癌よりも表在癌に強く、更に基底膜に近い細胞ほど強く染色される傾向を認めた。 3.血管新生阻害剤TNP-470の腫瘍細胞および血管内皮細胞への作用をin vitroで検討した結果、腫瘍細胞に比べ血管内皮細胞の増殖を選択的により低濃度で抑制し、また血管内皮細胞の遊走も抑制することが示された。 4.TNP-470の表在性腫瘍の再発抑制効果をラット表在性膀胱発癌モデルを用いた結果、局所投与したTNP-470は少量でラット表在性膀胱癌の発育を抑制することが示された。 以上、本論文はヒト膀胱癌、中でも表在性膀胱癌の発育にVEGFが強く関与していることを明らかにするとともに、新しい血管新生阻害剤であるTNP-470がラット表在性膀胱癌の発育を抑制することを示した。本研究はヒトの表在性膀胱癌の臨床上の最大の問題である再発予防への臨床応用が期待され、学位の授与に値するものと考えられる。 |