審査要旨 | | 本論文は「0.05mCMOSデバイス技術に関する研究」と題し,シリコン大規模集積回路(VLSI)に用いられるCMOSデバイスの微細化技術とその物理現象の解明および将来への指針を明示することを目的としている.MOSFETの新構造を提案,実証してVLSIの性能向上や低電圧化の指針を示し,また微細MOSFETの物理現象を解析してデバイス中のキャリアの振舞について知見を得るとともに,将来の微細MOSFETの可能性を探り微細化限界および性能限界に言及しており,全7章より構成される. 第1章は「序論」であり,MOSFETの研究開発の経緯を述べ,スケーリング則の破綻に伴うMOSFET微細化の課題について述べるとともに,最新の微細MOSFETの研究動向を示して本論文の目的を明確にしている. 第2章は「高速0.25mCMOSデバイス」と題し,新しく提案する高速・低消費電力デバイスSPIについて述べている.SPI技術はドレイン接合容量を増大させることなく短チャネル効果を抑制できる方法であり,ゲート電極とドレイン電極上のチタンシリサイド薄膜をマスクとするポケットイオン注入である.本章では,このデバイスが高速かつ低消費電力の集積回路に適していることを実験により明らかにした.接合容量は従来型のMOSFETの40%程度であり,また短チャネル効果も0.21mまで抑制されることを示している. 第3章は「0.25mCMOSの低電圧化に関する研究」と題し,改良型のSPI-MOSFETのキャリア速度およびホットキャリア信頼性について議論し,さらに低電圧動作の課題を明確にしてその解決策を提案している.まず,この0.25mのデバイスのキャリア速度は非常に高く,シリコンの飽和速度に近い値になっていることを示し,それをデバイスシミュレーションを用いて説明した.またホットキャリア信頼性が劣化しないという実験結果もシミュレーションにより説明できることを示し,本デバイスの実用性を明らかにしている. 第4章は「シリコンの選択エピタキシャル成長を用いた新しいMOSFET」と題し,シリコン基板に素子分離酸化膜をパターニングし活性領域にのみ超高真空気相成長法を用いた選択エピタキシャル単結晶シリコンを形成する方法について述べている.この方法は接合リークを抑制するとともに,素子分離領域の段差を極めて小さくできることを実験的に示し,狭チャネル効果の見られないゲート幅0.3mのMOSFETの試作と動作確認を行っている. 第5章は「極微細MOSFETのインパクトイオン化現象」と題し,微細MOSFET中の物理現象に焦点をあてている.特に,ドレインの高電界領域で起こるインパクトイオン化について実験結果に基づき詳細に解析し,ゲート長が0.2m以下の領域でインパクトイオン化が飛躍的に大きくなること,この現象がシリコンのバンドギャップ以下のエネルギーで観測される現象と関連があること,しかもこの現象が微細MOSFETのノンローカル効果を示していることを明らかにした.また,この現象に対する解決策の展望についても示してある. 第6章は「0.05mCMOSFETの作成と評価」と題し,前章までの結果および考察に基づく世界最小サイズの0.05mCMOSFETの設計,作成プロセスおよび評価結果について述べている.浅接合化は低エネルギーイオン注入によって作成し,その深さはNMOSで17nm,PMOSで44nmというこれまでにない値を達成している.短チャネル効果は最小ゲート長の0.05mまでほとんど観測されない.また,CMOSインバータの遅延時間はゲート長0.05mにおいて1.5Vで18.9psである.この0.05mデバイスは,世界最小のCMOSデバイスであり,今後のMOSFETの微細化やシリコンLSIの可能性を議論する上で非常に意義深い研究成果である. 第7章は「総括」であって,本論文の結論を述べるとともに,シリコンMOSFETの微細化限界および将来の可能性に言及し本論文を総括している. 以上のように本論文は,CMOSデバイスを0.05mまで微細化させるデバイス技術として新しいデバイス構造を提案しその性能を実験的に実証するとともに,微細デバイス中の物理現象を探究し将来の集積回路デバイス微細化の指針を明確に示したものであって,電子工学上寄与するところが少なくない. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |